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出国

前話

ルズベグ隊を制圧

 クサガモの足枷準備をしていると、ルズベグが意識を取り戻して目を開けていることに気づいた。


「起きたか」

「落とし穴は楽しんでいただけたかの?」


 那須じいがルズベグの口調を真似て怒りを煽(あお)っているが、ルズベグは冷淡な顔のまま表情を変えていない。「こういうタイプは怒らせた方が、正しい情報を引き出せるはずじゃ」と那須じいが言っていたのだが、作戦は失敗したようだ。


「話をしないか」


 ルズベグは押し黙ったままだ。


「ルズベグ自身に何かオーガに対する恨みとか、憎む理由はあるのか?」


 傍にオーガがいないタイミングで聞いておいたほうがいいだろう。


「逆に聞くが、なぜお前はオーガに肩入れをするのだ」


 先日の口調の軽さはもう全く感じられない。


「最初に会った時に話したとおり、天使の依頼を受けたからだ。状況も悲惨で捨ておけなかった」

「人間にだって助けを必要とする者は数多い。特別な力があるなら、なおさら人の子を救うべきではないのか」

「困っている程度の問題だな」

「蚊を潰して、むごいことをしたと思い悩むことはない。苦しい状況の蚊を助けよう、と思うこともないはずだ」

「ないな」

「益にならぬし、むしろ害になる。そして病気も撒き散らす。自分に止まっていたら潰すだろう。それと変わらぬ」


 素のしゃべり方はこっちの方か。


「オーガは人間と共に文明を発展させてきた歴史があるだろう。俺もオーガたちと暮らして助かってる」

「知らぬのだ、お前は」

「何を知らないのか教えてくれ」

「絶え絶えとしているから同情で助けたくなっているのだろう。だが人と対等であれば本性がわかる。横暴、不潔、下品、淫虐(いんぎゃく)極まる種族だ」


「そう考えるようになった事件とかきっかけがあるんだろう、俺はそれを最初から質問しているんだがな」

「それにな、人とオーガの子はオーガが生まれるのだ」

「らしいな」

「知っているならわからぬはずはあるまい。オーガを許せば害虫のように増える。そして人と交わるようになれば人の血を淘汰していく」


「おぬしは二十代か三十代じゃと思うが、すでにオーガがほとんど弾圧されきってからの世代じゃろう、いったい何があった」

「私が創世教の中枢に口を利いてやる。さっきの毒蛇や、空飛ぶ亜人や、巨大な猫を従えることができるお前は、人による統治を教義とする聖光神の威光として申し分ない」


 こっちの聞きたいことはとことん無視するつもりのようだ。どうも俺は、発言を無視される星の元に生まれたような気がしてしようがない。


「そういう支配的なやつじゃないんだ、家族だからな」

「悪いことは言わん。私と手を組め。この世界で創世教を敵にして生きて行くことなど不可能だ」 


 那須じいも「これはだめだ」といった顔をしている。


「俺たちはここをもう出るつもりだ。あんたと会うことはもうないだろう」

「どこに行っても変わることはない」

「かもな、まあおれは寒がりだからもう少し南西に行ってみるさ」


 通用するかどうかはわからないが、これは追っ手に対するミスリードだ。


「後悔するぞ、反逆者め」


 テンプレのようなセリフで会話は終わった。



 猟師の手枷を一人だけ外し、明日の朝以降に他の者の手枷を外すよう伝えて集落を離れた。


「集落の皆は渡り終えたよ。あとはうちらだけ」

「アオイさんが先行して、良さげな場所を探してくれてる」

「わかった。行こうか」

「早めに住むところを見つけたいのう」


 俺たちはドルバ河を渡ってヴィルアック王国側の森に入ることにした。

 オーガだけじゃなく、他にも悲惨な状況の亜人がいるかもしれない。

 創世教と帝国の面子を相手にして、命の取り合いになるというのは現時点ではいい方針とはいえない。となれば各国の中で一番創世教の影響が低い王国は、今の俺たちにはぴったりだろう。

 それに新しい土地に行くということは、それこそが冒険だからだ。


『反逆者め』


 俺は最後にルズベグに吐き捨てられた言葉を思い返していた。

 神の奇跡の体現者のつもりが、いつの間にか反逆者か。


 地球の知識で言うならもっとも敵に回してはいけないのが宗教で、しかもこの世界では一強だという。

 天使の依頼は、とてつもなく困難極まることが容易に想像できた。だがこれはまさに求めていた王道ファンタジーではないだろうか。


「上等じゃないか」

 

 今の俺にはもう不安はない。

 奇妙で型破りで暴走気味、だがとんでもなく頼りになる家族と仲間が、俺にはたくさんいるのだから。


 河を超えて一度振り返る。

 暮れかけた空の青とオレンジが水面に映え、帝国での思い出を彩った。



                                 〜完〜


6/2

つたない小説におつきあいいただきまして、ありがとうございました。

これにて完結とさせていただきます。

もしよろしければ、お気付きの点などを感想でご教示いただければ幸いです。

よろしくお願いします。


次回作は

聖水騎士様はブラックが許せない です。



6/14

こちらもブクマや評価ありがとうございます。

おそらく、勇者を恨む四人パーティ のほうからこちらも見ていただけてるのではないかと。

文章に起こしてないので先になると思いますが、他の作品が完結したらまたこちらも再開するかもしれません。

その際はよろしくお願いします。


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