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沈む皇室  作者: 弓張 月


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悲劇のお妃候補2

今回もよろしくお願い致します。

メッセージなど頂くと書く方もすごく力が入ります。

お気軽に感想などお聞かせ下さいませ。

悲劇のヒロインはまだまだ続きます。どんな結末を迎えるのでしょうね。

桃園家の応接室は、小さいながら古きよき時代を思い起こさせる気品あふれるしつらえになっていた。

先帝の頃に流行った革張りのソファとテーブル。分厚い灰皿。

古い油絵がいくつか飾られており、父の書斎もかねる机には束のように本が重なっている。

庭先にはハナミズキやモミジが植えられ、木の葉の影から日射しが柔らかくあたるようになっている。

しかし、今のこの部屋の雰囲気は木の葉の美しさや瑞々しさをめでるような雰囲気はなく、気まずさと焦りと小さな困惑がまじりあった空気が漂っている。

父と敦子の前には、東宮大夫の梶と、式部職の太田が並んで座っており、出されたお茶に手を付ける事無く黙っていた。

父が切り出す。

「敦子はまだ大学生ですし、東宮妃の候補などとてもとても」

「いいえ、年齢的にもピッタリなのです」と梶は強く言った。

「敦子様は大宮様のお血筋で修学院大学に通っておられる。ご性格もよく先帝の御代には東宮様とも何度かお会いになっていらっしゃる。修学院ご出身という事はお育ちになった環境も東宮様と似ているという事で、まさにこれ以上の候補者はおりません」

敦子はぼんやりと、先帝の頃の旧皇族方の集まりに家族で行った事を思い出した。

元をただせばみんな親戚ということで、拾宮に挨拶に行くと「敦子ちゃんていうの」と優しく声をかけて下さった。

その時は「優しそうなお兄さま」で隣の二宮は「ちっちゃいね」と敦子の頭をくしゃくしゃに撫でたような・・・それを蓮宮が「ちょっとやめて」と自分に代わって言ってくれた記憶が。

知らないうちに歳の近い二宮や蓮宮と話をしたり遊んだりしたけど、あの頃から東宮はすでに別格扱いだった気がする。

「我が家と皇室はもう縁が切れております。先帝は崩御され大宮様も今は引きこもっておられる。帝とはそんなに近しいわけではありませんし、そういう意味では」

「そんな風におっしゃらないでください。東宮妃はやはり旧宮家の方をと帝がご所望なのですから」

梶東宮大夫はますます強気攻める。

「でも東宮様にはあまたのお妃候補が・・・」

「その通りです。本来でしたら旧宮家や五摂家の方々からお選び申し上げなくてはいけなかったのに、帝と后宮さまの思し召しで「東宮様おお気に入りの方優先」で考えてまいりました。

しかし、結果的に決まらず未だに東宮様は独り身でございます。このまま東宮妃が決まらなければ皇統が危なくなります。そこでようやく東宮様の意志も尊重しつつこちらからもご意見を申し上げるという形になり、桃園家の敦子さまが一番よろしいという事になったのです」

(よろしいって・・・何だか上から目線ね)と敦子は思ったがあえて黙っていた。

「どうか一度お見合いだけでも」

太田も頭を下げた。

即位の礼に東宮妃を参加させられなかった事は宮内庁の中でも大きな問題となった。

秋月宮妃が筆頭宮家の妃という事で先頭に立ち、また初の皇室外交もかなりうまくやっていた事を思うと、これ以上東宮妃が出遅れると上下関係に問題がでると・・后宮がおっしゃったのだ。

別に菜子妃が威張っているのではない。

しかし、すでに内親王を出産し子供が産める事がわかった。

次はあるいは親王かもしれない。

その時に東宮が独身では秋月宮家に皇統が移るかもしれない。

あるいは、東宮に生まれた親王と宮家の親王の年の差が大きくなれば

「秋月宮家の親王の方がよい」という意見も出るかもしれない。

ここは何が何でも早急に東宮妃を決めなくてはならないのだ。

后宮の「何が何でも」という目線を受けたとき、梶も太田も冷や汗が出てしまい、

「は・・はい」としか返事が出来なかった。

本来は旧宮家を嫌っている后宮が「旧宮家でもよい」と妥協なさっているのだから、どうにか話をまとめないと、今度は后宮様がお怒りになる。

一度気を悪くされると延々と引っ張る后宮様の御気性には帝も辟易なさってあたりさわりない事でごまかされる。ゆえにとぱっちりは自分達、下の者に来るのだ。

「敦子様は東宮様とお会いした事がおありですよね」

ふられて敦子は思わず頷く。

「はい。小さい頃に。でもその時だけです」

「そこが大事なのです。一度でもお会いになった方であれば東宮様も心をお開きになるでしょう」

「だけど、東宮様にはお好きな方がいらしのではありませんか」

それを言われると、梶は一瞬だまった。

「私、テレビで何度もみました」

「そうですか。ご存じだったのですね」

梶はうなだれる。

「ご存じの通り、そういう話が出た事は事実でございます。しかし先帝も帝もお認めにならなかったのです。その方のお家柄やお血筋が皇室にはふさわしくないという事です。東宮様もご納得済です。そもそも東宮妃は将来の后宮でいらっしゃいますから、誰でもいいというわけではございません」

「それはわかるが」と父が言葉を挟む。

「帝とて大反対の末に后宮とご結婚されたのではありませんか。私どもはやはり旧宮家に繋がる者として大宮様側につきますよ。大瑠璃宮妃様、高砂宮妃様の側にね」

敦子は「お父様は何がおっしゃりたいのかしら」と首をかしげた。

「そう考えると伏魔殿のような後宮に娘を入れたいとは思いません」

父がはっきりそういうと、梶も太田も黙り込んでしまった。

「伏魔殿のような後宮」とはどういうことなのだろうか。

梶は汗をふきふき言った。

「伏魔殿などと・・・后宮様はお若い頃は皇室のしきたりに慣れずにご苦労されました。お妃達にはそういう思いをさせたくないと日々心を砕いておられます。菜子様も無事に内親王をご出産になり、あっという間に皇室の中に溶け込まれました。敦子様ならきっともっと早くお慣れになるでしょう」

太田も頭を何度も下げ、今にも泣きそうな顔で言う。

「せめてお見合いだけでもご承知下さらないでしょうか。この通り、お願い申し上げます」

これでは父が宮内庁の職員を虐めているように見える。

「お父様・・・ちょっとお可哀想では」

「しかしだね。敦子。われわれは何も皇室に媚びたりへつらったりする必要はないのだよ。最初に来るならまだしも、お妃選びが始まってもう何年たつのやら。誰も決まらないからうちの娘になんて、都合がよすぎる」

「はい。それも十二分に反省しております。私どもがもっと早く后宮様をご説得していれば」

「后宮は相変わらず旧宮家も旧華族もお嫌いなんだろうに。大学出だの美人だの金持ちだのって言っても所詮は商人の家。そんなところから生まれた東宮はね・・・」

「お父様」

敦子はこれ以上父が何か言ったら大事になるような気がして口を挟む。

「私、お見合いしてもよろしくてよ」

「敦子」

「会うだけなら別によろしいのでは」

梶と太田の瞳がキラキラしながらこちらを見ている。

「敦子様・・・」

「お会いするだけですよ」

敦子は釘を刺した。

その昔、親王妃は宮家出身か五摂家出身、それでなければその他の華族(大名華族等)から選ばれていました。

江戸時代までは、親王や内親王より五摂家の方が位が高かったのですけど、明治維新を経て出家していた宮家が復活すると五摂家より立場が上になりました。

戦後、家族制度が消え、それでも家柄重視で東宮妃を決めようとしていたんですけどね。


今や皇室に旧宮家から「養子」案というのが出て来て戸惑っています。

皆さまはどう思われるでしょうか。

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― 新着の感想 ―
桃園家御当主の言に一々頷いています。本当に、「后宮は何者ぞ!」 そして、帝。 帝位に在りながら我が意の儘を押し通し、挙句妃の顔色を窺いながらの家内差配。 天皇という御存在は国の在り様の鑑であり、写し鏡…
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