円卓のテレビ会議【コメディ】
■ 鍛錬の成果
王宮からほど近いうっそうとした森の中、彼らは今日も鍛錬に励んでいた。
「…ううむ。このくらいか?」
パーシヴァル卿が尋ねると、老練なる騎士・サー・ガラハッドが豪快に叫ぶ。
「まだだ! そのくらいでは足りぬ!」
その気迫は獅子のそれであり、白いものが混じり始めた彼の顎を覆う髭は、獅子のたてがみにも見える。
「ま、まだ足りぬだと…? これは一体…」
若い騎士であるパーシヴァルはその真意を測りかねていた。
「もっとだ! もっと距離を取れ! その程度では、彼奴らの思う壺!
裏を掻かねばならぬーー裏をな!」
さらにじりじりと後退し、距離をとったふたりーー 一方はパーシヴァル卿、もう一方はガウェイン卿。
今度は、ガウェイン卿が叫ぶ。
「どうだ! サー・ガラハッド! これくらいでよいであろう!」
しばしの沈黙ーー。
三秒きっかり待って、ガラハッド卿は親指をぐっと立てた。
「完璧だ! その間合いーー忘れるでないぞ」
「おう!」
「しかと心得ました」
ガウェインとパーシヴァルが、それぞれに頷いた。
この鍛錬の成果が、試される日もあるだろう。
ふたりは、手をガシィ!!っと握り合い、今日のがんばりを称え合った。
***
数日後のことである。城でサー・ボールスたちが向こうから歩いてきた。
ふたりはすかさず距離を取る。
「…貴公ら、何の真似だ?」
ふくよかな体型のボールス卿は、かなり不機嫌そうに、パーシヴァルとガウェインを睨む。
頷きと視線を交わし合い、ふたりの騎士は同時に叫んだ。
「「ソーシャルゥウウウ・ディスタンスゥウウウッッッ!!!」」
ーー高らかに。
「…はァ?」
ボールス卿は眉をひそめると、必殺のポーズを決める ふたりの間をすたすたと抜けていった。
背後で、ひそひそと囁く。
「ーー通じなかった。恐ろしい男だ、サー・ボールス…ッッ!!」
「インターネットもテレビも見ない、新聞も読まないし世間話もしないというのは伊達ではないということか…!
無念」
「行くぞ、サー・ガウェイン。次は抜かるなよ。確実に仕留めるぞ…!」
「うむ。次の獲物はーー」
ガウェイン卿は鋭い眼差しで周囲をうかがう。
仕留めてどうする。
だが、それを問う者はそこには存在しなかった。--残念なことに。
■
王妃は叫んだーー金切声を上げて。
「密です!!」
***
「三つのみつーーとはなんであろうか?」
パーシヴァルは首をひねる。
僚友の問いに、ガウェイン卿は胸を張って応じた。
「決まっている。蜂蜜、密着、秘密のことだ」
「やはり!」
パーシヴァルは膝を打つ。
「そうではないかと思っていた! やはり蜂蜜にはボツリヌス菌が含まれていることがあるからな!
乳幼児にはよくない!」
ガウェインは、我が意を得たり、とニヤリと笑った。
「当然だ。そして、未婚の若い娘に密着するのは犯罪だ」
「破廉恥な! 恥を知れ! 恥を!」
「全くだ。純粋なる愛を捧げるなら決まった夫のいるご婦人に限る。グィネヴィア王妃とか」
「賛同していいものかどうか悩むな…」
「悩む必要などない! そして三つめ。
友に対して秘密を持つのもまた、良くないことだ」
「言われてみれば至極。『三つの密を避けよ』--とは、そう難しく考えることでもなかったのだな」
「うむ。
ハチミツはできる限り控え、適度な運動をし、
密着を避け、秘密は持たぬがよい」
「ごく当たり前に心掛けられることだからこそ、分かりやすい標語にし、日々の行いを徹底する。--うむ」
「忘れてはならぬな…」
「そうだな!」
ふたりは頷き合い、秘密や蜂蜜や密着を避けることを心に堅く誓った。
さわやかな風が吹き、よく晴れた青空の美しい日であった。
***
というわけで、王妃の提案により、円卓会議は、しばらくの間、
オンライン・テレビ会議によって行われることになったのであった。
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感染症との戦い…。
なんとも大変な事態。
医療従事者の方々には本当に感謝しかありません。
どんな莫大な報酬でも、報いきれない恩があります。
ーー燃え尽きてしまわないように、どなたも、くれぐれも、ご自分ファーストでお過ごしください。
なお、前半部分でものすごい叫んでますが、ーーきっとふたりともマスクしてるんですよ、うん。
日本の湿った真夏にマスクしたら呼吸困難な気がするので、今から不安です☆
Social Distancingには「対人距離」「対人間距離」と訳したほうが個人的にはしっくりきます。




