悲劇のお妃候補6
今回はまさに三者三葉の動きをご紹介します。
皇室に嫁ぐとは一体どんな意味があるのでしょうね。
わかってる人とわかってな人、父の立場と母の立場。
それぞれの思惑が違います。
読んで頂き感想なども頂けると嬉しいです。
敦子は、和室に掛けられた振袖を見て本当に美しいと思った。
真っ青な縮緬地に、赤やピンクで彩られた花車、亀甲模様、さらに檜扇模様がちりばめられ、金糸が豪華な100年以上も昔の振袖。
母はため息をつきながら「蘇ったわね。おばあ様のお着物が」と言った。
「帯は勿論西陣で新しく織らせるわね。きっと納采までは間に合うと思うの。それからスーツを仕立てないといけないわ。なんて忙しいのかしら」
母は嬉しそうに笑った。
敦子は、祖母の時代の華族や宮家の姫が嫁入りに使った振袖や小袿を見ながら果たして自分に似合うかなと思ったけど、母は絶対「おばあ様の振袖だけは譲れない」というので、合わせてみた。
現代にはない豪華な世界がそこに広がり、帯の色、帯締めや帯どめ、さらに小物類も選ぶのが楽しそうな本当に素晴らしい品だった。
「東宮妃になるのだから当然よ」と母は胸を張る。
「敦子は顔が地味だからどうかと思ったけど負けてない。さすがは桃園家の娘よ。バッグや草履の類も意匠をこらさないとね」
「そんな風に贅沢なさらなくても。東宮様はそんな事望んではいないでしょう」
「何を言ってるの。何が何でも后宮様より気品のあるものを選ぶ。これは一族にとって大事な事なんだから」
どうやら桃園家だけでなく、旧皇族方からの期待もかかっているらしい。
「白生地は何反いるかしらね。ドレスに仕立てるのもあるし。それから調度品でしょう」
まだ正式に発表されたわけでもないのに、母は有頂天になっている。
確かに内々に東宮妃に内定という話は貰ったし、その後も何度か東宮御所に行って東宮と話をしたりもしたけど、敦子からしてみれば「結婚」の実感がわかないのも事実だった。
一度、帝と后宮に招かれて家族で御所に上がった事もあった。
帝や后宮から夕食に招かれるという名誉にも預かったかれど、誰も自分と東宮を見て「恋人同士」には見えないだろうと思った。
「敦子ちゃんはとてもいい子ですよ。おもうさま。よい家庭を築けると思います」
東宮の言葉はどこか他人事のように聞こえて。
それでも決まった事は決まった事で受け入れないといけない。
先帝の時代から見て、今の皇室は大きく変わっているという。
東宮職の職員からちらりと聞いた限りでは、后宮のご意見が一番大事であるらしい。
帝はいつも「あちらはなんといってるの?」と后宮をおたてになるからだ。
ゆえに敦子も絶対に逆らってはいけないと両親から言われた。
何でも秋月宮妃は大層厳しいお小言を頂戴して、お子様が生まれた今も苦労されているという。
「まあ、菜子様は庶民の出であって、こちらとは育ちが違う事を差し引いても、后宮の嫁虐めはちょっとひどいという噂だ。だが、お前はそうそう軽くは扱われまいよ」と父は娘を安心させようと断言してくれたが、「虐め」という言葉を使う事にちょっと怖くなる。
外務省の北米課では大和田幸子の名前が有名になりつつあった。
そもそもあの大和田哲也の娘である事で一定の知名度はあったが、ちょくちょく東宮御所に招かれているという噂が広がり、さらに週刊誌に頻繁に「お妃候補」として顔写真が載るので一気に名前も顔も知られ、よその課から覗きにこられるほどになった。
そういう事は嫌いではない幸子は、相変わらずコピー番長として君臨していたが回りの自分を見る目が変わってきたと感じる程に心地よく、そしてちょっと得意になっていた。
「ねえ、大和田さんは東宮妃になるの?」
同僚にそう聞かれ
「まさか。なるわけないじゃない。私には仕事があるのよ」
仕事・・・相手は一瞬ため息をついたような気がする。
「でも週刊誌にお妃候補って載ってるわよ」
「いやよねえ。そんな気ないのに勝手に騒いで」
「東宮御所に行かなきゃいいんじゃないの?」
「え?」
「しょっちゅう行けば東宮様ももしかしてって思われるんじゃない?東宮様の事好きなの?」
「嫌よ。全然好みじゃないもの」
あんな背が小さくてハンサムじゃなくて、話もつまらない男。
「じゃあ何で行くの?」
「好奇心よ」
幸子はそう答えた。まさか毎回出るご馳走が目当てとは言えない。さすがに。
「相手に誤解させるような態度はどうかと思うけどね」
「何よ。私がそう思わせているというの?」
幸子は少し怒った。嫉妬しているのか?この女は。
幸子にとって東宮はアッシーでありメッシーであり、つまりそこらへんにいる男となんら変わらないのだ。どんなに「将来帝になる方ですよ」と言われても、皇室というものがわかっていなかったし、せいぜい他国の王様のようにきんきらの宮殿にいて、何でも思い通りになる世界の住人としか。
その割には東宮御所は地味に出来ていて、今建て替え中と言われているので本物が出来上がったらきっとキンキラ御殿になるんじゃないか。
東宮と友人関係にある自分はそんじょそこらの女が経験出来ない事を経験している。
それは大和田哲也の娘としての自分の特権だと思って居た。
(次はエビチリかなあ)
不敬にもそんな事を思って居るのが幸子だった。
東宮は御所に呼びつけられ、ひたすら帝に叱られ続けていた。
「すでに桃園家の令嬢と内々の婚約をしているというのに、なぜ他の女性を呼ぶのだ」
「幸子さんが帰国して外務省にいると聞いたから。それに誘えば快く来てくれて」
「その態度がよくないと言っているのだ」
「どうしてですか?僕は以前から妃には幸子さんをと思って居たのに。幸子さんではなぜいけないのですか」
「それは前にも話しただろう。八又奇病の問題は今も解決していないし富強化学は八又の人達にひどい事をして来たのは事実なのだ」
「それはわかりますけど幸子さんとは関係ないと思います。おじい様の事でしょう?そんな事言ったら僕だっておじい様の孫ですよ」
それを言われると帝は黙ってしまった。
「僕は知っています。おじい様こそ戦争犯罪人だという人たちがいること」
「なんてことを!」
帝は激高した。自分がいうのと人が言うのでは全然意味が違う。
まして帝の立場と富強化学の公害を同等に扱うとは。
「あんな公害病を出した会社と一緒にするな。東宮。お前は将来帝になる身だぞ。その妃は全国民が納得する女性でなければいけない。ほんの少しでも疵があったり、一部の地方から後ろ指をさされるような人間ではダメなのだ。なぜそれがわからないのか」
「御上。どうかそれ以上は」
ドアが開いて后宮がすごい剣幕で入って来た。
ぱっと東宮の前に立つと
「東宮はもう30を超えているんですよ。御上に一々叱られる年齢ではありません。自分の妃くらい自分で選べます」
「何をいうのだ。桃園家の娘で決まったではないか」
「わかっております。私は決して御上に逆らおうとは思って居ません。でも息子の心も大切にしたいだけなのです。桃園家の令嬢より付き合いの長い大和田家の令嬢ですよ。もう少し長い目で見て差し上げて欲しいのです」
「付き合いが長いなどと・・・あんなにテレビで拒否されて、それでも結婚させよと?」
「そんな事。ただ、今は東宮は混乱しているんです。私だって御上に上がる時は大騒ぎで傷ついた事も沢山ありました。それを考えたら、もう少し穏やかになれないものですか」
后宮は完全に東宮の味方のようだ。
帝はあきれ果てて「もう勝手にするがいい」といっしゃり、部屋を出て行ってしまわれた。
残った東宮は暫く黙り込んだが、次第にしくしくと泣き始める。
「東宮」
后宮は驚いて東宮の手を取りソファに座らせる。
「何がそんなに悲しいの?おたあさまに話して頂戴」
「だって・・だって・・・」東宮はしゃくりあげながら
「おもうさまが全然わかって下さらないから。幸子さんは本当に綺麗だし頭もいいし、颯爽としている素晴らしい女性なんです。僕の理想なんです。あんなジャガイモみたいな・・」
と言って口をつぐみ、さらに涙をぽろぽろ流す。
「可哀想な東宮。おたあさまはあなたの気持ちはわかりますよ。でもね。大和田家の令嬢は皇室に向いているかしら?あなた、彼女に愛されているの?」
「愛・・・されている?」
東宮は泣き止んでぽかんとする。
「いつも来てくれた時は楽しいし、笑ってるし話も合うと思います。ドラマの話とかできる。しゃちこばってない所がいいと僕は思うんです。愛って何ですか?大事にしたいという事?それなら僕は自信があります」
「そうではなく、あちらがあなたを愛しているの?」
「・・・わかりません」
「そう。それがわからないのに一方的に思いを寄せるのはやはりよくないわね」
「僕はどうしたらいいの?」
また東宮の目に涙が一杯たまってきたので、思わず后宮は東宮を抱きしめた。
「そのうちうまく行くわ。きっと。慌てないで」
そうはいいつつも、完全困ったな‥と后宮は思われていたのだった。
今回もお読みいただきありがとうございます。
いよいよ東宮妃が決まる時期がやってきます。
あえから我が国は大きく変わってしまったなと感じています。
こんな風に変わってしまう事、誰か感じ取っていたのでしょうかね?
つくづく「結婚」というのはつり合いが大事だと思いますし、親のいう事は無視できないなと思います。
単に東宮は何もかも完璧な秋月宮妃に張り合っていただけなのかなと思います。
そう思うと幸子さんも気の毒ですよね。
いやいや、同情している場合ではないのですが。
今後ともよろしくお願い致します。




