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第29話 愛の翼に勇気を込めて

剣を構えて光り輝く勇者ちゃん。


「光輪剣!!」


そう言うと剣を天高く掲げる。

掲げた剣もまた金色に光り輝き、そしてさらに馬鹿でかいサイズの剣へと変化して天を貫く。

振り下ろしたら普通にこの闘技場から町の外まで真っ二つになりかねない。


そう考えていたら、勇者ちゃんは剣を天に掲げたまま天高く飛び上がり、そして空中で一回転し地上にいる俺めがけて闘技場内の端から端までぶった切る勢いで剣を振り下ろしてきた。


「真向!唐竹割!!」


俺はその剣を鎧を変形させた盾で防ぐ。

が、盾はメキメキと音を立ててひび割れていく。


「仕方ないな…。これは切り札としてまだ取っておくつもりだったんだが…。」


俺は一度左手の鎧を部分的に解除して、左手に装備していた時計に魔力を込める。


時計…正確には…。


ドラゴンアゲートの…ブレスウォッチ!


龍紋瑠璃…ドラゴンアゲート。

龍の知恵と力を授け強力な魔除けと精神の成長、そして隠れた力を開花させる力を持つ石。


それに加えての 「時計」 と言うアイテム。


どんな力を見せてくれるか…。

さぁ…ショータイムだ!


「ドラゴン…インストール!!」


一度言ってみたかったんだよねコレ。


俺の鎧が龍のうろこ状に変形していく。

関節を走る白い雷は真っ赤な雷に変化し、俺の鎧は血を大量に吸ったかの如く赤黒く変色していく。


邪竜の力を取り込んだ雷帝というイメージだ。


そして俺は振り下ろされたその剣に触れると、剣が辿った時間を逆転させ元のただの剣に戻した。


「なに…!?私の剣が…元の剣に…!?」


しかしこの姿は…予想以上に邪龍だなぁ…。

なんというか、俺の方が悪党みたいだ。


それに、胸の中から込み上げてくる破壊衝動に殺戮衝動…。

これはまずい…。

この力の組み合わせは多分、やっちゃダメなやつだ…。

予想をはるかに超えて強すぎた…!

恐らく、長時間の変身は暴走のリスクがあるタイプのやつだ。


「だが…、勇者は…負けない!!」


勇者ちゃんは再び剣だけを光り輝かせ俺めがけて斬りかかってきた。


俺はそれを抵抗することなく受け、そして斬り倒される。


勇者の剣が俺を斬り付けたことで俺の変身は解除された。


「倒せたのか…私は…君を…。

最後の最後で恐ろしい力と殺気だった…。

初めてベヒーさんと対峙した時を遥かに上回る覇気…。

私が…勇者たる私が…恐怖を感じるなんて…。」


俺は勇者ちゃんに斬り倒されたまま地面にぶっ倒れていた。

意識はあるが、身体は全身から血の気が引くような感覚で全然動かない。

と言うか斬られたのに血も出てなければ傷もない。

勇者ちゃんは的確に、俺の力だけを斬り伏せたのだ。


「流石は大賢者だ!すごく強かったぞ!だが、私の勝ちだ!」


そう言って俺の手を取りながらかっこよく抱き起こしてくる。

この子、宝塚のスターかよってくらい綺麗でかっこいいな…。


「くそ…。身体が動かない…。全身から力が抜けてる感じだ…。」

「その通りだ!最後は君の【力】を斬り伏せたからな!これが私の最強のスキルの1つ。絶対切断!私が斬りたいと思ったものだけを斬り伏せる力だ!ただ、力は切ったところで時間が経てばすぐに回復する。今回はあくまでも、この戦いを終わらせるためのものだ。君を殺したくないからな!」


確かに言われたように徐々に力が戻ってきて身体が動かせるようになってきた。


「ウィナー…勇者!!」


再びわああああっ!という歓声が上がるが、その歓声に紛れて「おっぱいぃぃぃいっ!!」と残念がる歓声が聞こえていた。


「ウィナー…か。私にとってはこの戦いは引き分けだ。勇者たる私が、君のあの姿を目の前にして勇気を失うなど…勇者としてあってはならない事だ。私もまた君に負けた。だから、私のおっぱいを…揉んでほしい…。」

「イケボと真顔でさらっとすごいこと言うのやめてくれる?しかもまだみんな見てるのに…。」

「すまない!おっぱいはベッドの上で揉んでもらわないとおかしいよな!!」

「そう言うこと言ってんじゃねぇよ!!」


やはりアホの子はアホの子だった。


俺は待合室にもどりエナドリを2本摂取した。


魔女さん曰く、俺の魔力ゲージ的なものは3本で全快のはずだと言う話だったからだ。


逆に4本以上は過剰摂取となりいろんなところから魔力が暴発しかねないからやめるように言われた。


試合を終えて闘技場を後にしギルドに戻ると、俺と勇者ちゃんを取り囲むように人だかりが出来上がった。


あの力はなんだとか、あの技はなんだとかお互いにそんな話をされる。


なお勇者ちゃんはその全てに「勇気だ!!」で答えていた。

アホの子凄い。

そして、人だかりを散らす為も兼ねてギルマスちゃんと魔女さんが手をパンパンと叩く。


「さぁさぁ、皆さま、彼の力は見てもらった通りだ。彼が私たち2人を易々と退けた大賢者様だ。

私は彼が私たち2人を退けた時点でS級資格の冒険者であると認めた。

また、それに伴いこの西の国にある長年城主不在の城と城下町を彼の領地として与えた。

今後、彼のことを東の魔女と呼ばれる私に習い【西の大賢者】の2つ名と称号を与える事をここに宣言する。

そして、それを退ける実力を持つ自称勇者だった彼女も、本日付けで正式に【勇者】の称号を与えることにした!

これに異議を唱える勇気ある愚か者が居るならば彼らに挑戦して勝利を収めたまえ!」


この宣誓により、俺は正式にこの国の偉い人になった。

すなわち、この国の歴史には残る事となったわけだ。


これがベヒーさんの言う世界の認知に及ぶレベルかどうかはまだわからないが、現時点においては十分な楔となるはずだ。


しかし、勇者ちゃん…。彼女はめちゃくちゃ強かった…。

そして、今回使ったブレスウォッチ…。

よもやあんな力を発現させるまでに至るのは予想外だ…。


ドラゴンアゲートという名前は凄そうだが、石としては実際安い石だというのに…。


「大賢者!今日は実に楽しかったぞ!

私は今からお昼ご飯を食べに行くから付き合え!

そしてそのまま私と付き合ってくれ!」


拒否権を許さぬその言い回しは嫌いじゃないけど正直疲れる。

そこを察したのか否か、うちの三人娘が勇者に物申してくれた。


「賢者はあなた相手に本気で戦って疲れてるの!魔力欠乏症になってたっておかしくないような力を使ったんだから!あなたにずっと付き纏われたら今度は過労死しかねないわよ!」

「本当にな…やかましくってオレも気疲れ気味だよ…。頼むからそっとしておいてくれ…。」

「賢者さんが死んだら…恨みますよ…?

えぇ、それはもう、あなたが自ら死を望もうと死ねないレベルの苦痛を味わうように呪いでもかけます…。」


妹ちゃんの目がガチでやばい。

珍しくキレてる…。嬉しいような悲しいような…。


「と、とりあえず勇者ちゃん。

君と一緒に飯を食うのは別に嫌じゃないんだが、本当に今日は俺も疲れた…。

願わくばせめて今日の晩ご飯にしてくれ…。」

「わかったぞ大賢者!私が君の晩御飯になれば良いんだな!!」

「んーーーーっ!ごめん!俺の言い方が悪かったね!お昼は付き合えないけど夕ご飯なら付き合うよ!」

「わかったぞ大賢者!では、また夕飯の時間になる前に君の部屋に行くぞ!部屋はギルドに君が借りてる部屋で良いよね!では、また夜に会おう!私はこのまま食堂へ行く!」


元気に宣言し勇者ちゃんは食堂へと消えていった。


「ほんと疲れたよ…。あの子の相手は…。

というか正直なところ勝てないと思ってなかった…。あんなにも俺の攻撃を凌いで受けて、そして俺の鎧すら破壊しかねない力をふるえるなんてね…。」

「お疲れ様…。あれはうん、誰が相手しても疲れるわよ…。どんまい…。」

「まぁた無茶しやがって…。あの力…、相当ヤバいやつだろ…。最後、アレは何を使ったんだよ?」


俺は左手につけたブレスウォッチを見せる。


「時計…?それがあのありえねー禍々しい力を生み出したのか…?」

「まぁね…、なぜあそこまでの規模の力が産まれたのかはよく分からないから今からご飯食べながら考察かな?」


と話していると魔女さんとギルマスちゃんもこっちによってくる。


「さてさて、その話は私も詳しくお伺いしたいね。君、時を操ったね?

あの力をどうやって、何を使い発現させたのかは実に気になる。

詳しく話を聞かせてもらった上で楽しく考察といこうじゃないか。

猫とよく行く君の世界でいうなら【オムライス】というものに近い食べ物が食べられるお店があるんだ。

今日はそこへ行こう。」


な、なにぃぃいっ!?俺はプリンの次にオムライスが好きな男なんだゼェェッ!

貴様!さては見ているな!


「んむ♪好きな男の好きな料理くらい把握してなければ、恋人は務まらないだろう?

と言ってもまだ正式なおつきあいは、私含めてみんな始まってはいないけどね。」

「そこの話はまた暫くはおいといてよ…。俺にも色々と心の準備がだね…。」

「私はてっきり、盗賊ちゃん辺りとはもういろんな意味で出来てると思っていたんだけどね?

だから部屋も相部屋にしたんだけど…。」


お前が犯人かぁぁぁあ!!


「ご主人様はその辺、変なところで真面目だからな…。一線らしい一線はまだ超えてきてねぇよ。

でも…そっか…、つまりオレが正妻…。正妻かっ…♪」


盗賊ちゃんが嬉しそうな顔をするのを愛らしく眺めてしまうが、背後で般若の顔をしながら背中に不動明王を顕現させかけている戦士ちゃんがいた為、俺はすっ…とチベットスナギツネのような顔に戻った。


魔女さんに案内されて美味しいオムライスが食べれる喫茶店に着く。


俺は魔女さんオススメの獣肉に衣をつけて油で揚げたもの…すなわちカツが乗ったオムライス的なものを頼む。


「ま、魔女さん…!これは…!!」

「そう、君の世界にもあるらしいね。

君の世界ならオムライスと言うよりは…【B級グルメ ボルガライス】と言うべきなのかな?」


ボルガライス!まさかこの世界に存在していたとは!!

つくづく俺に都合が良すぎないかな!

好きだから嬉しいけど!グッジョブこの世界の神!


「んじゃ、いただきます。」


俺はジャパニーズテイストで食べ物に祈りを捧げ、早速一口目を口に運ぶ。


サックサクの衣のこの世界流カツに、芳醇な赤ワインベースとおもしきデミグラスソースがよくあう…。

そしてきわめつけはこのバターライスとその上に乗ったクリームの味わいもあるほのかな甘みのふわふわのオムレツ…。


この組み合わせ全てが生み出す絶妙なハーモニー…。


たまらない……。


「ふふ♪気に入ってもらえてるようで何よりだよ。たまに忘れてるかもだけど、君の心の声は私たちギルマスにはダダ漏れだからね。」

「そういえばそうだった。

そもそも、なんでベヒーさんはまぁ除くとしてギルマスはみんな心の声を聞くスキルがあるんだよ?しかもそれ、常時展開してるとしたら色々としんどくないか?聞きたくないものを聞こえちゃいそうだし。」


せっかくなので気になっていた疑問をぶつけてみる。


「犯罪抑止も兼ねて皇女殿下から授けられているのにゃ。

心の声を見透かされてたら嘘もつけないし、犯罪計画を立てても丸わかりにゃ。

人は文字を書くときも口に出す言葉も無意識に心で喋っちゃうからにゃ。

その辺、盗賊ちゃんとその一味はすごいにゃ!

心の声が全然盛れてないどころかなーんにも考えてないにゃ!」

「まぁなぁ~。そう言うスキル持ちも相手にしてたのが、オレたちドラゴスケイルだからな。

今はその特技を生かして密命を伝えるような任務に就いてるやつもいるぞ?」


盗賊ちゃんがハグハグとオムライスを口に運びその度にうんま~っ♪という顔が実に愛らしい。

たまらない。


「でも、お前、ご主人様に関することだけは心の声が凄いにゃ。

そりゃもう…ほんと…お前ら早く一線超えちまえってくらいにすごいにゃ。

お前、どんだけご主人様ラブなのにゃ…。

悔しいとか嫉妬通り越して今じゃもう微笑ましさしかわいてこないにゃ…。」

「ほんとにね~。一途な愛って言うものがまた可愛らしくてたまらないよ。

孫を見るおばあちゃんってこんな気分なんだろうね…。」

「私にゃ2人は人間年齢だけならおばあちゃんクラスにゃし、魔女に至っては玄孫の玄孫いてもおかしくないからにゃ…。」


だが、この2人には子どもはまだいない。

旦那はおろか彼氏すらいた事はないのである。

不思議なもので。


「さて、本題に移ろうか。

賢者くん。君はあのとき、最後の最後で何を使ったんだい?」


俺は魔女さんにも時計を見せる。


「これは…時計?いや、そのブレスレット部分にはめ込んでる石にこそ秘密がありそうだ。

コレは?」

「ドラゴンアゲート。安い石なんだけど、名前を直訳すると龍紋瑠璃って言う言葉になる。」


魔女さんがガタンっと立ち上がり声を震わせる。


「龍…!?龍だって!?おっと…、私としたことが…。」


魔女さんがこんなに震えてるのは初めてだ。


「はぁ…。君の世界にはとんでもないものがあるものだね…。

龍はこの世界においては五大元素のさらに上、神の力だよ。

それに時計なんてものを組みわせてるんだ…。

そりゃ神の領域の力で、時すら操りかねないわけだよ…。」


そして、ものすごい顔で睨まれた。

初めて本気で魔女さんが怒ってるのを感じた。


「そんな力を使って、また暴走したらどうするつもりだったんだい?

君だけじゃなくあれだけの観客を巻き込んで大惨事になってた可能性もあったかも知れない。

その力は当分封印したまえ。今までのどの力よりも危険だ…。

時に関する干渉はバタフライエフェクトにより、さらに恐ろしい結果を引き起こす事だってある。

君はそれを空想の世界で散々見ているはずだ。

良いね?コレはフリとかでもない。よほどの事がない限りは絶対にその力を使ってはならない。

何があってもだ。いいね?」


俺は魔女さんに怒られて珍しくしょげてしまったが、コクリと頷いた。


「ん。わかればよろしい。

しかし、時を操る龍の力か…。

なんとも恐ろしい力を人の身でやすやす手に入れたものだよ…。」


俺もそう言われると確かに恐ろしい力を得たものだと思わずには居られなかった。


さて…その力を受けた勇者ちゃんに変な影響が及ばないと良いんだけど…。

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