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沈む皇室  作者: 弓張 月


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大瑠璃宮妃の決心 1

今回は久しぶりに大瑠璃宮妃が出てきます。

宮妃も相当御歳ですが、菜子ちゃんに大切なお話があるようです。

どうぞお読みください。

后宮が倒れた事はすぐに速報で全国に報道され、ついでに「悲しみを覚えます」の誕生日文書が公表された事であっという間にマスコミは180度態度を変えた。

「誰だ!后宮様の悪口を言ったのは」的なタイトルが雑誌に踊り、そうなると誰もかれも口をつぐんでしまう。

后宮はいわゆる「失声症」になった。

どうしても声が出ないのである。倒れたのはヒステリー時の発作なので特に心配はないが、声の方は特に脳に異常があるわけではないのに出ないのでより深刻だった。

「いつ声が出るかと問われましても、明日か明後日か来年か。それはわかりません。ご本人の心の持ちようでございますので」と侍医は説明した。

帝は大変心配され、暫く御用邸で静養する事になり蓮宮も同行した。

東宮は見舞いに来たものの、東宮妃はこなかった。

秋月宮夫妻はすぐに皇居に駆けつけたが、今度は后宮が会いたがらなかった。

「色々心が乱れて、そういう姿をお見せしたくないとのご意思」と女官長には言われた。

しかし、后宮の本音は「菜子には負けたくない」という気持ちだ。

何を持って「勝ち負け」を判断するのか、それは誰にもわからないが、こっそりと東宮妃の事は自分より下だから甘やかしてもいいと思い、菜子には「厳しく」と思ってしまう。

そんな厳しい自分が弱弱しい姿を見せたら「負け」と思う。

蓮宮はそんな母の気持ちが全然理解できてはいなかったが、全てを押し殺して母に付き添っていた。

週刊誌は元通り、幸子が太ったと言えば「ご懐妊か」と書き、「ヒールの低い靴を履いた」と言えば「ご懐妊」と騒いだ。

でも一向に東宮妃が懐妊する事はなかった。


菜子が大瑠璃宮妃に呼ばれて宮邸に行ったのは、すでに冬になりかけの頃だった。

北風が宮邸の銀杏の木の葉を落とす。金色の葉が落ちる様は幻想的で菜子はうっとりとみつめた。

応接間から見えるその銀杏の木と、四季咲の薔薇。

濃い赤で花が少し小さめ。それでも凛として美しい。

「待たせたわね」と侍女に車いすを押して貰って入って来たのは大瑠璃宮妃だった。

「私が」と菜子は、宮妃がソファに座るのを手伝った。

「ありがとう。歳をとるといやねえ」

「そんな。妃殿下はいつまでおお若くございます」と菜子が言うと

「お世辞はいいよ。おばさまとお呼びなさい」

「はい。おば様」

宮妃は侍女に献上されたばかりの紅茶を入れて持ってくるように言いつけた。

菜子は赤いウールのワンピースを着ていたが、その姿を目を細めて宮妃は見つめる。

「あの庭の薔薇のようだね」

「?」

菜子は言われているのが自分の事だと気づかず、ちょっと笑ってごまかした。

「理子ちゃんは元気なの?」

「はい。お陰様でおしゃべりになりました」

「そう。いいわね。大事になさい。あの子は大宮様に似ているわ。私はいつもそう思って懐かしくなるの。でも頑固そうね。それはあなたね」

「そうでしょうか」

「そうですとも。私達はね、何があっても唇を真一文字に結んで進むのよ」

紅茶が運ばれて来た。バラ色の美しい紅茶でまた香りが素晴らしかった。

「あなたが来ると思ってとっておいたのよ。最初に飲むのがあなたでよかった」

宮妃はいとおしそうに菜子を見つめた。

侍女特製のクッキーも甘すぎずおいしくて、菜子は帰りにレシピを聞いておこうと思った。

「后宮はまだ声が出ないのよね」

「そのようです。お気の毒で」

「お気の毒なものですか。あの人は大昔からそうなの。気にくわない事があるとすぐに倒れたり、言いつけたりね。ほっておきなさい。そのうち収まるから」

そうはいっても・・・嫁としてはそうもいかない。

「わかるわよ」と見透かしたように宮妃は言った。

「私達もね。先々帝の后宮が怖くてね。叱られてばかりいたから。特に大宮様はおっとりしてらして后宮様に叱られてしゅんとなさる事が多かったわ。宮家のお姫様だったし。ご自分が姑の立場になったら何もおっしゃらずに耐えていらした。あの嫁は本当に気が強くて口がうまくて。裁縫一つ出来ないくせにね」

「でも、后宮様は東宮様の服をミシンで縫っていらしたと」

「それっきりでしょ。むしろ裁縫が出来るのよと自慢していただけ。実際は包帯一つ作れないの。秘密よ。見栄っ張りで弁が立つ。一番よくないタイプ。東宮妃は親の威光を笠に着て出来もしない事を出来る出来るというタイプ。

「ところで、お勉強はどうしているの?まだ大学院でしょう?」

「はい。来年から大学院に戻ります。宮様の御許しが出たし大学院からもいいと言われて」

「公務に子育てにお勉強。大変だわ」

「自分のペースでゆっくり行こうと思います。勉強は一生ものですし。宮様も鶏の研究をなさっていますから」

「鶏が家禽になった経緯をとかいうの?私にはわからないわ」

宮妃はくすくす笑った。

「本当は私も。でも宮様に鶏の絵を描くように言われました。写実的に描くように言われたので頑張って練習しております」

「そう偉いわね。二宮のこだわりについていけるのはあなたくらいね」

菜子は褒められてちょっと嬉しかった。

そんな菜子を本当にいとおしそうに見つめる宮妃。

ああ、子供がいたらこんな風なんだろうかと。

「恨みというものを考えた事あるかしら?」

いきなり話題が「恨み」になって菜子は驚いた。窓の外の風が鳴る。

「そう。世代を超えた「恨み」というものがある事を知らないといけないわ。そして東宮妃はその「恨み」を背負っているのよ。八又奇病の恨みをね」

宮妃はゆっくり語りだした。

「なぜ私達、つまり私私と高砂宮、そして雲井宮家に子供が出来なかったと思う?それはね。今から300年も前の事よ。将軍家があまりに帝を締め付けるので帝が怒って譲位なさったの。将軍家から来た嫁が産んだ姫にね。そうする事によって将軍家の血は絶えたの。それくらい将軍家と帝は仲が悪かったのよ。私も菊君も彩君もみな将軍家の血を引く娘だった。私達が皇室に入ったのは当時の帝が賊軍になった将軍家を哀れんだからよ。だけど、結果的に私達には子供が出来なかった。和解しようがないの。きっと。将軍家に繋がる女を宮妃にしただけではダメなのね。私はそう思うわ」

大瑠璃宮妃の言葉を菜子はじっと聞いていた。

「皇室という所は本当に怖い場所よ。容赦しないの。一度でも筋を曲げたら八百万の神々が許さない。だから東宮はあんな妻を娶った。だけどね。あなたは違う。あなたは神様に選ばれて二宮の妃になった。もう答えは出ているのよ。けれど、あなたの事を思うと胸が痛む。これからどんなに苦労するでしょう。試練が待ち受けているわ。それを一つ一つ乗り越えないと。私がしてやれることは・・・」

そこで宮妃はごほっとせき込んだ。

「おば様。大丈夫ですか。今、侍女を」

「いいの。いつもの事よ。とにかく私の言う事を聞いて頂戴」

宮妃は息を整え、言った。

「あなたに結核予防会を任せようと思います」


いかがでしたか?

まあ、想像なので何でも書けちゃいますけど。

怖いですね。将軍家に対する数百年の恨み。

でも真実っぽいでしょ?

大瑠璃宮妃はどんな事を決心したのでしょう?

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