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13話 百合営業なんてムリだよ!


 百合営業。

 それは女性配信者同士でコラボする際、あたかも同性カップルかのごとくイチャイチャと配信することである。

 異性間でこれをやると大炎上するが同性同士だと好意的に受け止める者が多く、かくいう俺も嫌いじゃない――いやいや、いまはそんなことは良い!



「い、いやぁ……その、それはやめたほうが良いんじゃ……ほら、普通に友達として仲良し! みたいな感じで十分なんじゃない?」



 なぜなら俺は男だからだ。

 いくらスキルで美少女になっているからといって、やって良いことと悪いことがあるんじゃないかな?

 良心の叫びを受け、俺はやんわりとライカにそう言ったのだが。



「そんな生ぬるいのじゃリスナーは満足しませんよ」



 ぴしゃり、とライカは言う。



「わたしたちはリスナーの奴隷です。彼らの求めるものがなにかを日夜考え、提供し続けなければならない。プロであれば当然の意識です」



 素晴らしいプロ意識。さすがはライカ。そう言われてしまうと、俺も言い返す言葉が――

 い、いやいや! ダメだ、丸め込まれるな。

 俺は必死に己を鼓舞し、恐縮しつつもなんとか言い返す。



「で、でもさ。リスナーの求めるものって百合なの?」


「はい」



 ライカはまっすぐな目でそう言った。

 そんなにハッキリ言われると黙ってしまうが……。

 いやいや、黙っちゃダメだろ! ちゃんと断らないと!



「いや、でも――え、なにやってるの?」



 ライカの手からドローンカメラが飛び立ち、そのレンズを俺たちに向ける。



「準備いいですか? 始めますよ?」


「え!? ちょ、まだまともに打ち合わせも――」



 慌てる俺を嘲笑うかのように、ライカはスマホを操作し配信ボタンを押した。

 そしてカメラに向けて満面の笑みを向ける。



「皆さんこんにちは、宝条ライカです。な・な・なんと! 今日は話題の配信者、カオルさんも一緒に配信していきます」



『待ってました!』

『ライカ今日もカワイイ』

『おっ、おっぱいチャン!』

『おっぱいチャン、ライカを助けてくれてありがとう!』

『おっぱいチャン緊張してる?www』



 どうやら本当に配信をスタートしてしまったらしい。

 既にARコンタクトを装着していたため、視界がコメントで埋まる。

 ちょ、まだ、心の準備が……というか同接すごすぎ……え? っていうか俺いまライカの動画に出演してる!?

 いろいろな思いが頭の中を駆け巡り、真っ白になりかけた瞬間。



「カオルさん、緊張しないで大丈夫ですよ」



 ライカの優しい声。

 俺の体にそっと寄り添い、背中に腕を回す。



「わたしが付いてるんだから。全部任せてくださいね?」



 ふわりと甘い匂い。ライカの体の温かさ。

 ふっと肩が軽くなるのを感じる。

 そういえばスキンシップには幸せホルモンのセロトニンの分泌を促す作用があると聞いたことがある。

 ああ、もしかしてライカは俺の緊張をほぐすために百合営業だなんて言ってくれたのかな。

 ん? というかライカはどこいった?

 俺はキョロキョロあたりを見回し、やがて胸元に目をやった。

 ライカがいた。

 そのピンクの頭が、俺の胸を支えていた。

 なるほど、肩が軽くなったのは物理的なものだったか。はははは。

 俺は弾かれたように跳び上がった。



「なにしてんだ!?」



 思わず声を上げて、しまったと口元を押さえる。

 いまは配信中だ。当然ライカのファンもたくさん見ている。

 なのにポッと出のイロモノ配信者がライカに怒鳴ったりして、空気が悪くなったりでもしたら――

 というのは杞憂だった。



「えへへ。カオルさんってば本当にカワイイ。わたし、カワイイお姉さんが大好きなんです」



 と、ライカが笑った瞬間。

 凄まじい勢いで視界をコメントが流れていく。



『かわいいwww』

『あら^~』

『でも年同じなんでしょ?』

『この発育の差よ』

『このふたりからしか得られない栄養がある』

『おっぱいwwwwww』

『まぁこのおっぱいなら頭に乗せたくなるのも分かる』

『おっぱいすごwwwwwwww』

『ライカー! 俺の雄っぱいも頭に乗せてくれー!』

『どっちも羨ましすぎ』

『百合とおっぱいに挟まりたい人生だった』



 さすがライカだ、と思った。

 ライカの探索者としての腕ももちろん一流だ。でもそれ以上に、なんといったらいいのか――配信者としての華があるというか。

 どんなにシリアスな場面でも、彼女の笑顔はそれをエンタメに昇華できてしまう。

 だからこそ彼女はトップ配信者なのだ。



「それにしても、先日のカオルさんの配信――池袋ダンジョン中層ボス単独撃破はすごい話題になりましたね!」


「あ、えっと、おかげさまで」


「で、今日はその続きをやりたいと思います!」



『え?』

『続き?』

『続きとは?』

『まさか…』

『ざわ…ざわ…』



 リスナーの注目を十分に引きつけ、そしてライカは言った。

 俺の腕にその手を絡ませて。



「今日はカオルさんとふたりっきりでラブラブ下層攻略配信やります!」


「え!?」



 瞬間、少しの間を置いて。

 視界がコメントで埋め尽くされた。



『は!?』

『ふたりだけで下層!? しかも配信しながら!?』

『おっぱいチャンもビックリしてんじゃんwwwwww』

『さすがライカwww』

『ふたりはムリだろ! 池袋ダンジョン規模ならトップ配信者でも10人とかのチームで攻略するもんだぞ』

『いや、さすがにスタッフとかいるっしょ』



「いないよ! 本当にふたりっきり」



 ライカが指をくるりと回すと、ドローンカメラがレンズを外に向けてくるりと旋回する。

 これで周囲に誰もいないことがリスナーにも分かったはずだ。

 そしてカメラの死角に入った瞬間を見計らって、ライカは俺に耳打ちをした。



「大丈夫です。ほどほどのところで〈抜け道〉使って逃げますから。お化け屋敷感覚でワイワイやりましょう」



 どうやらライカは下層攻略を本気でやり切るつもりはないようだ。

 が……そんなことはどうだっていい。



「ラ、ラブラブ……!?」



 俺は己の肩を抱きしめてガタガタと震えた。

 ライカに掴まれた腕を中心に、体がどんどん熱くなる。

 今朝、ニュースを見たヒカリの言葉を思い出す。



『女湯に男が女装して入って逮捕だって。キショ~』



 これは! つまり! ニュースで報じられたその変態男と同じことになってしまうのではないか!?

 だってライカは俺が女の子だと思ってるからラブラブ百合営業だなんて言っているわけで、でも実際のところ俺は男なんだからそれはライカを騙すことになるわけで、とはいえあんまり派手に拒否るのはライカに失礼だしライカなりに撮れ高を気にしているからそういう設定を打ち出しているという面もあるわけで、となると百合営業に変わる撮れ高を用意しなくちゃいけないわけで、俺にできることと言ったら――



「カオルさん? 大丈夫?」



 顔を覗き込むライカを横目に、俺はマチェットを構えた。



「下層攻略、本気でやります」



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