彼女の変化
「だから結衣は、正志を避けるようになった?」
「それ以外にないと思います」
「でも、結衣には感情がないんですよ。そんなこと考えるでしょうか?」
「私は、結衣が全ての感情を無くしたとは思っていません。きっと心のどこかに眠っているんだと――そう思っています」
「私も、そうであって欲しいと思っています」
「絶対にそうです。希望を失ってはいけません」
結衣の母親は、頬を流れる涙を拭っていた。
「上城さん、すごい観察力ですね。ビックリしました」
「これでも精神科医ですから、人の表情や体の動きは常に気を付けて見るように心掛けています。それより正志くんと結衣の関係ですが、お互いが自分自身を許し、素直になって向き合えれば問題は解決すると私は思います」
「難しいかもしれませんね」
「難しいけど、それしかないと思います」
それから数週間、正志くんは独り暮らしの友達の家を転々として過ごし、家には帰って来なかった。
「中山さん、こんにちは」
「――――」
「中山さん、どうされました? 顔色がすぐれませんよ」
「先生、私――」
今日の午前のカウンセリングには男性依存症の中山早紀さんが、数週間ぶりに来られていた。
「この前、雑誌で中山さんの写真を拝見しました。とてもキレイでしたよ」
「先生、ありがとう」
中山さんの消え入りそうな小さな声に嫌な感じがした。
「海外で撮ったものなんですよね?」
「はい、そうです」
「中山さん、お付合いされている方と何かあったんですか?」
「えぇ」
「別れたんですか?」
「フってやりました。だって私の他にも女がいたんです。どうしてこんなに尽くして来たのに浮気なんかされなきゃいけないの――。どうしていつも私ばっかり、こんな目にあわなきゃいけないの――」
そう言うと中山さんは大声で泣き出してしまった。
「私は中山さんが悪いとは思っていませんよ。ただ、そんな中山さんの一途でひたむきな愛を重いと感じてしまう男性の方もいると思うんです。恋愛観の違いなんでしょうが、中山さんみたいに四六時中恋人と一緒にいたいと思っている人もいれば、時々会えればいいと思っている人もいます。また、これが最後の恋にすると思っている人もいれば、色んな異性と数多く付き合って色んな経験をしたいと思っている人もいます」
「それなら私はどうしたらいいの?」
「焦らないことだと思います。必ず中山さんと同じ恋愛観、価値観を持った男性と出会えるはずです。その時まで中山さんらしい恋をしていけばいいと思います」
「でもそうしたら、また浮気されて裏切られちゃう」
「そうなる前に私のところに来て、相談して下さい。但し、私は恋愛のプロフェッショナルではありませんので保証は出来ませんが、中山さんの話を聞いてアドバイスをすることぐらいは出来ます」
「ありがとう、先生――」
「それに恋愛以外にも世の中には興味深く楽しいことが沢山あります。恋愛以外に夢中になれることを探してみるのもいいかもしれません」
「はい、頑張って見つけてみます」
中山さんは、笑顔で部屋を出て行った。でも私には、その笑顔の裏に隠れた深い悲しみを少なからず感じ取ることが出来た。




