第21話 Be Good
魔鬼王を退けた後、ルウ、マドリガル、求司、安奈、アリアの5人はマイザーの村にやってきた。
「あっ、お姉ちゃん達お帰りなさい。」
「ブレッザ、ただいま。何とか帰って来られたわ。心配をかけてごめんね。」
「いいんだよ。無事でよかったよ。」
2人はしっかりと手を握って喜び合った。
村の診療所にやって来ると、そこにはまだケガをしている状態のカブキがおり、さらにアリアもそこで治療を受けることになった。
「それじゃ、彼女の世話をお願いします。」
「分かりました。責任をもって世話をします。」
医師の人はルウの要請を喜んで受け入れた。
外に出ると、そこにはすっかり正気を取り戻したバンビーノとカノンがいた。
2人は求司と安奈をまだ見たことが無かったため、彼らがそれぞれ自己紹介をした。
「そうか。俺達の代わりに戦ってくれたわけか。」
「私達のために、本当にありがとうございます。」
彼らはお礼を言った後、自分達が魔鬼王の手にかかったせいで洗脳されてしまい、みんなに迷惑をかけてしまったことを謝った。
「こちらこそ。僕もカノンに打球を当てたので、謝らなければいけません。」
「私も、バンビーノさんの首元に突きを入れてしまってごめんなさい。」
求司と安奈は彼らにつられるように謝った。
「でも2人とも無事で良かったわ。相手はあたし達が倒してきたから、もう大丈夫よ。」
マドリガルはこれまでにあった出来事を彼らに話した。
その中で、自分のHPが大幅に増えただけでなく、強力な魔法を使えるようになったことを話した。
「そうか…。お前は戦闘で大活躍をしてきたわけか。」
「今まで弱いと言っていたことが恥ずかしいです。」
バンビーノとカノンは彼女に対して頭が上がらず、反省するばかりだった。
「ホラホラ、笑ってよ。あたしはもう気にしていないんだから。確かに寂しい思いもしたけれど、あんた達は大切な仲間よ。これから仲良くしていきましょうね。」
「ああ、分かったぜ。」
「了解しました。」
マドリガルの明るさのおかげで、うつむくばかりだった2人は精神的に少しずつ立ち直っていった。
求司「良かったね。これでもう寂しい思いをしなくて済むね。」
安奈「これからはみんなで仲良く過ごしてね。約束よ。」
「ああ。約束するぜ。」
「私も約束します。」
2人は深々と頭を下げた後、しっかりと約束をしてくれた。
その日の夜。求司と安奈は6人のパーティーメンバー、そしてブレッザと一緒に魔鬼王を倒したお祝いをしてもらえることになった。
しかし、カブキは戦闘に参加しておらず、ましてバンビーノとカノンは逆に足を引っ張る存在になってしまったために素直に喜べず、恐れ多い表情を浮かべるばかりだった。
そして、アリアはやはりこういう雰囲気が苦手なのか、部屋の片隅で一人黙々と食事をとっていた。
「求司君、アンさん。出来ることなら、これからもこの世界に滞在してくれないか?」
「そうね。これで争いも収まっていくだろうし、平和についてもっと教えてほしいんだけれどな。」
ルウとマドリガルは2人に心の内を打ち明けた。
「それは、うーーん…。」
「そうなれたらねえ…。」
安奈と求司は即答出来ず、あいまいな返答に終始した。
それから2時間後。お祝いはおひらきとなり、求司と安奈は村で一泊することを提案された。
「みなさんご親切に、ありがとうございます。」
「では私達、ゆっくりさせていただきます。」
2人は喜んで受け入れた。
そして布団に横になり、ゆっくりと休むことにした。
(ここはインターネットも無いけれど、結構過ごしやすそうね。もし旅行気分でこの世界に来られたら…。)
(この世界の人達は優しいんだな。これで本当に争いさえ無くなれば、OKを出しても悪くないな…。)
安奈と求司は目を閉じたまま、色々なことを考え続けた。
翌朝。一行が目を覚ました後、彼らは朝食をごちそうになった。
そしてルウ、バンビーノ、カノン、アリア、カブキの5人は、ブレッザのテレポートで勝利の報告をしに、冒険の始まりの地であるビダの町に向かっていった。
残った求司、安奈、マドリガルは村の外に歩いていった。
「それで、求司とアンはこれからどうするの?」
「うーーん…。あれから一晩考えたんだけれど…。」
「やっぱり私達、元の世界に帰るべきだと思うのよ。」
「本当に帰っちゃうの?あたしとしては、ここにいてほしいんだけれど…。」
「僕だって、本音はそうなんだ。だけど帰らなかったら、ジョー達が心配するし…。」
「それに、お兄ちゃんの話では、私達はいつまでもここにはいられないって。」
「そう…。」
マドリガルは心の中では覚悟していたものの、いざ2人の決断を聞いて、うつむいてしまった。
さらに求司は本当のボスは別に存在し、魔鬼王は単なる手先に過ぎないことや、そのボスが今夜姿を現し、再びこの世界を混乱に陥れることを打ち明けた。
「えっ?それって本当なの?せっかくこの世界に平和が訪れたと思ったのに。」
「本当なんだ。僕はこのゲームをクリアしたことがあるから。」
「じゃあ、あたし達、これからもまだ戦うの?」
「言うのはつらいけれど、多分そうなるわね。」
安奈も申し訳なさそうに事実を告げた。
「イヤ…。そんなのイヤ…。あたし、もう戦いたくない。平和な世界で過ごしたい。求司とアンと丈二さんと一緒に過ごしながら、平和についてもっと学びたい。」
マドリガルはすがるような表情をしながら自分の心の内を打ち明けた。
それを聞いて、求司と安奈も彼女を連れて帰り、丈二にこれで戦いが本当に終わらせてもらえるようにお願いしたくなった。
しかし、求司と安奈はこれまでの歴史の授業で学んだことから、これまで平和を知らない人達に平和を与えても、必ずしも幸せに暮らせるわけではないことを打ち明け、マドリガルにはこの世界に残って、平和の大切さをみんなに広めてほしいことを伝えた。
「じゃあ、あたし達はもう直接会えなくなるの?」
「分からない。それはジョーに聞いてみないと…。」
「でもお兄ちゃんならきっといい方法を思いついてくれるわ。」
「本当に?本当にそうなるわよね!?」
「うん。時間はかかるかもしれないけれど、ジョーならきっと僕達の願いを叶えてくれるよ。」
「私もそう信じるわ。どれだけ時間がかかるか分からないけれど、きっとまた会えるからね。」
求司と安奈は気持ちを抑えながらマドリガルを励ました。
「分かったわ。絶対にまた会おうね。そして、あたしはこの世界で平和の大切さをみんなに伝えて、必ず幸せに暮らしてみせるからね。」
そう約束する彼女も懸命に気持ちを抑えていた。
「じゃあ、約束のしるしとして、僕から一つプレゼントをしたいんだけれど。」
「何?求司。」
「僕の持っているこのバットを君に渡すことにするよ。」
「えっ?いいの?だってそれは…。」
そのバットは求司が野球部に所属していた時に使っていたもので、引退後も大切に持ち続けていたため、マドリガルは受け取りを拒否する仕草をした。
「いいんだ。君がこれを見て僕のことを思い出してくれれば、それでいいよ。だから受け取って欲しいんだ。」
求司は名残惜しそうな表情をしながらも、たくさんの思い出が詰まったバットを差し出した。
「分かったわ。大事にするわね。でもあたしから何か渡せるものがあればいいんだけれど…。」
「大丈夫。君の写真とフェリーで撮った動画があるから。」
求司はスマートフォンを取り出すと、その時の様子を再生した。
『求司。今日は本当に楽しかったわ。誘ってくれてありがとう。今日の出来事、一生の宝物として心の中に取っておくからね。』
「僕、これから毎日この動画を見て、君のことを思い出すよ。そして心の支えにするからね。」
「ありがとう。じゃあ、もう一度あたしを撮影してくれる?」
「えっ?いいの?」
「うん。これであたしのことを思い出してくれるのなら、喜んで協力するわ。」
「分かった。」
求司は早速スマートフォンを動画モードにすると、それをマドリガルに向けた。
すると彼女はニッコリと微笑みながら感謝の言葉を述べてくれた。
「ありがとう。大事にするからね。」
録画を終えた求司はもはや涙をこらえることで精いっぱいだった。
次に安奈は自分の手を髪に当てて「私はこれをあなたにあげるわ。」と言ってリボンをほどいた。
すると髪の先は背中の真ん中辺りにまで降りてきた。
その姿を見たマドリガルは自分も両手を髪に当て、髪飾りを外した。
「じゃあ、アン。これを交換しましょう。」
「分かったわ。これからはこれを見ながらお互いのことを思い出しましょうね。」
「うん。約束よ。」
マドリガルと安奈はお互いを見つめ合いながら指切りをした。
そして交換したリボンと髪飾りで自身の髪を縛った。
1時間後。ブレッザがルウ達を引き連れてマイザーの村の近くにやってきた。
それを見た3人は誰にも邪魔をされることなく、一緒にいられる残り少ない時間を満喫するためにテレポートで移動をした。
そしてマドリガルが右手を出して、安奈の左手をつないだ。
次に求司は右手でマドリガルの左手を、左手で安奈の右手をつなぎ、3人で輪になった。
そして3人は時計回りに歩き出し、名残惜しい気持ちをこらえながら笑顔を見せた。
(元気でね、マドリガル。心はずっと一緒だからね。)
(求司。あたしが好きになった人。ずっと忘れないから。)
2人は顔を赤らめながらお互いの顔を見つめ合った。
そして日が西に大きく傾いてきた頃。求司と安奈はいよいよ元の世界に戻るためのアイテムを使用した。
「じゃあ、僕達は新たな敵が現れないように、ジョーにお願いするからね。」
「あなた達は何も心配しないで、この世界でどうか平和に過ごしてね。」
2人の目からは涙がとめどなくあふれていた。
「うん。そうするわ。必ずこの世界を平和にしてね。そして、元気でね…。」
すでにマドリガルの目からも涙があふれており、彼女は自分もその中に飛び込んでいきたい気持ちをこらえながら右手でバイバイのジャスチャーをした。
「求司、アン、元気でね。」
「君もみんなと幸せにね。」
「さよならは言わないわ。」
3人がそう言い残した後、求司と安奈の体は完全にまぶしい光に包まれた。
その後、光がおさまると、その場に彼らの姿は残されていなかった。
(そうよ。さようならは言わないわ…。きっと会えると信じているから…。)
マドリガルは自分の両手で顔を押えると、その場にひざまずくように崩れ落ちてしまった。
それから間もなく、ブレッザがテレポートでその場にやってきた。
「お姉ちゃん…。」
彼はそれっきりマドリガルにかける言葉も無いまま、ただただ寄り添い続けていた。
元気でね…。求司…、アン…、そして丈二さん…。
絶対に…、絶対に、また会いましょう…。
次回が最終回です。




