悲劇のお妃候補7
今回もよろしくお願いします。
難しいですか?内容。
なるべくくだけた文章にしているつもりなんですけど。
なかなか今風にはなれませんね。
「だったらプロポーズなさいませ」
柳田はにっこり笑ってそういった。
先日、思わず后宮の前で泣いてしまった東宮。
后宮は大変心配されて、御用掛けの柳田を「相談係」として遣わされた。
その事に藤原長官は少し心配になり、恐る恐る后宮に
「柳田氏は思想の方は大丈夫なのでしょうか」と聞いてみたが
「何の話?思想って何?」と根掘り葉掘り聞かれたので慌てて「いえいえ」と言ってしまった。
自分の予測が正しいなら絶対に彼は幸子を入内に導くだろう。
どうしたらそれを止められるのか。
東宮仮御所では柳田が生き生きと話をしていた。
「つまり女性というものは男性からプロポーズされるのを待っているのです。いつまでもデートしかしなかったら遊ばれていると思うでしょう」
「僕は真剣だよ」
東宮はとても感心して目をキラキラさせていた。
今まで何でも周りに決めて貰っていた東宮が、生まれて初めて自ら「プロポーズ」という大仕事をやらないといけないのだ。
「でもここに呼んだらおもうさまが反対するし」
「そうれはそうでしょう。こんな味気のない部屋でプロポーズしてもいい答えは引き出せません」
「だったらどうしたら」
「そうですね」
柳田は少し考えた。そして「あ」といい、さらに得意げに笑った。
「ええええ。いい所があります」
「どこ?」
「鴨場ですよ。いつも外交団を接待する鴨場。鴨と水辺に木。そろそろ紅葉の季節でもありますし、そこでプロポーズされてはいかがでしょう」
「いいね。でも鴨場って好きな時に入れるの?」
「東宮様のプライベートなお出ましなら宮内庁も反対しないでしょう。それは私に任せて下さい。お誘いの時期が来たら私から連絡します」
「うん」
東宮は本当に嬉しくなって思わず握手してしまった。
「本当に僕はどうしたらいいかわからなかったんだよ。でも柳田さんのお陰で希望が持てた」
「そう言って頂けるとありがたいです。東宮様は后宮様の大事なお宝でございます。その宮様が笑顔になって下さって私も嬉しいです。ただし、この事は両陛下には内緒に。東宮大夫にも言わないでください」
「そうなの?秘密にしないとダメなの?」
「勿論でございます。大和田家の令嬢との結婚には様々なハードルがある。それを殿下は一人で越えなくてはいけません。その一つがプロポーズです。他にもいろいろ超えないといけないハードルはありますがね。ここは殿下の人生における重要な地点です。誰にも邪魔はされたくないでしょう?」
「そうだよね」
「ですから内緒に。打合せは私といたしましょう」
「わかった」
何をどう言ってるのか本当はわかってないけど、東宮はとにかく希望があるという事で幸子の顔を思い浮かべた。彼女が自分のものになるのならなんだってする。
なぜかわからないけど、力がみなぎってきた。
「長官!」
執務室で仕事をしていた藤原長官に内線電話が入った。
「何だね。慌てて」
電話の主は秘書だった。
「あの、大和田様からお電話で今日お会いしたいので執務室に行かれると」
「なんだって?」
長官は大声を上げた。
「何をいきなり。なぜ私が会わないといけないのかね。無礼な。断りなさい」
「でも大和田様がひどく怒っていらして・・・」
秘書は今にも泣きそうだった。
電話でそこまで怯えさせる大和田哲也とは・・?長官は仕方なく「変わるよ」と言った。
「藤原・・・・」
「宮内庁長官」と名前を言い終わる前に上から目線の言葉が飛んでくる。間違いなく大和田哲也だ。
「私はこれからそちらにお邪魔しようと思う。だから外出はしないで頂きたい」
「いきなり何をおっしゃるんでしょうか」長官も怒り出した。
「無礼にも程があるでしょう。いくら外務事務次官だからって」
「自分の娘の話だ!今日でも今でも構わん!」一瞬にして電話が切れた。
一体、何があったんだろう。
長官は慌てて執務室を出ると、副長官以下各部署がいる大部屋に向かった。
「どうされました?」
副長官がびっくりして立ち上がった。元々は警察庁出身で宮内庁に配属されてからまだ日が浅い。
「いや、今の電話だ。外務省の大和田哲也という人物がこっちに来る」
「お約束ですか?」
「約束などするか!こっちの意見も聞かずに電話を切るとは無礼千万。こちらをどこだと思ってる。何でも外務省が偉いと思うなよ」と思わず本音を言ってしまった。
「ああ・・例のカンキリ殿ですね」
「カンキリ?なんだ?それは」
「いや、大和田氏のあだ名ですよ。閣下とかカンキリとか呼ばれていて。何でカンキリなのかはわかりませんけど。政府の内部にまで権力を持ってるらしくてとんでもない人ですよ。怒らせない方がいいかも」
「こっちは宮内庁だぞ」
「いや、そういう問題では・・・」
という間に、門から電話が飛んでくる。
「たった今、外務省差し回しの車で大和田哲也という方が長官とお会いする予定だと。こちらは何もうかがっておりませんが」
「約束なんかしておらん。帰ってもらえ」
長官はこういう自己中心な奴が一番嫌いだった。
勝手に押しかけておいて「約束」だと?ふざけるな。
暫くするとまた門から電話が。
「あの、娘さんの事で重要なお話があると」
「こっちにはない」
「その場合、帝に直訴すると」
「はあ?」
あまりの展開に藤原長官は倒れそうになり、副長官が慌てて体を支え水を差しだす。
「ここは大事にしない方がよろしいのでは」
心配そうなみなの目を見て長官は逡巡する。
大和田の娘の事はもうダメだと言っているのに、親自ら売り込みに来たのか?
どういう魂胆なんだ。いや、常識外れもいい所だ。そんな男が外務省にいる事自体がいけないのでは。
と迷っていると、今度はこちらの電話が鳴った。
「あの・・・丸田大臣から長官に直電です」
は?内閣の?
さすがに長官はすぐに電話に出た。
「藤原でございますが」
「ああ、宮内庁長官の藤原さんですね。いやいや、今ね、外務省の大和田君から連絡があって。どうしてもあなたに会いたいらしいんだよ」
「はあ・・」
まさかとは思うが大臣クラスに根回しを?
「しかし、こちらも仕事がございまして」
「そうだよね。迷惑なのは十分知っているよ。本当に非常識だ。でも彼は何か重要な話があるみたいなんだ。申し訳ないが少しばかり会ってやってくれないか?」
「大臣?」
「いやいや、お恥ずかしい話だがね。父と大和田さんは長い付き合いで私もまたね。ぜひ口利きをと言われてしまって。どうかな。ここは私の顔を立てて会ってやってくれないか」
「・・・・・」
長官は言葉を失った。
行動の速さが尋常ではない。この男は・・そう思うと急に寒気に襲われる。
「わかりました。会います。会いますので」
そう言いつつ、門に連絡させた。
「いや、この借りはいつか返させて頂きますよ。よろしく」
電話を切るなり長官はその場に座り込んでしまった。
「長官・・・」部下がみんな本当に心配そうな顔で見つめているので彼は自分をふるい立たせた。
普段はのんびりしている役所で、こんな事は初めてだ。
しかし帝や后宮に御迷惑はかけられない。
「あの男が来たら執務室に通して」
それをいうのがやっとだった。
今回もお読みいただきありがとうございます。疑惑だらけの東宮の結婚にまつわる話。
実際はもっとどろどろしていたと思うのですが。
本人達より回りの思惑が。
そうはいっても、弟嫁が理想の東宮にとって彼女だけが唯一「勝てる」相手だったんだろうと思います。




