変な少年
「サイテー!」
乾いた音が響いた。
バンの頬に平手が飛ぶ。
「いてっ!」
目の前の女性は怒りで顔を真っ赤にしていた。
「もう二度と顔見せないで!」
「寝てねーっつうのに」
「そういう問題じゃない!」
女性は踵を返す。
そのまま友人らしい女性たちと去っていった。
バンは取り残される。
周囲の視線が痛い。
「……何だよ」
頬をさする。
確かに昨日は別の女の子と飲んでいた。
でもそれだけだ。
だから問題ないと思っていた。
「面倒くせぇなぁ……」
ため息を吐く。
恋愛は好きだ。
女の子も好きだ。
でもこういうのは苦手だった。
「しばらく町には戻れねぇな」
ぼやく。
森へ向かうことにした。
獣でも狩って時間を潰そう。
木々の間を歩く。
風が気持ちいい。
その時。
遠くから悲鳴が聞こえた。
バンは足を止める。
気のせいかと思った。
だが、もう一度聞こえる。
「……女か?」
バンの顔が少し明るくなる。
「助けるしかねぇな」
森の奥へ駆け出した。
開けた場所に出る。
魔物が三匹。
狼のような姿をしていた。
その先にいたのは、一人の人影。
体格は細い。
フードを深く被っている。
遠目には女にも見えた。
「危ねぇ!」
バンは飛び出した。
魔物が振り向く。
剣を振る。
一匹。
二匹。
最後の一匹が悲鳴を上げて逃げていく。
静寂が戻った。
人影がこちらを見る。
「助かりました」
落ち着いた声だった。
バンは瞬きをする。
「……」
男。
「……男かよ」
「はい?」
「いや、何でもねぇ」
期待して損した。
「じゃあな」
踵を返す。
「待ってください」
服の裾を掴まれた。
バンは振り返る。
「何だよ」
「お願いがあります」
嫌な予感がした。
「一緒に来てくれませんか」
「嫌だ」
即答だった。
「なぜですか」
「男だから」
「……はい?」
「俺、可愛い女の子限定なんだよ」
少年はしばらく黙った。
それから真顔で言った。
「お金ならあります」
「ん?」
袋の口が開く。
金貨がじゃらりと顔を出した。
バンの目が見開かれる。
(いいカモ見つけた)
「お前」
「はい」
「いいもん持ってんじゃねぇか」
少年は首を傾げた。
「足りますか?」
「足りる足りる」
バンは即答した。
(ちょろいな)
「で?」
「クリスタルを探しています」
「……は?」
少年は真顔だった。
どうやら冗談ではないらしい。
バンは頭を掻く。
「ちなみに」
「はい」
「どこまで行くつもりなんだ?」
「次の町です」
「次の町?」
「そこで情報を集めます」
バンは少し考えた。
クリスタル探しなんて馬鹿げている。
だが。
次の町までなら大した距離じゃない。
金貨も貰える。
悪くない話だった。
「しゃーねぇな」
バンは頷く。
「次の町までだ」
「?」
「護衛してやる」
少年の顔が少し明るくなる。
「本当ですか?」
「ああ」
「ありがとうございます」
「その代わり」
バンは指を立てた。
「金貨一枚」
「わかりました」
即答だった。
(ほんと変な奴だ)
「俺はバン」
「はい」
「お前は?」
少年は少しだけ間を置いた。
「……レイです」
「レイか」
バンは笑う。
「じゃあ行くぞ」
こうして。
旅人バンと、
クリスタルを探す少年レイの短い護衛旅が始まった。
この時のバンはまだ知らない。
その『次の町まで』が。
思ったよりずっと長く。
そして。
かけがえのない旅になることを。




