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神殿騎士ルズベグ

前話

オーセの結婚観

〜ブレメン大聖堂 執務棟〜


「では、オーガの村は無かったと?」


 黒の法衣(ほうえ)を着た男は無表情のまま質問した。問いかけられた男は、跪(ひざまず)いた姿勢のまま目に見えて萎縮している。


「は、はい。逃げた方向をドルバ河に達するまで探索させ、集落のみならず、生活の跡一つなかったことを確認いたしました」


 法衣の男はふうとため息をつき、左手にひかえるグレーのロングコートを着た部下に目線を送る。ロングコートの男は意を得たりと口を開いた。


「グラウェ衛士長、ならば逃げたオーガは亡霊だったとでもいうつもりか」

「……いえ、生きたオーガでございます」


「ではわざわざ河の向こうから森の西端まで、飢えたオーガが狩りに出向いてきて、それで河の向こうに帰っていったと?」

「いえ、それもないかと思います」


「ならば、『見つけることができなかった』であろう。鷹も連れず、ましてや猟犬すらおらぬ一行で、その方向だけ見てきたといって何の成果と呼べようか」

「はっ……申し訳ございません」


「駐在先での突発事であったとはいえ、栄誉ある『聖掃(せいそう)』の任務を軽く考えてはおるまいな」

「はっ………………申し訳ございません」



 無言になってしまった男に代わり、より入り口側に控えていた赤い礼服の騎士が体を正面に向け跪いた。


「ロイムは管轄外なれど、献言(けんげん)をお許しいただきたく存じます」

「ルズベグ卿、申せ」


 ロングコートの許可を得て、赤い騎士は顔を上げる。


「はっ、ロイム聖堂の衛士長におきましては、日々の信心深さに疑いの余地などございません。なれど、『聖掃』の任は聖光神の威光により、機会少なきものとなっております。必達をもって報告となすべきその務め、よろしければ経験者である私にて範を示させていただきたく存じます」


「四度の『聖掃』を完遂した卿であれば、良き結果は間違いなかろうな」


 ロングコートは、法衣の男が目線で肯定の意思を示していることをちらりと確認する。


「ならば衛士長も同行させ、卿の指揮にて進めるがよい。知ってのとおり、本件はオーガだけではない。同じくロイムから、人ならざる獣に変化する亜人の騒ぎも報告されておる」


「はっ存じております。同じ森に逃げ込んだ以上は捨ておけぬ状況でございますれば」

「よろしくあたれ」


「かしこまりました。先発の兵を五十お借りさせていただきます。猟師と鷹匠を手配し、五日後に出発いたします。よろしいでしょうか」


「構わぬが……巨大な獅子についても聞いているはずだ。その人数でいいのか?」


「はっ、策もすでに考えております。策が成功せずとも、接触により規模と場所は把握できますので、その場合は必要な数の増援要請をいたします」


 法衣の男は目を細め、満足げにうなずく。


「さすがは俊英の呼び声高いルズベグ卿よ。それでこそ初代ラウドル陛下の心にかなう創世道というもの」


「はっ、我が身、我が剣は聖光神の教えのままに。ではグラウェ衛士長、ロイムで会おう」


 立ち上がったルズベグはゆっくりと振り返ってから、退室した。




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