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最終話 君のもとへ ~人生は素晴らしいアドベンチャー~

 ある日の朝。目覚まし時計の音が部屋に鳴り響くと、求司は目を覚ました。

 そして彼は手を伸ばして音を止めるとスマートフォンの電源を入れ、画面が立ち上がると早速マドリガルの写真を出した。

「マドリガル、おはよう。今日もきれいだね。」

 彼は写真を一枚ずつ切り替えた後、今度は動画のモードにして、ゲームの世界から帰ってくる直前に録画しておいたマドリガルのメッセージを再生した。


『求司。あなたに会えて本当にうれしかったわ。たくさんの思い出をありがとう。アンと丈二さんもありがとう。みんなのおかげで、あたしはあなた達の世界で楽しく過ごせたわ。これから、あたしは絶対にこの世界を平和にして、人々が幸せに過ごせるようにするからね。そして、求司…。えっとね…、あたし…。あなたのこと…。いや…、これはまたあなたに会えた時に言うことにするわ。絶対に言うから、待っていてね…。ありがとう…。』


 彼女が涙をこらえながら、それでも笑顔で言葉を絞り出す姿を見て、求司は思わず込み上げそうになってしまった。

「マドリガル。あれから君はどうしているの?元気に過ごしている?世界は平和になった?仲間達や弟のブレッザと幸せに過ごしてる?僕もね、君に会えて本当にうれしかったよ。失意の底にいた僕を支えてくれて、本当にありがとう。僕、あれから野球場のスタッフとしての仕事にありついたよ。アルバイトではあるけれど、これでやっと収入を得られるようになったよ。生活はまだ厳しいけれど、まずは一歩を踏み出せたよ。」

 彼はメッセージを言い終わると、スマートフォンの画面を閉じた。

 そしてゆっくりと起き上がると、朝食の準備を始めた。

 この日はプロ野球の2軍のチームの試合にボールボーイして働く予定になっていたため、彼は朝食を食べ終わると準備運動をして、球場へと向かっていった。


 試合が終わり、球場を後にした求司はまっすぐに丈二の家に向かっていった。

「やあ、ジョー。こんにちは。」

「キュージ、ようこそ。じゃあ、早速ライブの会場に行こう。」

「うん。」

 2人は即座に家を後にし、その場所に向かっていった。

 彼らのお目当てのバンドは「Arctic Grass」で、それまでサポートだった安奈がギター担当として正式メンバーになっていた。

(※Arctic Grass:訳すと「北極の草」で、「どんな困難にも負けないもの」という意味が込められています。)


 会場に到着するとQZXの5人がちょうどステージに姿を現し、彼女達は3曲を演奏した。

 演奏が終わるとボーカルのMALICEは大声でメンバーの紹介を始めた。

「キーボードーッ!RAY―――!」

「RAYでーーーっす!」

「ギターーーッ!I――YO――KO――!」

「どーもーっ!IYOKOですっ!」

「ベースーーーッ!A――STRI――D!」

「私がASTRIDだああっ!」

「ドラムスッ!SA――RA――!」

「SARAのドラミング、注目してくれてありがとーーっ!」

「そして、私がーーっ、MALICEだーーーっ!」

 紹介が終わると、彼女達は手をつなぎながら整列して礼をした後、ステージを後にしていった。

 次に登場したのはいよいよArctic Grassで、安奈ことANNEはギターを持ちながら求司と丈二から向かってステージの左側に立った。

 このバンドは男性2人、女性2人で構成されており、中央にはボーカル兼ギターの男性である志郎(しろう)、安奈と反対側にはこのバンドのリーダーであり、ベースとキーボード担当のNIQUE(発音はニック。今回はベース)、そしてSARAが演奏をしていたドラムスセットのわきには、コーラスとタンバリン担当のミナコが立った。

 彼らはまだ実績が少ないこともあって、与えられた曲は「Into the Super Battle」の1曲だけだった。

 それでも演奏の間、丈二はノリノリで盛り上がっていた。

(マドリガル。ほら、見てごらん。アンは君からもらった髪飾りを大事に身に付けているよ。出来ることならその姿を君に見てほしかったよ。そして、僕はこの会場で君と一緒に盛り上がりたかった。)

 求司は丈二の隣で手拍子をしながらも、彼女がそばにいてほしい気持ちでいっぱいだった。


 ライブを見終わった後、求司は丈二と一緒に彼の家に向かっていった。

「ジョー。こんなことを今になって言うのも何だけれどさ。」

「何だ?キュージ。」

「僕とアンが戻ってきてから、新たな魔物の出現を阻止してくれてありがとう。」

「まあ、マドリガルからあんなことを言われたら、そうしないわけにはいかないからな。それに。」

「それに?」

「彼女につらい思いをさせてきた償いをしなければって思っていたからな。」

「それはもういいよ。マドリガルならきっと許してくれるから。」

「それならいいけれどな…。」

 丈二は最後まで彼女に謝罪が出来なかったことを悔やみつつも、魔鬼王との戦闘終了をもってゲームを完全に終了させて封印作品にすることにしたため、あれがマドリガルと今生の別れになる予定だった。

 しかし、この世界に戻ってきた求司と安奈が涙に暮れていたことや、画面の向こうにいるマドリガルもブレッザの隣で悲しみに沈む姿を見て、気持ちは揺れ動いていた。

「それで、僕とマドリガルは再び会えるようにはなりそうかい?」

「まあ、不可能ではないんだけれど…。」

「本当に?じゃあ、ぜひ頼むよ。」

「でも、旅行気分で行くつもりなら断る。これはお互いの人生に関わることなんだからな。」

 丈二はもし求司が再びマドリガルに会った場合、3つの選択肢が考えられることを話した。

 その選択肢は、1つ目は求司がマドリガルを連れてこの世界に戻ってきて、彼女がゲームの世界から本当に別れること。

 2つ目は求司がゲームの世界の人になり、現地でマドリガルと一緒に過ごすこと。

 そして3つ目は求司が一人でこの世界に戻ってきて、その後はもう出会わない2つの道を歩んでいくということだった。

「これからキュージがどれを選んだとしても、当然失うものがあるし、重い決断を迫られることになる。それを乗り越えていけるだけの覚悟があるか?」

「うっ、それは…。」

「それではだめだ。君が大切な何かを失い、それを乗り越えていく気持ちが無ければ、行かせるわけにはいかない。」

 丈二は申し訳ない気持ちを抱えながらも、それでも心を鬼にして言い切った。

「分かった。これからじっくりと考えることにするよ。でも、僕は絶対にマドリガルのことは忘れない。きっと一日として忘れたりはしないよ。」

「そうか。じゃあ、悔いのない決断をしてくれよ。」

「うん。」

 2人が会話をしていると、それから間もなく丈二の家にたどり着いたため、求司は「またね。」と言い残して自分の住むアパートへと向かっていった。


 それから2週間後。求司は野球場だけでなくコンサートなどのイベント会場での仕事にもありつき、何とか一人暮らしを継続していけそうな目途が立った。

(マドリガル。あれからスマートフォン越しにしか君に会えていないけれど、元気でいるかい?君のおかげで僕は精神的につらかった時期をひとまず乗り越えられたよ。そして、これからも君のことを思い出しながら仕事頑張るからね。)

 彼は駅に行くと、以前、マドリガルと一緒に通った改札を通過し、電車に乗り込んで野球場へと向かっていった。


 安奈はすっかりArctic Grassの一員に溶け込み、楽器の演奏に加えて積極的に作曲にも取り組んでいた。

「志郎。私が作った曲に詞をつけてほしいんだけれど、いい?」

「いいよ。じゃあ、君はその曲の編曲をお願いしてもいいかな?」

「分かったわ。お互い頑張りましょう。」

 2人はすっかり意気投合しており、バンドメンバー以上の関係になっていた。

 ちなみに志郎は作詞と作曲を両方こなすことが出来、大半の曲を手掛けていた。

(ANNEは作曲専門、ミナコは作詞専門、NIQUEは主に編曲を担当。)

 なお、バンドではミナコがNIQUEの指導のおかげでキーボードの腕前が上がってきたため、Into the Super Battleの中で演奏することになった。

 それに伴ってNIQUEはベースに専念することになり、安奈は演奏時にはギターとリコーダーを、曲作りではそれらに加えてドラムスも担当することになった。


 ある日。この日が休日だった求司は、在宅ワークをしている丈二の部屋にやってきた。

 そこでは彼に加えて安奈がおり、2人はパソコン越しに音楽を聞いていた。

「やあ、ジョー、アン。」

「いらっしゃい、キュージ。」

「こんにちは、求司さん。」

「こんにちは。今何をしていたの?」

「実はね、私が作曲した曲をお兄ちゃんに聞かせていたのよ。」

「えっ?アンが作った曲を?」

「そうよ。マドリガルと過ごした日々をイメージしたの。」

「じゃあ、僕にも聞かせてくれる?」

「いいわよ。」

 それを受けて安奈は冒頭から再生し直し、3人はその曲に耳を傾けた。

「どう?キュージは気に入ってくれたかな?」

「確かにマドリガルとの思い出が詰まった感じがするね。良かったよ。」

「ありがとう。一生懸命作った甲斐があったわ。これなら胸を張って新曲が作れそうだわ。」

「新曲って?」

「実はね、もしも私がゲームの世界でマドリガルに会えたらという場面をイメージした曲を作ろうとしているのよ。」

「えっ?それじゃ、アンもマドリガルに会いたいんだね。」

「ええ。この髪飾り、ずっと大事にしているし、私も自作曲を通じてお兄ちゃんにお願いすることにしたの。」

 丈二は求司だけでなく、安奈も同じ気持ちであることをはっきりと自覚した。

「分かった。アンもキュージもそこまでマドリガルのことを思っているのなら、もう一度ゲームの世界に行ける道具を作ることにするよ。」

「お兄ちゃん、本当なの?」

「またマドリガルに会えるんだね?」

「ああ。ただし、1往復分だけだ。そして、向こうに行っている間にどうするのかをしっかりと決めてほしい。」

 丈二は以前、求司に提示した3つのアイデアを再び話した。

 彼はすでにその話を聞いていた一方、安奈は初めて聞いたため、「そ、それは…。」と言ったきり、黙り込んでしまった。

「どうだ?キュージは決断出来たか?」

「うん、決めた。もう一度ゲームの世界に行く。そして、マドリガルに会って、僕の気持ちを伝えた上で、悔いのない決断をするよ。」

「そうか。分かった。では、これからそのアイテムを作ることにするよ。」

「ジョー、ありがとう。」

「でも求司さん、仕事はどうするの?」

「それは一旦中断するよ。そうすれば安心して行けるようになるから。」

 彼は本気で行くことをアピールした。

 一方、丈二は自身の在宅ワークがあり、安奈は大学での授業と音楽活動があるため、行くわけにはいかなかった。

 そのため、現地には求司が一人で行くことになった。

「じゃあ、その時はこの髪飾りを持っていって。マドリガルに返してあげたいから。」

 安奈はそう言って髪を結んでいる髪飾りを指さした。

「分かった。必ず返してくるからね。」

 求司は喜んで彼女の要望に応えた。


 それから1週間後。アイテムの完成の連絡を受けた求司は、仕事を正式に中断した。

「ジョー。こんにちは。」

 無職同然の身になった彼は、再び丈二の家にやってきた。

「ようこそ。もう一度聞くけれど、本当に覚悟は出来ているか?」

「うん。もう迷わない。行ってくるよ。」

「分かった。じゃあ、これらを渡すことにするよ。」

 丈二はゲームの世界を往復するためのアイテムと、事前に安奈から受け取っていた髪飾りと手紙を差し出した。

「ありがとう。必ずマドリガルに渡すことにするよ。」

 求司はお礼を言いながらそれらを受け取った。

「あと、このパソコンにアンの自作曲が収録されているんだ。彼女はマドリガルにぜひ聞いてほしいって言っていたから、キュージのスマホに入れてもいいかな?」

「うん、いいよ。」

 求司は喜んで同意し、スマートフォンを差し出した。

 そして丈二はそれを受け取るとパソコンに接続し、曲をダウンロードした上で返却した。

「頼んだぞ。そして、悔いのない決断をしてくれよ。」

「うん。マドリガルに会って、しっかりと自分の気持ちを伝えてくるよ。それじゃ、行ってくる。」

「分かった。行って来い。たとえどんな決断をしようとも、僕はしっかりとその結果を受け止めるつもりだ。」

「ありがとう。」

 求司は強い意志を胸に秘めながら、いよいよアイテムを使用した。

 すると少しずつ彼の体は光に包まれていった。

 その様子を丈二は何も言わずにじっと見つめていた。

(これからどういう結果になるのかは分からない。でも、いずれにしたって人生は素晴らしいアドベンチャーなんだ。必ずハッピーエンドにしてみせる。)

 まばゆい光に包まれながら、求司は新たな日々に期待を寄せていた。


 マドリガル。今、会いに行くからね。


(終わり)


 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 ゲームの世界に行った求司がマドリガルに会った後、どのような決断をしたのかについては、読者の想像にお任せします。

 何卒ご了承ください。


 なお、この度、この作品の主題歌として自分で書いた詞を発表します。

 原曲はPCエンジンのゲーム「スーパースターソルジャー」のステージ1のBGM「Into the Super Battle」です。


タイトル:Into the Super Battle


僕は勇者なんかじゃない

期待されても 恐れ多いけど

待っている人のため

立ち上がることにしたんだ


Overcome my fear

Let me go and give it a try

Go into the super battle


危険なのは分かってる

それでも 誰かが行かなければ

困っている人のため

救いたい 世の中のために


Show you my courage

Let me lead to the place

Go into the super battle


ララララ… Into the super battle

Super battle


僕は勇者なんかじゃない

一人だけじゃ 何も出来ない

どうか 力を貸してくれ

君となら 乗り越えられるさ


Overcome our fear

Let’s fight on the front line

Go into the super battle


危険なのは分かってる

それでも 僕らが行かなければ

どんな未来が待っていても

素晴らしい人生にしようよ


Show me your courage

Let’s go to the Promised land

Go into the super battle


ララララ… Into the super battle

Super battle


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