まず進むべきは、道の先。 前編
前作Twinの続編、「Trois」です。
よろしくお願いします!
ここアルギシア王国は、大陸の西にある、一部冷帯と熱帯を含む、温帯気候の島国である。
1000年と少し前に、大陸の西端の国ユージェニック・クイントスの一部の民が国に反感を覚え移住、開拓し、出来た国だ。
ハル・アルギシア陛下が統治するこの国は、2つの城を構える。ひとつは、前陛下や陛下のご弟妹が住まう中央の城アルヴァ―リア。もうひとつが、ここ東側にある、アルフェリア城だ。アルフェリアは政治の城、そして軍事拠点の城とされている。
アルフェリアに仕える兵士となれば、それだけでひとつの立派過ぎる肩書きといえるほど、エリートだらけ。そして同時に、貴族だらけともいえる。それは一定の位ある家名を持つものならば、推薦で一定の位からは得られるからだ。余程のポンコツでない限りは、だが。そういう人間は、その先の出世が出来ないから、気にしなくていいとお父さんが言っていた。
平民が城付きの兵士になるには、まず見習いの試験を受ける必要がある。受験者総勢のトーナメント方式で、勝ち上がった4人が合格という、なかなかに難関で、かつ実力重視の試験だ。
そして今まさに、その試験は行われている。
「―――始め!」
私は、決勝まで勝ち上がったもう一組の試合を、観戦席から眺めていた。
準決勝が終了し、私は何も問題なく勝ち上がってしまっていた。馬鹿みたいに稚拙な剣の使い方を相手がするもんだから、思わず呆れ顔が出そうになってしまって、そっちを抑えるのが大変だったくらい。
つまり何の面白みもないが、試験は突破してしまったと、そういうことだ。
現在あっているのは緑ブロック後半の準決勝。今の下段はタイミングが速過ぎる。のに次は遅い。精度が著しく乏しいなど、片方が下手なものだから、さっさと決まってしまった。
私は、勝った方を凝視する。
見た感じでは私と歳は変わらない。ちょっとスマートなガキ大将という感じの風体で、選択した木刀は重いものだ。お父さんとちょっと似た感じのタイプか。
次は試験とは関係なく、能力を見るための決勝戦。そこで私は、そいつに当たる。
何としても勝つ。私は、超が千個つく程の負けず嫌いだ。
男なんかに、負けてたまるか。
「次!決勝の者、集合!」
声がかかり、私は立ち上がって、観戦席を出る。勝った方の男が、こちらに視線を向けたのが気配で分かり、なんてことないように壇上に立った。
死んだ母譲りの茶髪が肩に触れる。これを感じると、なんだか勇気が出るから好き。それが右腕につたって、指先に力が籠る。
「―――これより最終戦、ラルヴァス・ハイド対、セイラ・セルの試合を始める。両者用意はいいか」
試合の決まり通り、定型句に沿って構えを取る。
私の持つ”セル”の姓は、この辺りではよく知られている。名家とかではなく、国で一番おいしいと言われるパン屋と、国で一番厳しいと言われる道場が揃って掲げる名だからだ。
知られているからこそ、祖父母にあたるトビデ師匠とペンネさん、道場の師範代であるハトベ先輩たちの顔に泥は塗れない。
「それでは――――――、始め!」
その言葉を聞くや否や、私は地を打った。
ラルヴァスという名の男も瞬時に間合いを詰めて、下段のそぶりを見せる。確実にフェイントだ。重みのある攻撃ができるのに、重力を利用しないはずがない。
それでも一応それが受けられるように、敢えて剣を交差するように持って行く。フェイントであれば躱す。そのまま来たら、――――――どうやらフェイントではないようだ。
鋭く振り上げられた剣を、1秒だけ受ける。受けたように思わせて流すと、わずかに相手の剣がぶれた。
下向きに力のはたらいていた自分の剣を、回転をかけて相手の側面に打つ。当然受けられて、弾かれ、強い打撃は私の手から剣を離した。
観客席からは落胆の声が上がる。終わったなと、そう言った感じの。
・・・終わるわけあるか。
次の一撃を躱すと、私は手から離した剣の柄を、左手で掴んだ。
「――――――!」
息を呑むラルヴァスの脇から、その勢いのまま打ち出して、
「そこまで!」
審判の声がかかる直前、喉元に止めた。
「両者引き分け!」
私は苦い顔をして剣を降ろす。
自分が最後の一撃を放つと同時に、相手も一手打っていた。その隙を与えてしまった。
滅茶苦茶悔しい。
相手に一礼をして、審判役の騎士に連れられる。背後では緑ブロックの敗者解散が告げられていて、そうしてようやく、自分が「修剣士」位を手に入れられるという自覚が生まれた。
お父さんも経た見習い剣士。腕を磨いて、騎士になって、・・・まあ、色々やりたいことはあるが、鍛錬の日々が待ち受けていることは、今までと変わらない。
「騎士長のカセドニ・フェタです。宜しく」
決勝に残った私達4人は、騎士長を名乗る男の前に立って、一礼する。ひとりはラルヴァスという私の対戦相手だった人間、あと2人は別ブロックの覇者・・・歳はそんなに離れていないように見えるが、男だ。というか、出場者自体男しかいなかった。
やはり兵士、それも近距離戦なうえ前線で戦うことになる”剣士”になりたいと思う女性は少ないのだろう。大抵の女性は、まず剣や弓を持つことから親に反対されるものだ。
しかし騎士長は、女が混じっていることに何も違和感を覚えた顔をせず、すらすらと説明を続けている。
見習い剣士は姓、もしくは同姓の人間がいる場合には名に「修剣士」を付けること。王城の敷地内の外れにある官舎に住むこと。それは二人部屋であること。教官騎士がひとり、一名か二名の見習いにつき、主にその騎士に付いて仕事を行うこと・・・など。
見習いは基本腕を磨いて、王城の兵の仕事やルーティンを覚えることが大事。それは知っている。
「それじゃあ、担当騎士を・・・っと、イデア!もう決まった?」
騎士長が振り返って、後ろに立っていたもう一人の騎士に声を掛けた。騎士長には品があって、名家の人って雰囲気がするけれど、そちらの騎士は体育会系の、いかにも騎士です、っていうオーラが出ている。
「決まってる。――――――統一教官騎士長のイデア・スベジクだ。宜しく」
こちらに向けて一言挨拶をした後、さらに後ろに控えている2人の騎士に指示を出していく。
「右から、ベキリ騎士、クレーク騎士。こちらの2人は自分が担当する」
「はい」
「了解致しました」
・・・・・・ん?こちらの2人?
私は思わず隣を見る。と、視線を向けた男も、こっちを向いたため、顔を合わせる形になる。
それは、先程引き分けたヤツ。ラルヴァス・ハイド。
「先程も言ったがスベジクだ。スベジク騎士、でいい。もう今日中に案内は済ませるから、ついてこい」
さっさと話しを進められるが、進められているが、ちょっと待て。
「「―――――――――――こいつぅ!?」」
私達はお互いにお互いを指さして、思わず叫んだ。
剣を合わせれば、色々分かることがある。
さっきは短期決戦だったが、実際にどちらかが死ぬまで戦えと言われでもしたら、多分こいつは一生かけても殺しきれないと思えるくらい、相性が悪かった。もちろんこっちだって殺されはしないが、倒せもしない。ラルヴァスもそれが分かったのだろう、こっちを睨みつけてくる。
「こんなぺらぺら剣で戦ってる女と一緒にやってられっかよ!残ってんのもまぐれだろ!?」
――――――なんだと。
「まぐれって何!?こっちは正真正銘戦って残ってるんだけど!?そっちこそ野太い棒っきれ振り回してただけでしょ!?」
「はあ?お遊びみてーに振り回してたのはどっちだか」
「じゃあ流しの対応遅れてたのはどっち?あのフェイントに騙されるお子ちゃまかと思うとがっかりだなあ」
「それを言うなら一回叩かれただけで剣落としかけてただろ、お前も!耐久力なさすぎだ!」
「あれは敢えて手を離したんですー!」
「落としかけたからセーブきくように離したんだろ!?対応策であって攻め技じゃねーじゃん!」
「あんたの重いだけのニブニブ攻撃だって攻め技って言わない!」
「てめーの軽すぎなだけのペラペラ攻撃は攻撃とすら言わねーよ!」
気づかぬうちに、ぎゃあぎゃあと言い合いを始めていた私たちの間に、呆れ顔のスベジク騎士が入った。そして、
「いでっ」
「だっ」
両拳をそれぞれの頭に叩き込む。つまり拳骨を喰らったと、そういうことだ。
「その辺でいいだろう。そんだけ剛速球の会話のキャッチボールができるなら、それは決して相性悪いとは言わない。ほら、来いって言ったろ。大人しく着いてこなければ官舎の外周10週走ることになるぞ」
「えっ・・・!?」
「はっ・・・!?」
私とラルヴァスは顔が引きつる。だって顔が、冗談に見えない。
「イデア、本気でやるからねー。何人ぶっ倒れたことか」
更に騎士長にまで追い打ちをかけられる。
「スタミナは大事だ。重量型は剣を振るのに、一撃必殺ができない細剣タイプは体力を持たせるために必要だろ?」
確かに言われた通りだ。私は急所を打たなければとどめを刺せない、長期戦もあり得る戦闘タイプを取っている。だから毎日5㎞は走っているし、稽古では振り続ける事にも重きを置く。
スベジク騎士は、きちんと色んな知識のある人間なのだと知った。まあ、騎士長と同じ高さの階級章を掲げているだけはある。統一教官騎士長・・・、名前が長い。
「・・・・・・というか、ちょっと待て」
さっきついて来い、と言ったスベジク騎士が、私達を手で制した。眉根を寄せて、騎士長へ向く。
「今、見習いの官舎って、どこも満杯だったよな」
「うん。今年は2人新たに騎士になったから、騎士館も一杯。見習い剣士の官舎の空きが2つになってぎりぎりだなって話はしてたけど」
・・・ん?――――――”2つ”?
「2人部屋が、ふたつ、って、ことですか・・・?」
「うん。そう。―――――――――あっ!!」
騎士長が尋ねた私を見て、まずいと言わんばかりの大声を出した。
だよな、忘れてたよな、先輩方。
私は、女だ。2人部屋に男とぶち込むなんて、倫理的にも世間的にも、無理だらけ。
正直私はどうだっていいのだが、城の悪い噂になるのは、色々問題があるだろうから。
「ど、どうする?」
察したことが伝わったのだろう。少し強面めな顔が、困惑したまま私を覗く。
「別に、悪い噂になったりするが平気で、かつラルヴァスがよければそれでいいですけど」
「え、俺が同室なのは強制?」
「他の人と同室になるより同じ騎士に付く人間が同室になった方が、色々利があるからね」
いつの間にかさわやかな笑顔に戻っていた騎士長。あれ、この流れは・・・・・・、んまあいいんだけど。
「一応、最近建て替えたばっかりだし、その時にプライバシーとかも考えて造ってあるというのを聞いて見てはいたんだが・・・。2段ベッド以外はカーテンで見えなくすることはできるが、それだけだったぞ」
「プライベートスペースは確保できるわけですね?大丈夫です。有刺鉄線でも張っときます」
「それはわざとじゃなくぶつかったら怖いだろ!?」
「ぶつからなければいいじゃん」
「それを言うならまず張るな!」
まあ、有刺鉄線は冗談だ。お金がかかるし面倒くさい。こういう時は、裏道のダギリー材木屋に限る。
「とりあえず、行きませんか?」
「あ、ああ」
なんだかまだ男女同室がすんなりいきそうなのに変な気持ちを覚えているように見えるが、スベジク騎士は足取り重くもなく、すぐ近くの修剣士官舎に案内してくれる。
3階の一番奥の角部屋があてられる。入口からは遠いが、少し広めなのだそう。
ドアを開けて、少しだけある土足スペースの先は、間をおいてすぐスライドドアになっている。私が先んじて入り、中を確認する。
中央の3分の1は2段ベッドで埋められて、残り3分の2は、ただの床だった。置いてあるだけに見える小さな収納棚が2つ、窓は角部屋ということで、右と左に一ヶ所ずつ。手狭だが、出来るだけ広くなるように物を減らされているのだろう。カーテンレールが這っているので、それも自分たちでどうにか使え、といった丸投げ感。
これはいける。
「ここ、自由に使っていいんですよね」
「ああ。汚したり、穴をあけたりしたら弁償はしてもらうが」
「つまり、クギさえ打たなければいいんですよね?」
「え?」
予想外の返答に、スベジク騎士が静かで素っ頓狂な声を出す。
「何するつもりだ?」
「壁、作ります」
「壁、って・・・!?」
スベジク騎士とラルヴァスが目を丸くする前で、私は少しおかしくなって、笑った。
中央に2段ベッドがあるのなら、上か下か使いたい方を選んで、自分のベッドは向こう側に、ラルヴァスのベッドはこちら側に板を張ればいいのだ。するとカーテンレールが入り口としていい感じになり、お互いプライベート空間ができる。
「荷物と一緒に材木を持ってきて、今日中に仕上げます。今日からもうここに泊まっていいんですよね?」
「あ、ああ・・・」
「では、お気遣いなく」
スベジク騎士の脇をするりと通って、ドアから外に出る。
変な人間で結構だ。――――――私は、私のやり方で、私のやりたいようにやる。
翌朝、薄板一枚できっぱりと分けられていた部屋に、ラルヴァスが目を剥いたのが面白かった。




