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沈む皇室  作者: 弓張 月


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内親王誕生1

今回はちょっと政治的な話になるでしょう。

一般の国民はまさか帝がこんな事を考えているとは思わないし、ひたすら「菜子様フィーバー」は続いていました。それで判断力が鈍っていたと言われればその通りです。

裏ではこんな事が進んでいたんですよという所をお読みください。

時は先帝が亡くなった年に遡る。

我が国はバブル経済を謳歌していたけれど、よその国ではそうではなかった。

世界は「民主主義」「共産圏」の二つに分かれ長い間「冷戦」と呼ばれる状態にあった。

スパイが暗躍し、いつ核戦争が起こるかわからない危険性に満ちていた。

そして共産圏に支配された国民は独裁政権により、常に耳を四方にそばだて、誰が敵で味方なのか即座に判断せねばならず、家族ですら敵になりうる可能性を秘めた生活を余儀なくされた。

食料は常に不足し、世界的な流行から取り残され、厳しい統制下で暮らしている人々にとって、あこがれは「自由」だった。

その年、我が国の隣の社会主義国で「民主化運動」が広がった。

みな政府に不満を持っていた。都会と農村では確実に所得や生まれそのものが差別され、人口が増え過ぎた為に行われた「一人っ子」政策により、農村では戸籍に載らない子供達が多々現れ、都会でも男子優先で女児は中絶されたりしていた。

みんな「自由」に憧れを持っていたから、民主化運動が始まるのは当然の事だった。

その人たちを、国はどうしたか。

なんと軍隊を用いて踏みつぶしたのである。

歴史的な写真としては戦車の前に立ちはだかる青年が残っているけれど、実際はもっと残酷で悲惨な人殺しが国によって行われたのだ。

そのせいで世界的な信用を失ったその国は、なんと我が国に助けを求めて来た。

「ぜひ帝をお招きしたいのです」と。


帝の即位の大礼後、真っ先に行われたのはこの話題であった。

「我が国は、戦時中にかの国に多大な損害を与えました。ゆえに戦後は政府が関係修復にかなりの時間と費用を費やして参りました。かの国は我が国にとって最も大事にすべき国でございます。今、帝と后宮の訪問を待ち望んでおります」

大和田哲也は、進講という形で帝と后宮に初お目見えをしていた。

帝も后宮も東宮が執着してきた幸子の父という事で、その人となりを見極めようとしていた。

哲也は娘の事などみじんも関係ないとばかり、外務省事務次官としての自分の意見を言い続けていた。

「政府は反対しております。なぜならかの国は社会主義国であり、皇室を認めていません。自分の国の王朝を潰した国でありますので、帝の訪問はプラスにならないと思って居るのです。しかしながら、向こうはもし、帝が訪問していただければ歓待すると約束しておりますし、国の代表として帝にはかの国に一言あるべきではないかと」

つまり、謝罪せよという事なのだ。

哲也の考え方は、「我が国は永遠に謝罪をし続けなければならない」というもので、戦前に支配した島や国などに対して、あちらの思うままに財源を確保し与えなければならないと考えていた。

特に、今は長らく軍事政権を取って来たもう片方の小さな半島は、「戦時中に女性らが強制連行されて性奴隷になった」と嘘を吹聴し金をむしり取ろうとしていた。

後々この事は我が国の人間が放った「嘘」である事が証明されるのだが、それでも半島はまだ同じ事を言い続け「謝罪せよ。心から謝罪せよ」とひどい態度を取り続けていた。

哲也がこの「嘘」を知らない筈はないのだが、それでも「我が国は謝罪すべき」と総理大臣に謝罪談話をさせようと画策していた。


帝はかの国にしても、半島にしても、全ての罪は先帝にありと考えていたので、息子として謝罪行脚をすべきと考えていた。

帝からすれば、戦争で戦った兵士の全てが無駄死にであり、先帝のせいで悲惨な死を迎えた気の毒な人と映っている。しかしその兵士が戦った国の人達はそれ以上に気の毒で心から謝りたいと思って居た。

一歩間違えば帝も后宮も自国の兵士よりも他国の民間人と兵士の方が大事であると思われかねない。

そのせいで、「何が何でも帝をかの国へ行かせるわけにはいかない」という政治家も多かった。

政府にとって帝は何を言い出すかわからない、国益にならないとの烙印を押してさえいた。

哲也はそんな帝の心の中を簡単に読む事が出来、こうして参内出来た事もいずれ来た道と思って居た。

ここは何が何でも訪問を実現させなければ。

彼が権力を握るために必死の努力をして来たのは、この国をかの国の属国として存在させること。

娘を皇室に入れたいのは将来の「后宮の父にして帝の祖父」になりたいからに他ならない。

我が国は資源が少なく、武力も大したことない。

ゆえに大国に頼って生きなければならない。

それがかの国であり、決して西洋ではない。

彼は彼なりの正義感でそう信じ込んでいた。

進講が終わると、哲也はおもむろに立ち上がった。

帝が関心を寄せている事は見て取れたし、これで最初は十分だろうと思ったから。

「大和田さん。お嬢様はもう帰国されたのでしょうね」

と口火を切ったのは后宮だった。

「はい。外務省の職員として働いております」

「決まった方はいるの?」

「どうでしょう。本人は仕事が大事と申しております」

哲也はそっけなく言って頭を下げ、帝と后宮の退出を見送った。


「どうも、野心的に見えるがね」

私室に戻ってお茶を飲みながら帝は大和田に関しての感想をおっしゃった。

「私達と同世代で意見が合う事も多々あるが」

「東大出身ですわ。お嬢様方も素晴らしい学歴の持ち主ですよ」

「学歴よりも家柄と育ちではないかな。そういえば秋月宮妃はあとどれくらいかね」

「結構先ですよ」

「初孫だから楽しみだね。男子ならいいけど女子でもまあいいな」

「そうですね」

みかどは楽しみという風にお笑いになっていたが、后宮の瞳に笑顔はない。

孫が生まれるのは嬉しいが、問題は性別だ。

もし、東宮より先に男子が生まれてしまえば、皇位継承権3位になる。

東宮に生まれる子より年上の親王など必要だろうか。

可哀想な東宮は弟に先を越され、未だに結婚も出来ない。

帝は旧宮家の女子を候補に入れるように指示しているが、后宮としは納得できない。

でも、とにかく今は東宮の結婚が先なのだ。


かの国の訪問に関しては、与野党が白熱議論を繰り返した。

ここで社会主義国を助けては先進国からそっぽを向かれてしまうかもしれない。

喧々囂々と右と左の対決のさなか、帝は「私は行きたい」とおっしゃった。

それは后宮も同じで、自分たちがかの国に行く事で何とか我が国の「反省」を受けいれてくれるならと思って居た。


今回は「内親王誕生」とタイトルがついていますけど、その気配はどこにもありません。

ただ、この頃から実は生まれるお子様の「性別」が話題になっていたのは事実です。

国民はどっちでもおめでたいと単純に思って居たんですけど、皇室内ではどうもそうではなかったような気がします。

次回はいよいよ本物の内親王が誕生いたします。

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