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後半、流血表現があります。
ルシウス兄さんがいつものように末の異母兄弟を連れてくるよう侍女に告げ、侍女は温室を後にした。
……が。
その侍女が半ば駆け足で温室に戻ってきた。酷く青ざめた表情を浮かべて。
「何があった?」
俺が問うと侍女は震える声で答えた。
「……だ、第六王子殿下が自室でた、倒れられ……っ」
温室に鉛のような重圧が落ちた。
俺は後ろで組んでいた両手を強く握りしめ、ルシウス兄さんの動向を伺った。
ルシウス兄さんはソーサにカップを置くと無言で席を立ち温室を出て行った。俺は詰めていた息を吐き出しルシウス兄さんの後を追った。
末の異母兄弟が居る離宮は日中にも関わらず薄暗く、窓から見える庭は酷く荒れていた。
ルシウス兄さんが部屋に入ると中には二人の侍女と初老の侍医の姿があり、末の異母兄弟はベッドに横たわっていた。
ルシウス兄さんの姿に侍女たちと侍医は青ざめ、ベッドの傍からサッと離れた。
ベッドの脇に立ったルシウス兄さんは無言で末の異母兄弟を見下ろした。
俺は少し離れた場所から末の異母兄弟の様子を伺った。末の異母兄弟の顔色は酷く悪く、ぐったりとしていた。
「一体何があった?」
俺は侍女たちに視線を向けた。
「……へ、部屋を整えるため、ノックしたのですが応答がなく、失礼を承知の上扉を開けましたら、第六王子殿下が床に倒られ嘔吐するお姿があり急ぎ侍医を……」
「嘔吐?」
俺は眉を寄せ侍医のほうを見た。
「しょ、症状からして恐らく食あたりの可能性が大きいかと……」
「毒物の可能性は?」
「私が知る限り、その可能性はほぼないかと……」
「そうか……。なら原因がなんなのか詳しく……兄さん?」
末の異母兄弟を見下ろしていたルシウス兄さんが不意に踵を返し部屋を出て行った。俺は一瞬呆気に取られたが、ハッと我に返りルシウス兄さんの後を追うため部屋に出た……が、廊下にルシウス兄さんの姿はどこにもなかった。
困惑する俺は不意に廊下に僅かに残ったルシウス兄さんの魔力の気配を感じ取った。
その瞬間、ゾッと背筋が凍った。
城内でルシウス兄さんの魔力の気配を感じたのはこれで二度目……。
脳裏にルシウス兄さんがラルス兄さんを殺した光景が浮かんだ。
俺はルシウス兄さんの魔力の残存を追って本殿へと駆け出した。
一体何が?
目の前で起きてる光景に言葉が出ず、床にへたり込んだ身体ががくがくと震えていた。
甲高い悲鳴と共に壁や食器、調理器具や食材に真っ赤な血が飛び散った。
また一人、切り落とされた首が宙を舞う。
どうして……。
(どうして、王太子殿下が……)
私は剣を振る王太子殿下の後ろ姿を見上げた。
それは突然だった。
夕食に出す料理の下拵えをして居た時、厨房に王太子殿下が姿を現した。厨房にいた者たちは驚き慌てて頭を下げようとし……誰かが「ひっ!」と短い悲鳴をあげた。
誰もが固まった。
姿を現した王太子殿下の右手には血の付いた剣が握られ、左手には切り落とされた女性の首がぶら下がっていた。
そこからは地獄だった。
気付けば血に染まった床に首と胴体が離れた死体があちこちに転がっている中、生きているのは私一人だけだった。
王太子殿下が振り返り、あの恐ろしい紅い瞳が私を捉える。
「あ……あ……、お、おゆ……お許し……を……」
私は震える両手を胸の前で握り締め、王太子殿下に許しを請うた。
一体何が王太子殿下を怒らせたんだろう……私には分からない。
王太子殿下は私を一瞥した後、その場を去って行った。あの女性の首を持って……。
血まみれの部屋の中に一人残された私は頭の中で何かがブツリと切れる音がした。




