第24.5話 開かれた扉
アルファポリス版で入れそびれていた間話です。
なろう限定で書く事にしました。
オレは…ずっと孤独で一人ぼっちで、誰にも愛される事なく生き続けるんだって思っていた。
この人に会うまでは。
オレの目の前にいるこの人は、最初は刺客だったオレに無防備に抱きつかれて寝息を立てている。
それはもう、幸せそうに笑みを浮かべながら。
安心しきった顔で。
オレもこの顔を見れる事がうれしい。
受け入れてくれてる事が何よりもうれしい。
「なぁ、ご主人様…。あんたのこの優しさは生まれつきか?
嬉しいけど、なかなかに罪深い優しさだよな。こんなに優しい男、普通好きにならない女は居ないぞ。
アンタに惚れた女は大変だな。きっと、気が気じゃ無くなる。ライバルが多過ぎるし、どんどん増えていくしな。
きっとオレもその一人だ。まだ良くわかんないけど…、きっとこの気持ちが好きになるって事なんだよな。
恋って‥こんなにも心地良いものなんだな。」
寝ているから聞こえないのを良い事にそんな一人言を呟いて、大好きなご主人様にぎゅっと抱きついて頬擦りをする。
あぁ、そうだ。オレはもうこの人に惚れている。大好きなんだ。
「おやすみ…。ご主人様。ゆっくり休んでくれ。」
オレはオレがいつもされるように、ご主人様の頭を撫でて頬に軽く口付けした。
ふふん。コレはオレの立場を利用した専売特許ってやつだな。
さて、オレもそろそろ寝ようと目を閉じて眠りにつこうとする。
だがそこで変な違和感に気付く。
なんと表現すれば良いんだろうか。
ご主人様の温もりが薄い。ぬるいとか冷たいじゃない。
感じるものが…何かが薄くなっていく感覚だ。
恐る恐る目を開ける。
ご主人様は目の前にいる。大丈夫だ。
「気のせいか…。」
再び眼を閉じて眠りにつこうとする。
だが、眠っているとオレの頭がゴトンと枕に落ちるような変な感触がした。
そう、すり抜けるような…。
オレは間違いなくご主人様の腕枕の上で眠っていた。
【すり抜ける】はずがないんだ。
オレは怖くなって眼を開けた。
「嘘…だろ?」
ご主人様の腕がなくなっている。
いや、正確には身体が手足の先からゆっくり消えている。
「何がどうなってんだよコレ…。いや、冷静になれ!
こう言う事態になった時に頼るべき人は…!魔女さん…そうだ、あの人しか居ない!」
オレは部屋を勢い良く飛び出し、魔女さんの部屋のドアを叩く。
「魔女さん!魔女さん!大変なんだ!頼む!起きてくれ!」
ガチャリとドアが開かれる。
「なんとなく察しているよ。寝付けなくて、暇つぶしに君たちの心の声を聞いていたからね。
彼が…消えているだって?」
「そうなんだ!あの人が…!オレの大切な人が消えていって居て…!」
そう、オレの大切な…大切な…「人」が…。
「急ごう。もしかしたらセイメイの時のように世界から消えているのかもしれない。
その証拠に君はもう、彼を忘れ始めている。しっかり記憶を縫いとめるんだ。そのピアスは誰にもらった?
君の大切な人は…?そう、【ご主人様】だ!
…。怖いね。忘れるっていうのは…。私も彼を【賢者くん】を忘れそうになっていっている…。」
魔女さんは手帳を取り出すと、いろんなことを一気に書き殴りだした。
「良かった。私の手帳に書き記した彼のことは何一つ消えて居ない。
世界はどのような形で彼を消すつもりかは知らないが、彼がこの世界に居たと言う証拠が残るなら、まだきっと勝機はある!」
オレは戦士と魔法使いも叩き起こして、ご主人様の部屋に向かった。
部屋に明かりを灯すと、ご主人様は頭と胴体を残して手足は殆ど消えて居た。
ご主人様のカバンや服までも消えて行っている途中だった。
「消えかけているものには手を触れてはいけない!何が起こるかわからないからね…。」
「だったらどうしろって言うのよ…!今こうやって消えてるコイツをほっとけって言うの!?」
「魔力欠乏症によるものかとは思うんだが…、それにしたって例がないんだ!人が消える魔力欠乏症などね。
盗賊ちゃん、彼に口づけを…。魔力を注いで見てくれるかい?」
オレは言われるがまま恐る恐る、眠るご主人様に口づけをする。
だが、魔力をたっぷり持ってかれる感覚が起こったところで、無理やり魔女さんに引き離された。
「ふむ…。やはりか。原因はひとまず…魔力欠乏症だろう…。だが…、間に合わない…。
消費速度が早過ぎる…。彼をこの世界に縫いとめるだけの魔力は…きっと私たちが思っている以上に凄まじいのだろう…。もっと早くに気付くべきだった…。」
「だったらどうしろって言うのよ…。賢者が消えるのを‥黙って見てろって言うの…?」
「……。今から速攻で考える。だが…、一番の問題は彼を覚えている事が出来なくなっていることなんだ…。
私はもう‥、彼が消えていくにつれてどんどん忘れてしまっている…。」
オレもだ。もう、今目の前にいるこの男が誰かよくわからなくなってきている…。
「何言ってるのよ…?みんな賢者のこと…忘れて行ってるって…。アレだけ賢者のことみんな好きになってたんじゃないの!?そう簡単に忘れられる程、彼への気持ちは浅いものだったの!?
特にアンタはそんな簡単な気持ちじゃないでしょ!私と喧嘩できそうなくらいに好きなんじゃないの!」
戦士がオレの肩を掴んで何か叫んでくる。
「いってえな!何しやがるんだ!つーか、お前ら【オレの部屋】で何してんだよ!」
「オレの…部屋?何言ってんのよ。ここはアンタとアンタのご主人様の部屋でしょ!」
「ご主人様ぁ?オレに主人なんかいねぇよ!オレは便利屋ドラゴスケイルのボスだぞ!」
ったく…。一体なんだってんだ。オレに主人なんて…。
「まさか…。本当に忘れて…。賢者も姿が完全に消えてるし…。
ね、ねぇ!アンタのそのピアス!それ、賢者にもらったものでしょ!?忘れたの!?本当に忘れてるの!?
異世界人!大賢者!アンタのご主人様で私たちが好きな人で、アンタにそのピアスを送った人!
そうだ…奴隷紋!あなたには彼とつながっている証の奴隷紋が…!」
バサっとオレの寝巻きをはだけさせて戦士がオレの腹を見てくる。
「わっ!何しやがるんだ!恥ずかしいだろ!」
「嘘…。奴隷紋が…消えてる…。」
戦士が絶望した顔をしている。
「……。その顔…。流石に冗談にしちゃ演技が上手過ぎるな…。
おい。オレは…その…、本当に何か忘れちまってるってのか…?」
「そうよ…。そのピアス、誰にもらったか。さっきまで誰と寝てたか…。昼間は誰と過ごしたか…!思い出しなさいよ…!
アンタも好きな賢者の事…!忘れてんじゃないわよ!」
そう叫ぶ戦士を魔女さんが止めに入る。
「その辺にしたまえ。……。しかし、まさか私も忘れてしまうなんてね…。
おぼろげだがまだ覚えているが…。コレも時間の問題だろう。
さて、戦士くん。君は…ハッキリと彼を覚えているんだね?」
「?えぇ。覚えているわ。一緒に過ごした日々も何もかもね。」
「そうか…。理屈の考察はまぁ後日行うとして…。今は、彼を唯一覚えている君に頼るより他ないな。」
魔女さんが戦士を見据えてこう言った。
「君に…、彼を迎えに行ってもらいたい。無論、危険は多数ある。
それ以前に異世界へ行く手段と言うものを見つける必要から始めねばならないんだが…。
行けたとしても、まず彼のいる異世界に行けるのか…そこで彼を見つけられるのか…そもそも帰って来られるのか…などなどね…。
帰りは…そうだな。彼がこの世界に来た方法でいけるだろう。
私が作った転移石と彼のペンダント…。それで再び扉を開けばあるいは…。問題はどうやって世界を渡るかだな。」
魔女さんはそう言うと絶望にも見える表情を見せる。
すると、部屋の中に黒い霧のようなものが現れる。
「おやおや、コレはまた予想外の事態になって居ますね。
こんばんは皆さん。と言っても私のことは記憶に残っているのでしょうか?」
「ベヒーモスさん…。アンタ、よくもノコノコ出て来れたもんね。元はと言えばアンタが、彼に全力で戦わせたせいで…!」
戦士がその背中に何かを纏い始める。
「えぇ。ですので、責任を取りに来たのですよ。周りくどいことをいうのは面倒なので、結論から話しましょう。
彼の世界に行く方法はあります。彼にたどり着く方法もあります。
簡単な事です。彼の世界及び彼に深く結びつくアイテムを使えば良いのですから。
彼は自分の作り出した物に無意識に魂のように強い念を込めて居た。
その中でもとびきり強い念を込められた、如何なる剣にも変形するものを…あなたは持っている。
そうでしょう?
【ヴァリアブルソード】。それを使えば実に容易い事ですよ。次元を切り裂き、彼に至るなど。
彼に魂を分けてもらい命をつないでいる貴方なら尚更の事です。
故にあなた一人だけは、彼を忘れられないのですから。
次元を切り裂き、異界への扉を開く鍵を想像し創造なさい。彼の力と魂を継いだあなたはそれが出来ます。
そしてその鍵を、あなたが彼と出会った洞窟の奥部で扉に挿すのです。
さすれば…、扉は開かれるでしょう。」
そうベヒーモスがいうと、戦士はヴァリアブルソードを強く握り変形させていく。
「こんな…感じかしら?あの人が持ってたこの世界の物とは違う鍵をイメージしたんだけど。」
「えぇ。完璧です。彼の世界へ至るなら、やはり彼の世界の鍵の形を模した方が思いも篭るという物です。
では、参りましょう戦士殿。あなた方は…そうですね。彼を優しく迎える準備でもしておいてください。
彼もきっと…あなた方を忘れてしまっているでしょうからね。」
そう言うと、ベヒーモスは戦士の手を取り黒い霧と共に何処かへ消えて行った。
「くそ…。オレは…なんで忘れてしまってるんだよ…。忘れたくなんか…ないはずなのに…。」
「忘れたのなら…また思い出せばいいのさ。今は、彼女に託そう。」
「お姉様…。御武運を…。」
ー西の国の外れのダンジョン最深部ー
「もはや懐かしいわね…。あいつと初めて会って私があいつに命を救ってもらった場所か…。」
「そうらしいですね。さて、彼の世界に行く心構えは如何ですか?
彼に会えるかどうか、彼のいる世界へ行けるかどうかそこについては私も確証はありません。
せいぜい高い可能性を有すると言ったところです。
それでも…迎えに行きますか?当然、元の世界に戻った彼が貴女を覚えている保証も、こちらに帰りたがる保証もございません。
もう一度問います。それでも…行きますか?」
「愚問ね。当然よ。必ず…つれて帰ってくるわ。」
「そうですか、ではコレを渡しておきましょう。」
そう言うと、ベヒーモスは何か紙と金属の塊を渡してきた。
「コレは…?もしかしなくても‥お金…?彼の世界の…。」
「えぇ。コッソリと盗んでいました♪古銭集めや異国のお金集めが趣味な物で♪」
「…。アンタ、うちの盗賊よりも盗みの才能あるじゃない…。まぁいいわ…。助かったわ。」
「あとは…。彼の世界の言葉を習得させておきましょう。」
私の額に指をツンっと当てると、脳天を撃ち抜かれたように大量に記憶が流れ込んでくる。
「これで、彼の世界の言葉が分かるはず。試しに、そのコインと紙幣の文字を読んでみてください。」
「にほんぎんこうけん…。いちまんえんさつ…。読める!私にも読めるわ!」
「これで安心ですね。では、彼を…頼みましたよ。」
私は鍵の形をした剣を洞窟の壁に向け真っ直ぐ構える。
すると、壁が変形し扉が現れた。
「本当に扉が現れた…。鍵付きの…。ねぇベヒーモス…。ここって一体…。
それにアンタはなんでここまで色々知っていて、力を貸してくれるの?」
「さてね。まぁ魔王様に合わせるまえに元の世界に帰したとなると私もそれはもう怒られるかも知れませんので。深い理由はありませんよ。その扉についても、私も良くは知りません。
さぁ、魔力切れなど起こすまえに急ぎ向かいなさい。彼のもとへ。
あぁそうそう。彼の世界はくれぐれも魔法は使わないように。魔法のない世界だそうなので、万が一魔法を使い切れば…帰って来られなくなりますよ?では、お気をつけて。」
私は扉の鍵穴に剣を突き刺し解錠した。
扉がゆっくりと開かれていく。
そして、私は扉の奥へ歩みを進めたのだった。





