34.ただの本音
緑川視点
今日は緑の若手の集まりだった。
色々と面白い話を仕入れて、いくつか商談のアポを取ったところまでは良かったのだが、そこからは女性陣に追いかけまわされて話どころではなくなってしまった。
緑において貪欲さは美徳だ。黄の一族から常に蔑まれ命を狙われ続けてきた混血の人間たちが大手を振って出歩けるようになったのは、なりふり構わず収益を上げて世の中になくてはならない企業を作り上げてきた先人たちのおかげだ。
まだもろい足場を強固にすべく。そして自分自身のために。
男女関係なく緑の人間は向上心が強く抜け目がない。
僕は緑の一角を担う実業家だ。そして、今日参加していた人間の中では、収益が頭一つ飛び出している。自分にはそういった意味で価値があるのはわかっている。
けれどここまでだとは思っていなかった。去年まではこれほどではなかったので、やはり学園を卒業したのが大きいのだろう。
婚姻関係でつながりを強化するなんて前時代的だとは思うけれど、一定の効果があるのは否めない。
わかっている。わかってはいるのだけれど。
……とにかく疲れた。
仕事を口実に抜け出して帰ってきたが正直もう、指一本動かすのもおっくうだ。
眼鏡を外してぐったりとソファに沈み込む。
「主は昔から積極的な女性は苦手ですよねえ」
苦笑する柚葉の声に目を閉じたまま答える。
「……そうだね。貪欲なのはいいことだと思うんだけどね。自分に向かってくると……利益だけむしり取られてあとは殺されそうな勢いでどうもね」
旨味がなくなればあっさり手のひらを返されるのがわかっているから、余計にだ。
魔力が低すぎてガラクタ扱いされていた人間でも、収益さえ上げられれば次々人は寄ってくる。
こういうのも成り上がりというのだろうか。
「じゃあ主はどんな子ならいいんです?」
疲れて回らない頭で考える。どんな子なら……?
「そうだね……有能で……話をしていて楽しくて……。プライベートでは少し弱気で守ってあげっ……!違う!」
「違わないでしょう。ただの本音ですよ」
しれっと言われて眼鏡をかけなおす。
「どうしました?続きはないんですか?」
「ないよ」
「言ってくれればお疲れの主にぴったりのお相手を連れてきますけど?」
「間に合ってる」
「間に合ってるんですか?」
……だめだ。今日は失言が多い。
「もういいから下がって」
「無駄な抵抗してないで認めたらどうですか」
「…………」
「黙秘ですか。手に入れたいものは何だって手に入れる貪欲さはどこに行ったんですか」
「……分別が付いて大人になったと言ってほしいね」
「だだもれしてるくせに」
「今日は疲れすぎて思いもしないことを口走っただけだよ」
「ポンコツ主」
「……もういいから下がって」
もう本当に気力がない。これ以上話していると余計なことまで言いそうだ。
柚葉はわざとらしくため息をついた。
「はいはいそれじゃあソファじゃなくてベッドで寝てくださいよ。いい夢が見られますように。弱気ですぐ涙目になる誰かさんの夢とかね」
「柚葉!」
思わず声を上げたが、柚葉はもう出て行った後だった。
「余計なことを……」
つぶやきながらスーツを脱いで就寝の支度をする。
今日は疲れすぎた。もう夢も見ずに眠れるといい。
明日は……また仕事の話ができるといい。心躍る話ができるといい。
彼女の軽やかに踊る指先を思いながら、ベッドに入って目を閉じた。




