悲劇のお妃候補5
いつもお読みいただきありがとうございます。
進みが遅いのですが改めて読者の方に「なぜこの結婚は反対されたのか」という事を再認識して頂きたいと思って書きました。
よろしくお願いします。
長官の話によると、外務省筋から大和田哲也が
「東宮が娘を持て遊んでいる」と愚痴を言っていたらしいのだ。
「何ですって?」
目の色を変えたのは后宮だった。
あの娘は勝手に東宮仮御所に来て、思わせぶりな態度をしているのではないか。
帝はかなり頭に来たらしく、低い声で
「まだ大和田嬢を招いているのか」とお聞きになった。
すでに桃園家と話が決まっていて、内々の許可も出したというのに、あの東宮はまだ。
「どうなのだ」
長官は震えあがった。
「あの。梶東宮大夫に聞いた所、度々大和田嬢を東宮仮御所に招いてご馳走されているそうです」
「桃園家の令嬢と見合いをしたのに?」
「はあ。東宮様とすればまだ諦めきれないようで。お誘いすれば来てくれて話も弾むのでという事で、回りがお諫めしてもお聞きにならないのです」
帝は大きくため息をついた。
「東宮はいつからそんなだらしない態度を取るようになったのだ」
「帝。だらしないというのは違いますわ」
横から后宮が口を出す。
「大和田嬢は世界的にもレベルの高い大学を出て、外務省で数少ない女性職員として働いているのですよ。本当に頭のよい娘なのです。そういう女性と話しが合うという事はそれほど悪い事ではないのでは?」
「后宮。ここまで来て何を。東宮は桃園家の令嬢と内々の婚約をしているのだよ」
「勿論そうですわ。けれど、だらしないわけでは。無論大和田家に「娘を弄んでいる」などといわれる筋合いはございません」
このままでは帝と后宮の喧嘩になってしまう。
そう思った長官は
「私が、一度大和田氏とお話をして令嬢はもう東宮御所に来ないようにさせましょう」
と提案してしまった。
本当は、外務省のドンともいうべき大和田閣下に何か言えるはずもない。
なぜならあちらの方が口がうまいのだ。
今年の、かの国への訪問も発案とお勧めは大和田氏と言われている。
しかも、あちらの晩さん会で危うく帝が「戦前の我が国の蛮行を謝罪する」という文を読む羽目になる所で、そこは宮内庁が総出で止め、政府も止めてやっと事なきを得たのだ。
大和田氏は元々「我が国は戦争している時、様々な国に迷惑をかけたのだから永遠に謝罪を続けなくてはならない」という考えの持ち主で、戦後50年以上、我が国が復興してからどんどん発展途上国に無償提供をしてきたという過去がある。
そもそも、今回かの国は自分達の政治体制が危うくなったので軍を出し民衆を殺したのに、世界中がそれを非難すると我が国の帝を招待してお墨付きを得ようとした。
その件について、どれ程喧々囂々と政府が話しあったかわからない。
しかし人のよい帝は「自分達も加害者」という意識があり「私は行きたい」とおっしゃったので、仕方なく共産主義への国に訪問された。
内容的には観光旅行と変わらなかったが、エンペラーが認めた国をないがしろには出来ないという空気が出来たのは事実である。
そう、大和田氏は危険人物であり、その娘の祖父はいまだ解決していない邪悪な公害病を発した会社の会長だったのだ。
ゆえに、先帝も反対されていたし、帝も同じ気持ちだった。
大和田嬢が留学してしまった事で、この話は終わりだと誰もが思って居たのに、確かに最近は週刊誌に彼女の名前が出ている。
「プロポーズもされていないのにどうして受けなきゃいけないの」
このフレーズには長官も驚いて開いた口がふさがらなかった。
結婚しないと言ったのは大和田幸子ではなかったか?
なのにずるずると。
考えると長官も次第に体が熱くなってくる。
「御用掛けに声をかけて相談してはどう?」
御用掛け。
これは元は宮内庁職員だった人が退職後も「御用掛け」として臨時に様々な相談に乗る場合の呼ばれ方だ。
「御用掛けというと」
「柳田がよろしいでしょう」
后宮のいう「柳田御用掛け」というのは、元外務省出身で数年宮内庁にいた人物で、ゆえに大和田哲也とも顔見知りの柳田健介の事だ。
長官は執務室に戻ると、すぐさま電話をかける。
「ああ、藤原です。柳田さん、お久しぶりです」
「本当に。何があったのですか?いや、宮内庁から電話なんて珍しいから」
「いえ、実は東宮妃の事で」
ざっと事情を話すと柳田は
「いやいや、もう立派に成人されてる東宮様に何か申し上げる事なんてできませんよ」と謙遜しながら言う。
(何を言ってるんだか。その昔は自分程皇族方の気持ちをわかる人はいないと豪語していたくせに)
長官はちょっと気を悪くした。
「東宮様のお心を翻す事なんて・・・ははは。そもそも何で大和田さんじゃダメなんです?」
「え?」
意外な答えに一瞬長官は言葉を失った。
「そ、それは富強化学の・・・」
「でもそれは母方の祖父の話で、江田喜一氏が化学薬品を流したわけではないじゃないですか。今どきそんな事が問題になるんですかね」
「なりますよ。将来の后宮様は誰よりも家柄や血筋が大事です。そんな事おわかりじゃないですか」
「でも后宮様は商家の出でいらっしゃいますし。でも大学出で外国語が得意でお綺麗でって事で決まったんでしょう?大和田嬢も同じじゃないですかね」
「全然違います!八又奇病は我が国にとって最大の汚点です。そんな家の娘が」
「そうですか。で、あなたは私に何をさせたいのです?」
「東宮様の説得です。御上が本当にお怒りで」
「それは親子の問題ではないですか。そこに我々よそ者が入るってどうなんでしょうね。后宮様はなんだってそんな事をおっしゃったんだろう」
「確かに」
思わず頷いた長官。
家族の問題を御用掛けに相談するというのはどう見てもおかしいのではないか。なぜ后宮様は・・・
はっと長官は気づいた。
「いや、申し訳ない。この話はなかった事に」
「え?藤原さん、なぜ急に?」
「いや、やはり私がまずは説得をしてみます。いきなりお電話をしてすみませんでしたね」
電話を切った長官は自分が気づいた事実にあんたんたる思いを持った。
(まさか后宮様は桃園家との縁談を壊そうとなさっているのでは?」
信じたくない。けれどそうとしか思えない・・・
頭を抱えるしかなかった。
今回も読んで頂きありがとうございます。
今後、どういう展開になるかなあ・・・と思いながら書いています。
けなげな敦子さんが可哀想かなと思いつつ。でも元々東宮は面食いでしょうがない。
はっきりしない男って本当にいやですね。




