#073
「なんでこんなところにいるんだッ!?」
アンは声を張り上げた。
サングラスをかけ、ストリング帝国の軍服ではなくスーツ姿で、いつも首に巻いているスカーフこそしていないが。
そのガッチリとセットされたオールバックと、威圧感のある佇まいは紛れもなくノピアであるとアンにはわかった。
そしてアンが声を張り上げて手袋を外し、その機械の手を剝き出しにすると、ノピア以外にも滝を観に来た観光客たちに動揺が走る。
いきり立つアンを見て、ノピアは後ろについていた男に声をかけた。
すると、その者はその場から去って行く。
ノピアがアンに向かって口を開く。
「私はお前のように指示待ちではないのでな。やらなければならんことが多いのさ」
「なんだとッ!?」
普段から感情の起伏が少ないアンがこうも冷静さを失っていることに、ミントは驚きを隠せなかった。
「アンさん! ダメです! こんなところで戦闘になったら一般人を巻き込んでしまいますよ!」
ミントは他の観光客と同じように動揺しつつも、慌ててアンに落ち着くように言い、彼女の身体を押さえた。
それに続いてブレシングもアンの前に立って、その剥き出しにした機械の右腕を収めるように言った。
だが、アンは止まらない。
今にもノピアに飛び掛かりそうな勢いで、彼に向かって怒鳴りあげる。
「何がやらなければならないことだ! どうせお前はまたろくでもないことをしていたのだろうッ!?」
「ろくでもないか……。そうだな、私はたしかにろくでもないことをやっている。だが、お前のような救いようのない人間たちが私をこうさせているのだ」
アンとノピアの様子を見ていた観光客たちは、これから喧嘩でも始まるのかとその場から離れていく。
きっとアンの機械の腕を見たのもあったのだろう。
野次馬根性を働かせられないほどに怯えて逃げていく。
アンとは違い、あくまで落ち着いた口調でノピアが言葉を続ける。
「救いようのない人間たちは、自らの力に過信し、特権階級と立場を利用して富を貪り、この地球を汚染し続けている。十三年前のクロエのときから、人間は何も学んでいない」
「だが、お前はそれでも人を信じていただろう!? だからメディスンたちと協力して永遠なる破滅やサーベイランス·ゴートと戦ったんじゃないかッ!? そんなお前が、それを今になって何故ッ!?」
「私は理解しただけだ。心貧しき者らには世界を任せられんとな。森の中で大人しく鎖に繋がれているだけのお前には、一生わからんさ」
「ノピアッ!」
「そこにいる若い二人になら、私の言っていることが理解できるはずだ。そうだろう? ミント·エンチャンテッド嬢、ブレシング·ダルオレンジ中尉」
突然声をかけられ、ミントとブレシングは驚愕した。
なんとノピアは、二人のことを知っていたのだ。
ブレシングは今から六年前に一度ノピアと会っていたが。
それでも驚きは隠せなかった。




