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沈む皇室  作者: 弓張 月


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キャリアと結婚2

いつも「沈む皇室」をお読み頂きありがとうございます。

即位の礼の様子はAbemaブログ「ふぶきの部屋」に写真をアップしておりますのでよろしければご覧ください。

https://ameblo.jp/heika1/


幸子は帰国後すぐに北米2課に配属された。

それは全部父である哲也の采配によるもので、配属されたその日から「特別待遇」だった。

まず、新人は車通勤を禁じられていたが、幸子は初日から車通勤をしていたし、駐車場も父の名前で登録していた。

華やかな外交官と違い、事務方は文章を作り、通訳をしたり、外務大臣を補佐するのが仕事。

仕事は少しずつ研修で覚えていき、キャリアを積んでいくのだが、その「研修」が幸子の頭の中にはどういうわけかすんなりと入って行かない。

「大和田君、君は母国語を忘れたのか?なんだこの文章は。重複の連続じゃないか」

「大和田君、昼休みはとっくに終わっているのに何をしていたんだ」

「大和田君はどこだ?またトイレ?30分前にも行ってなかったか?」

入職早々、幸子は使い物にならない新人という烙印を押されてしまった。

本人はそうは思っていおらず、むしろ上司に虐められているような気がする。

どうしたら仕返しできるか、想像を膨らませて楽しむ事にした。

文章が重複しているのは、自分が海外に長くいたせいで語順がうまくいかないからと思っていたし、昼休みも権利として当然とるべきと思って居たし、仕事のストレスなのか何となく神経質になってトイレに駆け込み手を洗う癖もあった。


父は見ていないようでしっかりと娘の行動を把握しており、余計な事を考えずにむしろ成功体験を積ませようといきなり外務大臣同士の国際会議の通訳に抜擢した。

いきなり北米二課の新人が通訳に出てくるのは余りにも異常であったし、それゆえに控えの通訳も用意された。

しかし誰も哲也に「ひいきがすぎる」苦言を呈するものはいなかった。

これならできると幸子は意気込んでいたが、実際に通訳を始めると

「え?なんだって?それはどういう意味なの?」

「はい。ですから貿易摩擦解消の・・」

もたもたといつもの癖でカタカナ言葉を多用し、直訳するので年寄りの大臣にはわけがわからず、もう一人の通訳が慌てて訂正したり、付け加えたりする。

娘が全然通訳に向いていないのを見ても、哲也は何も言わなかった。

彼からすれば中身はどうあれ、国際会議で「通訳をしている幸子」の絵が取れればそれでよかったのだから。

しかし、「なんだ、この通訳は。全然わからんじゃないか。どういう教育をしとるんだ」と大臣は怒りはじめ流石に幸子は身を縮めて顔を真っ赤にしていたが、もう一人の通訳が

「大和田閣下のお嬢さんです」と耳打ちすると、先ほどまでの権幕はどこへやら、もう何も言わずぷいっと立ち去ってしまった。

結局、上司からはお咎めがなく幸子は元の仕事に戻り、マスコミは「絵」を雑誌に載せて「お妃候補はキャリアウーマン」と褒めたたえた。

とはいえ、親のコネで入職し、何をやっても叱られる事もなく、先輩にも対等に話をする幸子に北米二課は不満を募らせ、次第に職場そのものがギスギスしてくる。

下手に幸子に注意をしたりすると、すぐにトイレに駆け込んで出てこないし、仕事を任せると1時間のものを半日かかっても出来て来ない。

海外暮らしが長いからといっても、すぐにスラングで返事をされても皆怒りを募らせるだけ。

次第に、女子は「幸子に媚を売る派」と「無視する派」に分かれ、男性職員はそれを遠巻きに見ているような雰囲気になった。

考えあぐねた上司は、幸子に膨大な書類を渡しコピーするように言いつけた。

幸子はコピー機の使い方も覚えるのに苦労したが、緊張感を強いられることがないので、喜んでその任についた。

毎日、でんとコピー機の前に立っているので、ついたあだ名が「コピー番長」

なにせ、よその課から「ちょっとコピー機貸して」と言われても「ここは北米二課のコピーよ。こっちこないでよ」と大声で追い払うので、ある意味喜ばれていた。


幸子としてはこのまま父の庇護の下で、週休二日と季節休のある毎日を送りたいと心から願っていた。

週に5日間仕事して、土日は食べ歩きとか好きな野球選手のおっかけをして過ごす。

長期の休みの時は必ず海外旅行。まさにバブルを絵にかいたような生活。

給料が小遣いのようなものなので怖いものはない。

けれど、本人がそう思って居ても回りがそれを許さなかった。

ある日、仕事に行こうと家を出た途端、新聞社やら週刊誌の記者に取り囲まれてしまった。

「大和田さんですよね。帰国されてから東宮様からのお誘いはありましたか?」

またこれだ・・・・幸子はいきなり「どこの社なの?名刺出しなさい!」と怒鳴ってしまった。

今にも取材班の首根っこにつかみかからんばかりの権幕に、彼らは慌てて去っていく。

「ホントにマスコミってウジムシみたい」

幸子はどうしたものかと考え、タクシーを呼んで仕事に向かった。


それでも毎日のように記者が自分を見ているような、写真を撮っているような気がするし、どういうわけか週刊誌には「大和田さん、お妃候補に復活」とか書いてあるし。

「そんなにつんけんしないで頂戴。マスコミはあなたの味方なのよ」

母は幸子をなだめるように言った。

「どういう意味よ」

「だって東宮様のお妃候補よ。名誉な事じゃないの。雲の上の人だもの」

名誉という言葉に幸子はちょっとひっかかったが、すぐに

「あんなチビのどこがいいのよ」と言い放った。

「幸子ったら・・・」

「全然好みじゃないのにどうして騒ぐの。わからない。私、結婚なんて考えてないから」

幸子のどうしようもない言葉に母は頑張って反論しようとしたが、電話がなったので玄関に行った。

マスコミが味方?幸子は父に「東宮妃になるしかできない」と言われた事を思い出した。

(何で私が結婚しなくちゃいけないのよ。外務省のキャリア官僚なのよ。結婚なんてつまんないわ。恋愛はしたいけど家庭に入るなんて真っ平)

そう思った時に母が「大変、さっちゃん。宮様からのお誘いよ」

と叫んだ。

「宮様?」

「韓駒宮家の人からのお誘いなの。急いで」

幸子は走るように電話をとった。

「幸子様でしょうか。妃殿下がお茶にお誘いしたいと仰せで。ご予定はいかがでしょう」

韓駒宮。ああ、一度パーティに誘われて行った事の有る瀟洒な宮邸。

皇族と知り合いであるというのも、幸子のプライドをくすぐりすぐに予定を伝えた。


丁度即位の礼の一連行事が終わった所で、季節は冬になっていた。

カシミヤのコートに身を包み、幸子は赤坂御用地に足を入れる。

「ようこそ。幸子さん。本当にお久しぶりね」

迎えてくれたのは宮妃だった。

背が高く痩せていて、いつも首元にはチョーカーをしている、おしゃれで社交的な妃だ。

そのにこやかで親しみやすい笑顔に幸子も思わず笑ってしまう。

韓駒宮妃は、応接間に幸子を通すと見事なアフタヌーンティーセットの前に座らせた。

一番上にはキャビアが乗っている前菜、二段目のスコーンにつけるブルーベリーの甘そうなこと。

そして最後の段には、見た事もないようなフルーツタルトが乗っていた。

ボーンチャイナのカップに銀食器。

幸子は目を見張ってしまう。

「こういうの、お好きかしらと思って。海外に長くいらしたでしょう?帰国されたのは聞いていたのよ。でもほら、即位の礼があったから忙しくて今頃になったの」

一人でころころと話す宮妃は常に笑っていた。

幸子は「そうですか」と答えた。

そういえばそんな行事をやっていたような。幸子にとって元号が変わった事すら大した問題ではなかった。

即位の礼の日は全員休みを取らされ、上つ方は賓客の接待や通訳に回されたが幸子には出番がなかった。

それよりも、目の前にあるキャビアの前菜が気になる。

「どうぞ。召し上がって。お気に召すといいけれど」

宮妃は手ずから紅茶を入れてくれて、幸子が嬉しそうにパクパク食べるのを見ながら

「ねえ、東宮様からお誘いはあった?」

と聞いてきた。

「いいえ」

幸子はもぐもぐ言いながらそう答え、紅茶を流し込む。

「あらそう。帰国した事、お知らせしていないの?」

「はい」

「まあ・・・東宮様、あなたに会いたがっていらしたのよ」

「そうですか」

お妃候補と言われてマスコミに追いかけられるのは嫌だけど、いわゆる雲の上の人との付き合いは別に嫌ではなかった。

なぜならちょっと職場で自慢できたりするからだ。

「今度、私が口を聞くから東宮様とお会いしてみない?」

軽く宮妃が言ったので、幸子は「はい。そうですね」と答えた。

その「はい。そうですね」が後々、自分の運命を決める事になるとは思わずに。


読んで頂きありがとうございます。

世界の王室で結婚が遅かったのは英国のチャールズ皇太子でした。

あの頃は「どっちが遅いか」と競争してた?って程で。結局チャールズはダイアナ妃と結婚するんですけど、彼の心の中にはカミラがいた。

でも、母である女王の意見を聞いてスペンサー伯爵令嬢を選んだわけです。

ダイアナ妃は二人の正当な後継者を産み、役目を果たした所で離婚。

後年、チャールズはずっと内縁関係だったカミラと結婚しました。

最初になぜカミラと結婚しなかったのか。それは年上であったことや家柄が・・という事で、しかもカミラはパーカーボウルズと結婚してしまいました。

今、ヘンリー王子が王室を出て問題児になるとは当時は思いませんでしたが、メーガンと我が国の皇后陛下はよく似ていますよね。

どうでもいい事を書きましたが、最初の結婚は大切という事で、日本では一度結婚したら離婚は出来ないと思われがちですがそうではありません。

一人の女性が国を亡ぼすとはよく言ったものですよね。

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