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10

 ルシウス兄さんの魔力の残存を追って本殿の廊下を走っていた俺は目の前の光景に足を止めた。

 混乱する家臣を他所に、ルシウス兄さんはゆったりとした足取りでこちらに向かってきた。……左手に切り落とされた女性の首を持って。

 ルシウス兄さんは棒立ちになっている俺の元までやってくると、


「次はない」


 そう告げて俺に女性の首を渡し、俺の横を通り過ぎて行った。

 俺は唖然としたまま受け取った女性の首を見下ろした。


 恐怖に引き攣った表情を浮かべた女性の顔を見た瞬間……俺は全てを悟った。


 俺はふらつきそうになる足を叱咤し、ある場所へ向かった。途中悲鳴じみた声が聞こえたが、周りを気にする余裕などなかった。 

 目的の場所に着き扉を叩き名乗ると中から「開けなさい」と言う声が聞こえ、扉が開き一人の侍女が姿を現した。


「ひぃぃ!」


 侍女は俺の右手にぶら下げているものを見て腰を抜かした。俺は青ざめ言葉を失った侍女を尻目に部屋に入り、ソファに凭れ掛かる母の前にあるテーブルの上に女性の首……いや、長年母に仕えていた侍女の首を投げるように置いた。

 母の傍に控えていた侍女たちは悲鳴をあげ、母は驚愕の表情を浮かべた。


「兄さんからの忠告です。次はないと……。食事に何を混ぜたのですか?」


 誰のとは言わない。俺の問いに母は魔物のような形相で侍女の首を手で払い除けた。侍女の首が絨毯の上を転がっていく。


「はっ! 警告よっ! 出来損ないの分際で今更あの人に取り入って! いい気になってっ! 図々しいにも程があるのよっ! 出来損ないは出来損ないらしく閉じ籠っていればいいものをっ!」


 母の金切り声が部屋の中に響く。

 末の異母兄弟がルシウス兄さんの茶会の席に呼ばれるようになってから、母が末の異母兄弟に対し余り良くない感情を持っていのは知っていた。


「前に伝えた筈です。兄さんは自分の行動に干渉されるのを酷く嫌う人だと」


 その認識は正しかったと母の手によって知ることになるとは……。

 興奮し肩で息をつく母に背を向け扉の前まで歩き、そこで立ち止まった。


「忘れないで下さい。また兄さんの行動に干渉するのであれば、……今度は俺があなたの首を切り落とすことになります」


「……っ! アイザック! まっ……!」


 呼び止める母を無視して俺は部屋を後にした。

 血の海と化した厨房では、唯一生き残った下働きの女性が壊れたようにケタケタと笑っていた。その哀れな姿に俺は自らの剣で彼女の首を切り落とした。


 ルシウス兄さんの一連の行動は一瞬にして城内に広まった。

 それと同時に母が犯した……自分の侍女を使って第六王子殿下の食事に薬物を混入させた……罪も知れ渡ったが何も問われることはなかった。

 その代わり母は自分の傘下にいた者たちから距離を置かれるようになった。

 そして俺は……。


 扉を叩き少し待つと、末の異母兄弟が顔を出した。あの時の顔色の悪さはすっかり消えている。

 母が盛った薬物は吐き気を催すもので、症状が食あたりと酷似しているため侍医でも分からなかった。

 ただルシウス兄さんだけは末の異母兄弟が薬物を盛られたとこと、主犯が俺の母だとその場で分かった。

 そしてわざと魔力の残存を残したのも、主犯の息子である俺から母に忠告をさせるため。

 なぜ、ルシウス兄さんがその場で分かったのか……俺には分からない。


「兄さんが呼んでいる」


 それだけを告げ俺は末の異母兄弟に背を向け歩き出した。背後で扉が閉じ俺の後を追う足音が聞こえる。

 母が犯したあの日以来、侍女ではなく俺が末の異母兄弟を迎えに行くようになった。……ルシウス兄さんの命令で。

 俺はちらりと後ろを歩く末の異母兄弟を見た。

 末の異母兄弟は知らない。

 自分の身に起きた要因を。あの日の惨状を。


 そして自分がルシウス兄さんの逆鱗だと囁かれていることも……。


 末の異母兄弟の耳に入らぬよう徹底的に情報が遮断されていた。

 俺はそのことに寒気を覚えた。

 もしかするとルシウス兄さんは自分の行動に干渉されるのを酷く嫌う以上に、末の異母兄弟に対し何かしらの感情を抱いてるのかもしれない。


(……だが、それを俺が知る必要はない)

 

 首の皮一枚だけで繋がっている俺は、何も言わず干渉せずただルシウス兄さんの横で剣を振るうだけ。


 『不要』だと言われないために……。


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