番外編
聖女アリサ一人称視点です
いつもの角を曲がったら、そこは異世界だった——
いやいや、ありえないでしょ?
周りは何かファンタジーゲームで見るような神官とか跪いてるし?
枯れた大木とかあるし?
「私はこの国の王太子、リーンハルト・デルヴァールという。聖女様にお越し頂けたこと感謝申し上げる」
あ、確定演出キタ—————
よくある、異世界召喚的な流れだ、これ。
召喚された聖女が瘴気を祓うとか、イケメン王子とか、イケメン神官とかね。
ただの女子高生に何が出来るっていうの——
夢ならばどれだけ良かったでしょう⋯⋯
米津◯師もビックリだわ。
でも、残念ながら翌日も異世界のままだった——
とりあえず、笑顔が怖い神官長に、聖力の流れを学んでいくことになった。
しかし、神官長!
スパルタで休みないんだけど!
初心者なんだから、もっとこう、初級コースとかないのかな!
でも私はか弱い女子高生。言われるがままに聖隷樹に聖力を流してみた。
そこで、何か引っかかりを覚えた。
中に別の聖力をいくつか感じたんだよね~
神官長の聖力を流してもらった時もだけど、魔力ってそれぞれ色みたいに違いがあるんだよね。
聖隷樹には神官長の聖力もだけど別の聖力も複数感じた。
あれ、何だったんだろう?
浄化が進むと空気が澄んで花も咲いてきた。
王宮の花壇に鈴蘭に似た花が咲いてたから、近寄ってみると花から聖力を感じる。それも、前に聖隷樹から感じたものと同じ聖力を。
思わず持って帰ろうとしたらリーンハルト様に声をかけられ、叫びそうになった!
ヤバ!盗んでないよ、ちょっと拝借しようとしただけで⋯⋯。
笑ってごまかしたついでに欲しいと言ったら、承諾してくれた!
やった!王太子の許可が取れたよ、やっぱり持つのは権力者の知り合いだね。
来る日も来る日も、鬼畜神官長のハードスケジュールについ意地になって挑んでたらさすがに限界がきた。
なのにあの鬼畜、休みを最低限しかくれない。朝から晩まで働くとか社畜かな?
まだ女子高生なのに!
どんなブラック企業だよ。
あー、もう早く帰りたい!
こんなとこにいたら、過労死一直線だよ。
この先に不安を感じ、一大決心をして、鬼畜の元に日本に帰してもらえるか確認しに行った。帰還方法知ってるのはあの腐っても神官長な鬼畜だろうしね。
なのにあの鬼畜、誤魔化してきたよ。
アレだけ人のことを馬車馬のように働かせておいて肝心なところは隠すとかドンビキなんですけど!
そっちがそうくるならと、自力で帰る方法を探そうと決める。
そんな時、リーンハルト様がご褒美くれると言うから、聖女関連の記録を見せてもらうよう、ねだってみた。
すると、聖女の日記なるものがあるという。
捨てる神あれば拾う神あり!
聖女の日記は禁書だけど、リーンハルト様が許可を出してくれるという。
やっぱり持つのは権力者の知り合いだね(n回目)
ということで来ましたよ、神殿の書物庫!
禁書は奥で、聖女の日記は目立つ装飾らしいけれど⋯⋯
禁書コーナーを見渡すと、明らかに場違いな、綺麗にラメやらでデコってあるノートが数冊、本棚に並べられていた。
めっちゃ、浮いてるわぁ。
明らかにコレだよね、っていうか、コレ以外ない!
迷いなくデコノートを手に取って開くと、中身は、ザ・愚痴のオンパレード!恨みつらみで、ところどころ人名書いてあるのはデスノートを彷彿とさせる。怖い。
日本語で書いてあるから、確かに召喚聖女しか読めないね。解読出来ないはずだ。
読み進めると、どうやら聖女は帰還させてもらえないらしい。
何ですと?だから、誤魔化したんだね、腹黒鬼畜め〜
あ、何か書いてある、何々?『浄化が終わった聖女は、聖隷樹の生贄となって聖力を抜かれるとの噂が⋯⋯あ、誰か来たようだ』
この文章のあと、白紙になってる⋯⋯
そんな⋯⋯、
ベタ過ぎるネタとか、もうさぁ⋯⋯
ここにきてミステリーとかホラーの様相醸し出すのホントに止めてー!?
生贄って何?
何で核心に迫る前に日記終わってるの?
暗闇で一人、涙目になってプルプル震えていると、一冊の日記から、前に感じた聖力が流れてることに気付いた。
あの聖力は、前の聖女のものだったんだ⋯⋯
この日記、鈴蘭の花、聖隷樹から感じた同じ聖力⋯⋯
う〜ん。
聖隷樹を確かめてみるか。
後日、人目を忍んで聖隷樹の元まで来た。いや、人目を忍ぶことはないのよ、聖女なんだし堂々と来たらいいんだけどねぇ。後ろめたい気持ちからつい、こっそりしちゃうんだよね⋯⋯
それでは、いざ!
聖隷樹に聖力を流すと、前よりハッキリと『聖力の色』を感じることが出来た。この鈴蘭の聖力以外にも幾つか。
何だろう。もう少しでこの聖力の流れの根幹が掴めそうだけれど⋯⋯
そう思って次の来訪時、鈴蘭の花を聖隷樹の根元に植えてみた。
その状態でまた、聖力を流すと、鈴蘭の聖力と、聖隷樹の中の同じ色の聖力が繋がりだし、
そこから、フワリと少女が浮かび上がった。
ちょっ、止めてーーー!
だから、ホラーは苦手なんですーーー!!
『あんた日本人?』
幽霊⋯⋯少女が、私の心に直接話しかけてくる。
『⋯⋯え、はい。一応⋯⋯』
声には出さす、心の中で答えてみた。
逃げたいが腰が抜けて逃げられない⋯⋯
『ちょっと逃げないでよ!こっちはやっと話が通じる人間が来て必死なんだからさ!』
彼女も、以前に日本から召喚された聖女らしい。歴代聖女様だね。
『浄化終わってから帰してやるって聖隷樹まで連れ出されて、そのまま樹に取り込まれたのよ。そこからは聖力を直接抜かれ続けてるのよ。分かる?養分よ、この樹の養分』
うわぁ、浄化終わったあとも永遠に続く滅私奉公とか笑えない。
『中に取り込まれると、自分からは出られないのよ。でもどうにか解放されたくて、聖力を花に流してるのよ。あんたが植えた鈴蘭、アレにね』
『え?それで何で花に聖力なんか流すんですか?』
『何かシャクじゃない?聖隷樹に全部聖力もってかれるなんてさぁ。そもそも終わりがないわけだし。で、花に聖力の半分を分散してたのよ。ホラ、鈴蘭ってさ、球根が毒じゃない?聖力と毒を融合させて、地脈を穢し、瘴気を蔓延させてやろうと思ってね』
『⋯⋯え、でもそれって、この国が瘴気で蔓延したのって、花のせいじゃ⋯⋯』
『まぁ、そうなるわね。花が増えて、いつか国全体が穢れて聖隷樹も浄化が追いつかなくなればいいかと思ったのよ』
『花が増えて⋯⋯ってそんな長期化計画を⋯⋯』
『おかげで無事?国に瘴気がまみれて、聖隷樹の力も衰えたってワケよ。いやぁ、ホント長かったわぁ〜』
鈴蘭先輩は今までの苦労を思い出しているのか、目頭を押さえながらウンウン頷く。
『で、聖隷樹もそろそろ寿命が尽きるかと思ったタイミングであんたが召喚されたってワケよ!』
目をカッと見開き、私をビシッと指さす鈴蘭先輩。人を指さししてはいけませんって習いませんでしたか?
『それも、あんたときたら聖力を爆流しするもんだから、聖隷樹が復活しそうになってるじゃない!』
凄い形相で私を睨む鈴蘭先輩に思わず、後ずさった。
『すみませんでしたっ!』
最敬礼で鈴蘭先輩に謝罪しておく。土下座した方が良いかな。
『まぁ、それはいいわよ。【国を瘴気で汚染して聖隷樹を枯らしちゃおう】作戦から、B案にシフトしたから』
『B案ですか?』
『そ。名付けて【聖力を限界突破して聖隷樹をぶっ壊しちゃおう】作戦よ』
『?』
『あんたの強力な聖力を見込んだ作戦よ。あんたの聖力と私達の聖力を合わせれば、聖隷樹の容量以上になるのよ。で、満タンになった聖力はどうなると思う⋯⋯?』
幽霊聖女はここでニタァと口を歪ませて微笑んだ。めっちゃ悪い顔してる、可愛いのに悪人面がキマってる!
『風船に水を流し続けたら⋯⋯分かるよね?ソレと同じよ。パァン!』
『パァン!?』
『聖隷樹は木っ端微塵よ!悪即斬!!ホホホホホーッ』
参ったかとばかりに胸をはって高笑いする鈴蘭先輩。
『大体、聖女としてこき使って浄化が終わったら、はい次は聖隷樹の養分です♪とか信じられない!納得できる訳ないじゃない。この国は聖女なんて聖力を持った道具としか見てないんだから、その道具に聖隷樹を破壊されるなんて、さぞかし愉快でしょうねぇ』
『愉快を通り過ぎてホラー展開ですね〜』
『⋯⋯あんたねぇ。ボケッと他人事みたいに言ってるけれど、あんたも確実に養分ルートに進んでるのよ!?分かってるの!』
『え!?勘弁してください!』
『フフフ⋯⋯。ようやく、素直に人の話を聞く気になったようねぇ⋯⋯』
悪〜い笑顔で低く笑う姿はどう見ても悪役令嬢です、鈴蘭先輩!
『あんたに頼みたいのは、先輩達の花を集めること。あと、今まで通り、チャッチャッと瘴気を浄化することよ』
物騒な事をニヤニヤ笑いながら言う鈴蘭先輩は、ヴィランな雰囲気を醸し出している。
怖い、先輩が怖すぎるッ!
『まずは先輩の花を四種類持ってきてよ』
聞けば、鈴蘭先輩のように他の元聖女も花に力を宿しているらしい。
各地に咲いていたそうだが、瘴気が蔓延して花は枯れ、現在は大地の地脈の中に花自体が眠っていて、土地が浄化されたらまた咲きだすとのこと。
『浄化後に、聖力を感じる花があったらそれが先輩の花よ。聖力に満ちてるから、花だけそのまま持ってきて大丈夫! すぐ根付くからね。先輩も集めて皆で聖隷樹に聖力を最大値まで流すことで、日本に帰れるわよ。気合を入れなさい!気合だ、気合ッ!オーッ!!』
鈴蘭先輩、古いネタをところどころ入れてくるよね。
そんなこんなで浄化からの花探しの日々が始まった。神官長も鈴蘭先輩も人使い荒いよね〜。
でね、他の先輩達の花がもう、水仙とかジギタリスとかケシとかで最後にトリカブトが見つかった時にはもう、もう⋯⋯
『聖女の先輩達が怖すぎるー』
『何言ってんだよッ。オマエもヤラれる前にヤルぐらいの気持ちでいねぇと聖隷樹なんて倒せねぇんだよ。サクッとやっちまうぞ』
トリカブト先輩⋯⋯元ヤンですか⋯⋯
聖隷樹の元にトリカブト先輩、もといトリカブトを植えてフラフラと部屋に戻る際に、レオノーラ様に声をかけられてレオノーラ様、リーンハルト様とお茶をすることにした。
はぁ、レオノーラ様、今日も綺麗〜。
先輩方に会って疲弊した心が癒される⋯⋯
あ、でもリーンハルト様とのデートを邪魔しちゃ悪いから、早めに切り上げないと!
正直、神官長より、先輩方の突き上げがキツい気がする……
神官長に鬼畜とか言って申し訳なかったなぁと考えてた浄化帰りに、神官長と聖女の日記の話
になった。
ちょ、先輩の話は無理なんです!
バレたら私も神官長も消されます!
とりあえず、日記は知らないことにした。
それが世界平和のためなんです……
先輩方を5人全員集め、国の浄化を終わらせたタイミングで、聖隷樹を破滅に導くことになる。
『なんで浄化してから破壊するんですか?』
すると、水仙先輩が出来の悪い子を見る目で大きな溜息をついた。
『浄化が終われば、私達の花も国中に咲くことになるじゃない。花の聖力も返してもらえば、大量の聖力を聖隷樹にぶちまけられるからに決まってるでしょ』
『それに、浄化されて喜んでいるところで落とすのが一番クルしね?天国から地獄へ真っ逆さま!ウフフフフ』
ジギタリス先輩〜。鬼だ!鬼がここにいます!
やっぱり、先輩方は神官長より鬼畜レベルが高かった!
そこからも、毎日の社畜聖女扱いで、やっとの事で全ての瘴気を浄化した。
その後、浄化したその足で聖隷樹に向かう。
先輩方待たせると後が怖いからね、後輩は辛いね。
青々と繁る聖隷樹の元に、極悪な笑顔で5人の幽体になった先輩方が迫力満点で並び立つ。
だからさぁ、先輩方、聖女だよね?聖なる乙女だよね?どうみても悪の幹部御一行にしか見えませんから!暗黒面に落ちまくってますよ。
それでも私は出来る後輩、心の声を隠し、そそくさと彼女たちの元へ駆け寄った。
まぁ、周りの人間に先輩方は見えてないんだけどね。良かったね、見えなくて。
見えてたら皆さん、ひれ伏したくなると思うよ⋯⋯
『始めるぞ』
トリカブト先輩の言葉に気を引き締めて頷く。
ハイハイ、チャッチャッと進めますよ〜
そこから、私と先輩方の力を合わせて聖隷樹の聖力を逆流させる。聖力が先輩方に戻っていくのを感じると同時に、聖隷樹がボロボロと崩れ落ちていく。
ついにその形が無くなり、聖隷樹があった場所は先輩方の花だけが咲き誇っていた。
その花の中で、先輩方が爽やかに笑い、私に向かってサムズアップをしてきた。
それに一礼で返す。
⋯⋯あれ?先輩の花は何で無傷で残ってるの?
聖力を返してもらったんじゃないの?
あと、何か花の数が増えてるし⋯⋯。呪いかな、怖すぎる⋯⋯
先輩方が聖隷樹のあった場所に中指立ててヘイトを叫ぶのを無になって見ていたら、今度は私達が白光に包まれる——
それに気付いたリーンハルト様が、私に向かって手を伸ばしてきた。
あ、何かめっちゃ、私の名前呼んでるしー!
やっぱ、キレてるよね。だよね〜!
ごめんなさい、リーンハルト様!
聖隷樹壊しちゃったの先輩達です、私の意思じゃないので許してください!
私は脅されただけなんです。
賠償はあっちにお願いします。
必死な形相で叫び続けるリーンハルト様に半泣きで謝罪しながら、罪を先輩達になすりつけた——
気がつくと、見慣れた風景の中に立っていた!
良かったー!帰れた!
先輩達も元いた場所に帰ったよね、うん、帰ったに決まってる。
よし、忘れよう。
怖い先輩方も、もう会うこともないしね。
私は異世界になんか行ってません。
全部、記憶から消しちゃえ!
疲れたから、コンビニ寄ってスイーツでも買っちゃおっと。
自動ドアが開いたその先には——
多分、誰かいる




