野宿
前話
アオイさんが合流
三日目の夜は野宿となった。
山道から二百メートルほど外れた斜面にちょっとしたほら穴を見つけ、ここで一夜を過ごす事にする。
「ちょちょいのちょいじゃよ」
那須じいは牧草をふかふかに生やし、シーツをかぶせて即席のじゅうたんを作っている。
「お湯シャワーが気持ちいいっピー!」
ピピは青く光る翼をかざし、空中からシャワーを提供した。その後は、飲用水や料理に使うお湯なども出している。
体はアオイさんなので、濡れてしずくが弾ける胸元が目の毒だ。
「力仕事はトラ美とにょろ助にまかせるにゃ」
乾いた倒木や石をそこら中から集めた後、トラ美は大きな爪で倒木をへし折って、薪にしていた。後方ではにょろ助が石を組んでかまどを作っている。
「調味料がもっと欲しいですね。胡椒と砂糖ぐらいは町にあればいいんですが」
水を出し終えると翼を腕に変化させ、アオイさんは料理を始めた。日頃から自炊しているらしく、葉物野菜と肉を手際よく鍋でいためてから、ぐつぐつと煮込み始めている。
八木ちゃんは料理を待つ間、SMグッズを利用して馬具を作っているようだ。那須じいが自分の体を指差ししながら、あれこれ指示をしている。
「まずは鞍からね」
シーツを畳み重ねて厚くし、袋状にして縫い上げる。その中に高級三角木馬の革ケースを入れ込んでいた。
「次は鐙」
手錠の鎖部分を外し、麻ひもの両側に結ぶ。
「これが手綱」
裸の那須じいに装着するためか、やわらかな綿のひも製だった。
「ほんとに器用だな、助かるよ」
「ふふ、これが内助の功ってやつだね」
今日の野宿では俺はさっぱり役に立っていない。シャワーや巨大化はともかく、まさか牧草やSMグッズの技能に現時点で遅れを取るとは……。
ほどなくして、料理を完成させたアオイさんから声がかかった。
「スープができました。調味料の種類がなくて、少し味気ないですけど」
ポトフのような料理と焼肉、ロッジにあったパンを交互に口にする。
那須じいはヤマトの姿になって牧草を食べている。草ばかりであのムキムキが維持できるのは不思議だ。まあ馬はもともとそういう生き物か。
すべてたいらげ、ごろんと横になる。腹が落ち着いたら、明日のために作戦会議をする予定だ。
低音ロウソクの炎が、ほら穴の中でゆらめいている。
「ではこれより明日の作戦会議を始める」
目標は人とのコンタクトだ。今日の二の舞は避けなければいけない。
意外に野宿も楽しいものだが、俺達がやらなければいけないのは世直しであり、王道の冒険なのだ。
「村から逃げ出した人達って、やっぱり下の町に降りたのかな」
「遠くから逃げてたから、最初に会った四人以外、顔見られてないから平気にゃ」
「そうとも言えんぞい。その四人がわしらの特徴を伝えておるじゃろうし」
昼間の怯え方を思い出すと、ありえないとも言い切れない。
「ピピが鳥だけになって、町の入り口を見てくるのがいいっピ」
「大きな町だし、山道側だけ警戒してると思うにょろ。大回りして、別の入り口から町に入るにょろ」
にょろ助が言う通り、一度町に入ってしまえばどうとでもなりそうではある。
「念を入れて、私はピンクの髪を、八木さんは猫耳を隠した方が良さそうですね」
さっそく八木ちゃんはアオイさんの髪をアップにくくり、布をターバンのようにくるりと巻く練習をし始めた。
「そうだな、ピピの偵察、状況次第で大回り。町に入るときは八木ちゃん、ヤマト、ピピの姿だな」
アオイさんの靴がない事をふまえての判断だ。
「それじゃ、みんなおやすみ」
ふかふかのトラ美に寄りかかり、隣のアオイさんが翼を俺にかけてくれている。心地よい暖かさですぐにでも眠れそうだ。
「何かあったらトラ美はすぐ気づくから、みんなはぐっすり寝てていいにゃ。虫一匹近寄らせないにゃ」
「じゃあお言葉に甘えて、完全に横になろうかの。おやすみじゃ」
「火が弱くなったらボクが薪の追加をするにょろ」
そう言いながらにょろ助は薪を一本、たき火に放った。
「おやすみ、ハヤト君」
「おやすみなさいませ、ご主人様」
人助けの冒険にはまだ至ってはない。だが仲間は揃った。力を合わせて野宿するというのも、王道ファンタジーの冒険では定番だ。
俺はかってない手応えを感じていた。
計画も立てた事だし、明日は人助けの方もきっとうまくいくだろう。俺達の冒険はまだ始まったばかりだ。
疲れもあったのか、目をつぶった俺はすぐに眠りに落ちた。
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