刹那に誓う永遠の想い 6
こけた。盛大にこけた。私ではなくルアンが。
◇◇◇
今までの行動を説明すると、まずルアンはお餅を二つほど頬張り、その後周りをキョロキョロと確認しつつ、コーナーにあった餅をなぜか少しだけ残しておきながらインベントリに詰め込んだのである。まあよほど美味しかったのだろう、理解できなくもない行動であったが。その後ルアンは、何を思ったかレジを発見すると意気揚々とそこを通ったのである。
「へえ、やっぱり似てるなぁ。ほとんど同じように見える」
いやなぜ!?なぜに!?なぜそんなアホらしいことばかりできるのか。あと「似てるなぁ」じゃない。なんでそんなに呑気なんだ。理解に苦しむ私であったが、次の瞬間ルアンは盛大にこけた。スキル越しだったためか、しっかりとドンッという音も聞こえ、なんならルアンの「うおっ!?」という声も聞こえたほどである。
流石のルアンも警戒したのか、20秒ほどして一度立ちあがろうとしたものの、踏みとどまり追加で3分経ってから立ち上がった。ああ、彼もまともな判断はできるんだな、と感心しつつ、ルアンの周囲の様子を伺う。そして、大丈夫だと踏んだルアンが一歩目を踏み出し、ショッピングモールの地面に「トンッ」と着地したその瞬間。
ドンガラガッシャーンッ!!!!ドドーンッ!!ガシャーンッ!!
いや、驚く驚かないの次元ではない。突然のことに私も呆けてしまい、彼も口をあんぐりと開けてショッピングモールの食品コーナーが崩れ去る様子を見守っている。
いつもならそんなに無防備だったら危ない、とツッコんでしまうが、あいにく私も同じ状態なため何も言えない。その後数十秒でショッピングモールの食品コーナーは崩れ去り、思考が回復する前に敵の姿が。
「ちょっ、ゴーレム!?」
小声ではあるものの、驚きからつい言葉が口に出てしまった。その間にルアンはゴーレムのうち一体に発砲されたようで、警戒をどんどん高めていっている。あ、おいちょっと待てなんでそんなに喧嘩を売るような顔つき、目つきでゴーレムを見ている。やめなさいルアン。そう思った次の瞬間、
バシュンッ!!ビュン!ビィィィィィッ!ズドンッ!バシュゥッ!パンッ!バスッ!バシュンッ!!ビュン!ビィィィィィッ!
とゴーレムが銃を放った。危ない、と咄嗟に言いそうになって、彼の反応速度に驚く。やはり彼もゲーマー、そのあたりは心配しなくてもよかったかもしれない。
その避ける軌道を一言で表現しろ、というのならば、「キモい」と言わざるを得ない。おそらく狙いを集中させないことが目的なのだろうが、右へ行ったり左へ行ったり、上へ行ったり後ろへ行ったり。というかあれって八艘跳びだよね?趙高機動プレイヤーしか獲得できないっていうあれ。普通、ヴォルトシリーズのスキルはマルチヴォルトまで進化させたら、その後はひたすらマルチがトリプル、トリプルがクアドラプルへと進化する。まるでレベルが上がるかのような進化だ。しかし、高機動戦士たちの中に、それが稀に「八艘跳び」へと進化する者がいるのだという。八艘跳びの効果は「一定時間空を蹴って移動することが可能になる」だ。そして、八艘跳びは九艘跳び、十艘跳びへと進化をしていくのだとか。それならば、先ほど空を翔けていたのも納得である。
しかし、問題は性能ではなく取得条件だ。今の所、八艘跳びの所持者は皆無と言っても過言では無い。よほど使い込むか、あるいは圧倒的な適性があったか。おそらく彼は後者だろう、とエトーは判断する。あんな初心者プレイヤーが初心者レベルの「使い込み」をした程度で八艘跳びを手に入れられるほど「使い込み」の条件が甘いとは思えない。
エトーがそんな思考をしている最中でも、彼の変態機動は止まらない。途中、一度弾丸がルアンの首元に直撃した時、ルアンはビクッとしていたから、おそらく相当なダメージが入ることをようやく理解したのだろう。ちょうどそのタイミングで、彼から出ていたスキルのエフェクトが消えていく。リキャストタイムだ。先ほどから目をつけていたのか、ちょうどよく身を隠せる隙間にルアンが跳び込んだ。まあ賢明な判断だろう、2階ならその分見つかりにくいだろうし。また、おそらくリキャスト待ちに合わせてゴーレムたちの情報整理も行うつもりだろうな、と考える。というかゴーレムたちのヘイトを切るのが簡単すぎやしないだろうか。こっちの考察じゃ都市を守ってるんだって結論が出てるんだから、もうちょっと真面目に働いてほしいものである。
少し時間が経ってから、ルアンが隠れていた場所からゆっくりと出てきた。もう既にスキルのエフェクトが二つほど出ている。片方は先ほどからずっと出ているから、新しく追加したのはあまり多くないかもしれないが。落ちるギリギリまで着いたところで、彼から上がるエフェクトが増えていく。これでどれだけの速度が出るのか見ものである。そして、彼は大きく体を引き。
「ニィィィィィドルバァァァァストォォォォォォォッ!!!」
まるでバネのように。ルアンは一気に加速した。鞭のようにしなる左の剣はピンと張り、慣性の法則やら何やらの勢いが全て乗った一撃がゴーレムへと突き刺さる。
「すごい……」
素直な感想が漏れた。あのしなる剣をどうやって操っているのだろうか。あの硬い装甲をどうやって突き破ったのか。聞きたいことはそれなりにある。そんなことを考えていたエトーだが、あるいは、気づいていたのは彼女だけだったのかもしれない。
「……っ!!」
見えた。いや、感じたのか。どちらでもいい、とにかくわかった。今の一瞬、攻撃がクリティカルヒットし、一撃で倒せたゴーレムがポリゴンになっている間、ルアンの緊張の糸が一瞬だけ緩んだ瞬間。視界の外から、突如として影が走っていき、ルアンの目の前に一瞬で移動した。最初に出てきた感情、それは「恐怖」だ。なぜなら……
そのゴーレムは私の方を見ていたから。
私は、存在を見透かされているにも関わらずあえて見逃されていたのだと、ゴーレムの強さはこんなものではないと、思い知らされた。ルアンの反応はというと、わずかなタイムラグを挟み、スキルエフェクトが一つ増え、次の瞬間一気に、それこそ逆再生かと見紛うほどに、跳躍した。
一つ小tなる点があるとすれば、それは戻った位置だろう。先ほど、ルアンが飛び出したのは2階。しかしながら、今の跳躍で、ルアンは3階まで飛び上がったのだ。しかも、後ろ向きで、である。ルアンも相当に焦ったようで、息切れなどするはずのないこの世界で肩を上下させていた。
それは、わずか5秒にも満たない間であった。しかしながら、その一瞬の間に、力の差を見せつけられ、戦いは仕切り直しになったのだ。




