ハーピィのアオイさん
前話
村人に逃げられた後、三人目が送られてきた
現れたのは半人半鳥。ギリシア神話に出てくるハーピィだった。
しかし神話のハーピィは脚も鳥型だったはずだが、目の前にいる半鳥の女性は、腕が翼になっている事と、髪がピンク色な事以外は人間と変わらない。
腰まで伸びるロングへア、豊かな胸元と丈の短い白のキャミソール、タイトジーンズの色白美人には見覚えがあった。
「アオイさん?」
「フジ君、お待たせしました」
「はーちゃん、お久しぶりっピ!」
どうやらモモイロインコのピピと、事故のバスで隣に座っていたアオイさんで間違いなさそうだ。
ピピがしゃべるときは、生前のトレードマークだったピンクのアホ毛がぴょこんと立つようで、懐かしい気持ちでいっぱいになる。
ちなみに俺の母親はずっと俺の事を「はーちゃん」と呼んでいて、ピピもそれをよく口真似していた。
それにしても人の慣れとは怖いものだ。キマイラの八木ちゃんとケンタウロスの那須じいを迎え入れた今では、ハーピィ程度はむしろ良心的に見えてしまう。
「これからよろしくお願いします。死んじゃって悲しかったですけど、今はドキドキしてます」
バス車内の時と同じように、アオイさんは穏やかにほほえんだ。
「ど、どういう関係なのかな……」
「ピピ、久しぶりだにゃ。トラ美だにゃ」
「にょろ助だにょろー」
「那須裕也じゃ」
八木ちゃんがわかりやすく動揺している。
「アオイさんは事故ったバスで隣に座ってた人なんだ。道中、いろいろ話しこんでさ。ピピも久しぶりだな」
「初めまして、葵由香です。ピピちゃんの記憶でトラ美ちゃんとにょろ助君の事は知ってます。これからよろしくお願いしますね」
「みんなで頑張るっピ」
「初めまして、私は八木すみれです。こちらに来て、ハヤト君の奥さんになりました。よろしくお願いします」
「あら、おめでとうございます。じゃあこれからの冒険は新婚旅行みたいなものですね」
「新婚旅行……えへへ、そうですね。ありがとうございます」
アオイさんの祝福に気を良くした八木ちゃんは、ほほに手をあててくねくねしている。
「まともな大人が来てくれて心強いです……心の底から。早速ですけど、アオイさんとピピはどんな技能をもらいましたか?」
戦闘系かどうかはともかく、知的な雰囲気のアオイさんなら、きっと役に立つ技能を受け取っているはずだ。
「はい。大人の技能をいただきました」
アオイさんはその場に正座で座り込むと、右の翼を前方に伸ばした。
ピンクに光るその翼をどかすとそこには――
「これは……ロウソク……ですか?」
少し絶句した後、思わず疑問形で聞いてしまった。
目の前の物体はロウソク以外には見えない。
それも、テレビで芸人の罰ゲームに使われているような、SM用のロウソクだ。
アオイさんはうなずき、続けざまに他の物体を出していく。ムチ、粘着性のテープ、革のベルトと首輪、三角木馬、麻の紐、絹の紐……。
「この通り、SMグッズを出せる魔法をいただきました」
チークをつけているかのような桃色のほほを、さらに赤らめて答えた。
「これは大人じゃなくてアダルトっていうにょろ」
「ど……どういう流れでこの技能にいたったか詳しくお願いします」
またかという気持ちで、俺は痛むこめかみを押さえた。
技能のお勧めに関しては間違いなく無能な天使だと言える。
本当に世直しをさせるつもりはあるのだろうか。
「はい、私とピピちゃんが呼ばれた時のお話をしますね」