7話
那古野の城で地道に働いていた木下藤吉郎
ある日……
藤吉郎が那古野の御城で働いて一年半弱が経った
藤吉郎は持ち前の人たらし、人心掌握の才能を遺憾無く発揮し
小者衆の中でも一目置かれ、組の中でも皆を統率できる程の発言権のある地位となっていた
だが、驕る事は無く小者衆の皆に分け隔てなく笑顔を振る舞い声を掛けていたと言う
そんな小者としての日々を過ごしていたある日の事…………
突然、織田信長は居城を移ると言う旨を城の者みなへと伝えた
次なる御城はかつて信長の実父信秀が居住していた御城、そして敵である織田一族の織田信友が居住していた清須の御城である
那古野の城と今の仕事に慣れきり居心地は良いが、繰り返される日常に若干の倦怠を感じていた藤吉郎の心は少し高揚感をおぼえた
もしかすれば何か良い方向へと変化が訪れるかもしれない、と
この退屈と感じていた生活から侍へと成れる道が開かれるのではないか、と
藤吉郎の胸の奥には変化を期待していたのである
ただ、大殿様はなんで城をお移りなされると決めたんだろう
前年、美濃の斎藤道三が死んだ事により、美濃攻めを考慮して那古野よりやや北の清須に移るんだろうかそれともただ那古野の周りより、人が多い清須をお選びなさられたんだろうか
その辺りに関しては不明であったが一つ分かっている事がある
信長様はすぐに清須城には移ろうとはしないと言う事
…………御敵である織田信友のおった城そのままに住まうは好かぬ
こう言う話を大殿がおっしゃられたと言うのは人伝に耳にした
そのままに住まうのは好まぬ
つまり城を改修すると言う事である
藤吉郎は胸が踊った
まだ大殿信長様に対して何ひとつ貢献せんまま時が過ぎていったが、ようやくワシに好機が訪れたのか
こう言う機会で目を見張る程の働きすりゃあ必ず大殿様の目に止まる…………
幼い頃から聞いた母の言葉
『人の為に何かすりゃあ必ず目ぇ掛けてもらえるでよぉ』
優しい母の声がはっきりと思い出される
少し目頭が熱くなったがぐっと堪える
『……やったるで、なんでもやったるがや……』
数日後の早朝、那古野近辺の大工と小者衆の一部は団体を作り清須の御城へと向かっていた
屋敷を破壊し、建て替え、壕を掘り返し、新しく綺麗な御城に作り替える
相当過酷な作業とは分かっていたが、藤吉郎は妙なやる気に満ちていた
『大変な大工作業は他のもんに任しときゃあええがや、わしは壕掘って周りのもんに指示して働いとるとこ見せりゃええで』
そう思うと田んぼだらけの広い濃尾平野を見渡す
『効率ええように動かんと…………なんでもかんでも全力でやっとったら体もたんでよ』
黙々と清須へと進む隊列の中、藤吉郎はそう思い上空を見上げた
尾張の空は快晴で雲ひとつなく、鷹が遥か上空を旋回していた………………




