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21話 バクダンマ


 男は“バクダンマ”と名乗っていた。

 職業はいわゆる暴露系配信者。

 景気が良いときもあったが、現在は正直絶好調とはいえない。

 いや、落ち目であることは本人も理解していた。



「クソッ、なんでなんだよ!」



 バクダンマはダンジョンを構成する土壁を蹴飛ばす。もちろんそれで何かが好転するわけでもない。八つ当たりだ。


 バクダンマは池袋ダンジョンにいた。

 配信者は常にリスナーの興味を引き続けなくてはならない。

 暴露系配信者の新人も次々出てきており、彼らよりも大きなスクープを撮って話題を提供し続けなければあっという間に日々起きるバズに埋もれて忘れ去られてしまう。

 暴露系配信者を生業としているバクダンマはそれが嫌というほどよく分かっていた。

 だからこそ焦ってもいた。

 早く結果を出さなければ、と。

 とはいえ、いま話題の配信者であるカオルを狙ったのはなにも当てずっぽうというわけではない。

 それは彼のスキルに由来する。


 ユニークスキル【マインスイーパー】


 人の頭の上に爆弾が見える、というスキルである。

 それは物理的に存在する爆弾ではない。露見するとマズい"スキャンダル"を表している。

 かつての人気配信者だった猫田リンの頭にはそれはそれは大きな爆弾が見えた。

 元々週刊誌の記者をやっていたバクダンマにとって彼女の不倫を暴くのはそう難しくなかった。

 登録者数300万人を超える猫田リンがバクダンマの暴露によって頭上の爆弾が大爆発し、瞬く間に転落していったあの瞬間がバクダンマの配信者人生のハイライトであった。


 そしてカオルの頭上には、猫田リンを超える巨大な爆弾が見える。

 彼女はなにかとんでもない秘密を抱えている。

 しかしその秘密がなんなのかが分からないから困っているのだ。

 カオルの頭に爆弾があることに気付き挑発的なポストをしてしまったが、時期尚早だったかもしれない。

 このまま情報をつかめないまま時間が過ぎればアンチになにを言われるか。



「クソッ、なんなんだよアイツ」



 バクダンマは壁に背中を預け、煙草に火をつけた。そしてもう片方の手でスマホを見る。

 この世の中は監視社会。

 ネットで少し調べれば有名人の出身校や卒アル写真や家族構成が簡単に分かる。

 しかしカオルはいくら調べてもそういった情報が一切出てこないのだ。

 現役高校生というのが本当であれば同級生たちがSNSで隠し撮り写真などを投稿していそうなものだが、我こそは同級生だという投稿すらほとんどない。

 それどころかダンジョン外での目撃証言すら見当たらないのである。

 まるで"カオル"がダンジョンの中にしか存在していないかのようだ。


 もはや情報を得るにはカオル本人と接触するしかない。

 そう考え、過去2回の配信でカオルが潜っていた池袋ダンジョンにまで来たものの、そんなに都合良くカオルに出会えるはずもなく。

 あと考えられるのはカオルが配信中に凸することくらいだが、カオルが主な配信場所にしている中層だの下層だのに突っ込んでいけるような実力があれば暴露系なんてやっていない。

 調べれば調べるほど打つ手がないのが分かってくる。

 だが、バクダンマは諦めなかった。



「絶対にお前の爆弾を爆発させてやる」



 スマホに表示されたカオルの画像をバクダンマは睨み付ける。

 最初は純粋に仕事としてカオルを追っていた。

 しかしカオルの活動を追っているうちに、徐々に会ったこともない彼女に対して執着心を抱くようになっていったのだ。

 それは嫉妬心と言い換えることもできるだろう。

 カオルは若く、美しく、そして人気がある。

 日陰者のバクダンマには眩しすぎる存在だ。

 そんな彼女をこの手で潰すことができたら、スターダムから引きずり下ろすことができたら、どんなに爽快な気分だろうか。



「胸がデカいってだけでバズりやがって」



 バクダンマは悪態をつきながら、また煙草を口にくわえる。視線はスマホに釘付けのまま。

 それが良くなかった。

 ここは上層の、その中でもかなり地上に近い部分だ。動きのトロい雑魚モンスターしか出ない。そのはずだった。

 しかし、“それ”はダンジョンの常識に囚われない。

 バクダンマがスマホから視線を上げたとき、それは既に彼に飛びかかっていた。



「え」



 迫り来る、赤くて平べったくて足がたくさん生えた謎の生命体。

 それがカオルの配信で話題になっていたベギーアデの仮面であると気付いたときにはもう遅かった。

 なすすべなく、それはバクダンマの顔にへばりつく。

 衝撃で地面に倒れながら、バクダンマはめちゃくちゃに藻掻き、叫ぶ。

 仮面型寄生生物を剥がそうと力の限り引っ張り、それが無理だと悟るなり寄生生物にダメージを与えようと己の顔面ごと地面に叩きつける。

 どれくらいそうしていただろう。

 バクダンマはふとその動きを止めた。

 何事もなかったかのようにムクリと立ち上がり、滴る鼻血を拭ってズボンの泥をパッパと払う。

 バクダンマは生まれ変わっていた。


 先ほどまでの閉塞感と鬱屈感はどこへやら。ものすごく晴れやかな気分だった。

 神にでもなったかのような万能感が指の先まで満ちている。

 活力が次から次へと湧いて出る。

 しかしその原動力は決してポジティブなものではない。



「絶対に、お前を破滅させてやるぞ――カオル」



 カオルに抱いていた執着が、もっとずっと強くなっていた。



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