第12話 力の代償
宴も終わり俺は自分用に用意された寝室へ、各々もそれぞれの寝室へと向かっていった。
あっという間と言えばそうなのだが、今日も色々とあった1日だったな…。
今日で2日か…。
まだ触れてすらいないが俺が元の世界に帰れる気配は今の所ない。
あの魔女さんのことだ。
気を使ってあえて触れないように気を使ってくれて居たんだろう。
俺が考えなくても良いくらいに気丈に振る舞って….。
あの人はそう言う所とかいろんな所含めて紛れもなく大人の女性だった。って事だな…。
「優しすぎる上に不器用なんだよ…。馬鹿…。」
ポツリと呟きながらベッドに横になる。
帰れない。
別に未練は無かったはずだ。
仕事も会社が傾いて給料も減ってきて嫌気はさしてたし、他の人も無断欠勤からそのまま書類だけで退社してたりもしてたし。
それに…家族は居るが恋人はいない…。
急に俺が消えた所で友達なんてネットの中くらいにしかいない。
そう、だから未練なんて無かったはずだ。
それなのに…。
今は少し、寂しい。
何が寂しいのかはわからないが…。
俺は、この世界で生きると言う選択肢を取るべきなんだろう…。
だからこそ魔女さんや西のギルマスちゃんや果ては皇女殿下までここまで協力的なお膳立てをしてくれたんだろう。
優しすぎるんだよ…。本当に…。
そして、俺が1人にならないように、彼女は妹ちゃんと戦士ちゃんを俺の側近に添えた…。
そう考えれば全て辻褄が合う。
この力を、この知識を、この世界のために使う。
それは悪いことではないかもしれない。
そしてきっと、もう既に俺がこの世界から居なくなることは大して考慮して居ないんだろう…。
色々と利用されてる感はあるが、それ自体は別に悪い気がしない。
だが、俺が死んだ後はどうなるんだろう。
あぁ、だからそのための研究機関か…。
こうやって考えていけば、本当に色々と考えて俺に対する用意をしてくれているんだな…。
明日以降は…どうしていこう…。
2人の訓練を行い、鍛え上げると言う話も出て居たな…。
俺も付き合わせてもらおう…。
俺は特にアクセサリーがなければただの雑魚だ。
アクセサリー無しでも戦えるだけの力と体力を身につけて行かなければいけない。
皇国ギルマスに剣を習うのは色々と嫌だが…。
あいつ大丈夫だよな…。
僕の股間の剣が火を噴くよ!とか言わないよな…。
はぁ…、今日もなんか寝付けないな…。
疲れてるはずだが、不眠症はまだ引きずってるみたいだ…。
俺は今日も深夜徘徊を始めた。
せっかく綺麗な星空があるのだ。
俺は城の頂上の展望エリアに行ってみる。
頂上は吹き抜け構造になって居て、そのまま夜空と街を一望できる構造になって居た。
「この世界にも月はあるんだな…。
綺麗な月だ…。」
俺はアクセサリーボックスを広げ、持ってきて居たアクセサリーやパワーストーンを月光浴させる。
力を使ったらその分きちんと浄化とチャージをしないとな。
石たちは俺の世界とは違い、目に見えて光り輝いていた。
この世界では月明かりにも本当の意味で魔力があるのだろう。
それをきちんと石たちが溜め込んで行ってるのがよくわかる。
「月明かりを浴びた浄化用の水も作っておくか…。」
神社から汲んできた水入りのペットボトルも月光に当てておく。
水すらも光を浴びてキラキラと輝き出してる始末だ。
俺はしばらく月の光を当てて、石たちがキラキラ輝くのが止まったところでそれらをしまいこんだ。
携帯のように充電が終われば光も消えるらしい。
「さて、部屋に戻るか…。」
俺が部屋に戻ろうと立ち上がった瞬間であった。
全身に激しい痛みと悪寒、頭痛に吐き気が襲う。
身体の力が抜ける。
動けない。
身体が動かない。
声も出せない。
このままではまずい。
あまりにも突然に俺の身体が未だ嘗て体験したことの無い不調を訴えてくる。
そもそもなぜだ…?なぜこうなっている…?
この世界は俺の世界とは違う。
俺の世界にはない病やこの世界にしかない細菌への耐性を持ってない故の急な病だとしたら俺は助かるのか?
まて、そもそもアクセサリーを今外してるとは言えど、外しても数時間はその効果が身体に残って居た。
ならば、病や怪我はしたとしてもすぐに治癒されるはずだ。
ならばこの状態は一体なんだ。
考えうるとすれば…力の使いすぎか…?
ならばこれだけの力を使った俺の身に起こる代償は?治癒方法は?
知識があれば、防げたのか?
賢者のブレスに攻めて手が届けば、知識を得ることは出来るかも知れない…。
だが、だめだ。
身体が…動かない…。
調子に乗った罰ってやつか…。
だが、そうだな。
人を救った上で死ねるなら本望か…。
くそ…。目も開かなくなってきた…。
死ぬのか…?俺は?
「大丈夫だよ。賢者くん。」
絶望の淵にいた俺に優しい声が響く。
「言ったろう?君は死なないよ。私が守るもの。」
もう殆ど俺の意識はなかった。
魔女さんの声だけが聞こえるような状態だった。
だが、なんとなくわかった。
俺は魔女さんに口づけをされていると。
少しづつ身体のだるさや頭痛、吐き気、悪寒が収まって身体が動くようになってきた。
目を開くと涙を浮かべた魔女さんがいた。
「よかった…。間に合った…。
やっぱり心配した通りだった。
嫌がるだろうからなるべくバレないようにと、寝ているうちに魔力を与えようと思って居たのに、急に姿が見えなくなったから探したよ…。
君の心の声を聞くこのスキルもせいぜい隣の壁くらいの距離レベルしか聞こえないからね…。
君の声が聞こえなくなった時の恐怖は…、今までに感じたことのない程の恐怖だったよ…。」
「俺は…一体どうなっていたんだ…?」
今は普通に動くが、さっきまでは身体がまったく動かせなかった。
インフルエンザにでもかかったあの瞬間のようなひどい状態だった。
「今の症状はね。急性魔力欠乏症と言う物だよ。
その名の通り、自分の許容範囲を超えて急激に大量の魔力を使うと、足りなくなった魔力を生命力で補おうと魂が動き出してしまう為に、まるで死ぬ直前のようなひどい状態に陥る。
治療方法自体は魂が生命力を消費し始める前に、足りない分の魔力を注ぐことだ。
だから、あの子や2人には悪いと思ったけど、私が口づけで魔力を一気に注ぎ込んだ。
あの石の力をあれだけド派手に使えば、魔力欠乏症になる危険性はあると思って居たよ…。
だから君が寝てる隙に、私と戦士ちゃんと魔法使いちゃんの3人で交代で魔力を口移ししようとでも画策してたんだけど…。
ごめんね…。君はこう言うのを嫌うような誠実な人なのはよくわかって居たが、これしか直ぐに君を救う方法はなかったんだ…。仕方なかったとは言えど許してほしい…。」
つまり、遅れて居たら生命力が消費されていた…。
それはつまり、死を意味して居たわけだろう。
この人は死ぬ危険性のある俺が姿を消して居たから必死に探してここにきて、そして目覚めのキスをしてくれたって事だ。
「気分はどうだい…?落ち着いてきたかい?」
魔女さんは優しい顔で俺の額の汗や頬の汗を綺麗なハンカチで拭ってくれた。
「うん…だいぶ落ち着いてきてる…。
しかし、その魔力欠乏症ってのは発症するのにかなり時間差があるんだな…。」
「そうだね。消費した魔力と回復していく魔力の釣り合いが乱れ出すと急激に症状が出るからね。
だから、回復が追い付いてるうちは症状が出ない。この時間になって漸く間に合わなくなったのだろう。
消費魔力と言うのは時間差で消費するものもある。
故に、気付かないうちに症状が出たり寝てる間に症状が出てそのままぽっくりなんて事もある。
先ほどの症状が出た時点で、君は死んだとしてもおかしくはない状態になって居たと言う事だ。」
そう言い終わると優しく魔女さんに抱きしめられた。
「君が無事でよかった。君が生きて居てくれて…よかった。私はまた…大切な人を…失うところだった…。」
とても良い香りがする…。
それに、抱きしめられてるとすごく落ち着く…。
とても優しい腕だ…。
「ありがとう…。魔女さん。ただ、まだ少し頭がふらつくな…。」
「じゃ、もう一度目を閉じてくれるかい?」
目を閉じると、月明かりに照らされる俺に魔女さんはもう一度長い口づけをした。
暖かくて柔らかい唇が俺の唇に触れる。
その感触に嫌な思いは何もなかった。
「ちなみに口づけで魔力を注いだのは、粘膜接触が一番効率よく魔力を注げるからだよ。
決してやましい気持ちとか、いつもの冗談の延長ではないからね…?そう言うの君が嫌いなのもよく理解しているつもりだから…。」
「うん、ありがとう魔女さん。でも、その…。
魔女さん凄く綺麗だから…急にこんな綺麗な人にキスされると…流石に俺も照れる…。俺はそういう耐性ないんだから…。」
「なんなら、もう一度してみるかい?
君が求めるなら慣れるまで何度でも付き合うよ?」
昨日のギルマスちゃんの時と同じだ。
こんなに優しくされるとどうしても甘えたりしたくなってしまう。
「今日は疲れたろう?おいで。私なりにだが癒してあげるよ。」
「ごめん…。お言葉に甘える…。んっ…。」
ぽふりと魔女さんの胸元へ身体を預ける。
柔らかくて心地よい…。
母のような優しいぬくもりが俺を暖かく包んでくれた。
「今日は少し無理をさせてしまったね…。
ゆっくりお休み…。なんなら、私の寝室で一緒に眠るかい?」
それは…。
「いつもなら、遠慮しておきたいとこだけど自分が気付かないうちに死ぬのも怖いしな…。その言葉に甘えるよ…。
ただ、一緒のベッドは精神衛生的にも勘弁してくれ…。」
俺はそのまままだ少しフラつく身体を魔女さんに支えてもらいながら、魔女さんの寝室に運ばれた。
「君は私のベッドでゆっくりとお眠り。本当に今日は疲れたろう?」
優しくベッドに寝かされ頭を撫でられる。
この人からすれば俺の年齢など孫どころか玄孫のようなものだ。
どちらかと言うと愛よりも母性のが強く出るんだろうな…。
俺は頭を撫でられているうちにすぅっと眠りについた…。
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窓から光が差し込み朝が来る…。
いつのまにかぐっすりと眠っていたらしい。
隣には俺を昨晩優しく解放してくれた美魔女がすぅすぅと可愛らしい寝息を立てている。
半裸で。
え?半裸?
俺は布団をめくり自分の服装を確かめる。
よかった…。この城でもらった寝間着のままだ…。
特に乱れてもいない。
少なくともおそらく寝ている間に俺は襲われていない…。
「寝起きで喉乾いたな…。」
俺は水を飲もうと身体を起こす。
ついでにベッドの脇に置かせてもらった、お気に入りアクセの賢者ブレスを付けようと、アクセサリーボックスに手を伸ばそうとする。
くそ…。ベッドの中からだと手が届かんな…。
仕方なく、ベッドから降りてアクセサリーボックスに手を伸ばそうと床に足をついた瞬間であった。
\ぶにゅっ/
「ぴぎゃっ!!」
なにかを踏んだ。感触としては人だ。
あれだ。母さんとか姉さんの腰を踏んだ時と同じような、まさに人間の肉を踏みつけた時の感触だ。
視線を下に移すと明らかに見慣れない女がいる…。
短パンにチューブトップ?って言うんだっけ?こう言うブラ的なやつをつけていて両手にグローブ、足にはブーツを履いて首元にはボロ布のマフラー…。
女の冒険者…?かな?
とりあえずそのまま何度か踏んでみる。
「ぴぎゃっ!ちょ、やめっ、あんっ…待てって…っんんんっ…オレにそう言う趣味はないからっ!て言うか踏むなよ!!」
お、生きてた。
「いやごめん。なんか倒れてたから死んでたりしないかなと思ってつい。」
「だからって踏みつける奴があるか!
あ、でも…踏み方は…その…いい具合に腰のコリにヒットして気持ちよかった…って馬鹿野郎。」
「おまえ、ノリツッコミ上手いな。もしかして芸人さん?」
「んなわけあるか!私は盗賊だ!」
「次におまえは…貴様…はかったな!という。」
「貴様…謀ったな!! ハッ!」
魔女さーん魔女さーん起きてくださーい。
寝室に不法侵入者でーす。
と心で叫ぶや否や遠くから盛りのついた猫のような鳴き声が聞こえてきた。おや?この声はもしや…?
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!おるぁ!
どこだ不法侵入者と浮気者と泥棒魔女はおるぁぁぁぁ!」
おう…やはりうちのギルマスである…。
「おや…、爆裂娘…。おはよう…。にゃむにゃむ…。」
魔女さんがおきてふあゎぁぁぁっと可愛くあくびをしている。
「魔法使いくん、いや、賢者…。
とりあえずあとでゆーーっくりはなしてもらうにゃ?オマエがそこの魔女と一緒にベッドで寝てる理由を…。その前にまずはこいつだ…。この泥棒不審者野郎め…。」
「に、西のギルマス!?疾風迅雷の爆裂猫娘だと!?
と言うか待って待って!オレ、まだ何も盗んでない!盗めてないから!!」
「ほほーう?つまり未遂という事かにゃー?」
「そう!それだ!昨日の夜の戦いの時使われたであろうアイテムを盗もうとしたら、体中を雷に撃たれて魔力もごっそり持ってかれてぶっ倒れてただけだ!!故に私はまだ何も盗んでない!」
「ほうほう。お前アホだろ。自白してるにゃ。」
「あ……。」
「おい、賢者。私こんなアホとっ捕まえても奴隷に要らないかにゃお前にやるにゃ。好きに使えにゃ…。」
寝起き早々に西のギルマスから俺にボーイッシュでロリ可愛い盗賊少女がプレゼントされた。やったね!!
じゃねぇよ。
「えーーーっと…。とりあえず、盗賊ちゃん…。君はどうなりたい?」
「一思いに殺ってくれ…。
名の知れてない駆け出しの盗賊とは言え失敗した私はもう用済みだろう…。
戻ったところで殺される運命が待ってるだけだ…。
慰み者にされるくらいなら…一思いに殺された方が良い…。
さぁ…!私を…!ンコルォスェッ!」
え、ごめん最後なんて?発音良すぎてわかんなかったけど殺せって言ったの?え?
「…。本音をどうぞ。」
「すみません。馬車馬のように働くんで命だけは勘弁してください。」
「素直でよろしい。」
察するにこの子あれだ。
盗賊としてはバカで頭悪そうだからわざと俺相手に向かわせて体良く足切りされたんだろう…。
実に哀れな…。
「で、君のボスは何処にいるんだい?
君が下っ端とは言え、ボスの場所とかは知ってるだろう?」
「いえ!手紙を一通渡されて、行ってこい!って言われただけなんで!」
「それ、君、多分失敗するのわかってて向かわされてそのまま足切りされたんじゃないのかい?」
俺が思っても口に出さなかったことをどストレートに言い放ったよこの魔女さんはよう!!
「そ、そんなことないもん!
きっとボスが私を助けにきてくれるもん!!」
なんというか本当に哀れを通りこして可哀想になってきた…。
「君の所属している盗賊ギルドの名前は?」
「はん!そんなの聞かれていうわけないだろう!
オレを舐めるなy」
西のギルマスちゃんが盗賊ちゃんにエルボーをかましてからそのまま4の字固めの体制に入った。
「いだだだだだただ!ギブキブギブギブッ!!」
「言う気になったかにゃ?おら?どうなんだ?おぉん?」
てかさっきから思ってたが相当機嫌が悪いぞこの猫…。
「ウチのギルドの名前は…ドラゴスケイルだよ…。」
竜の骨…か。そんな団体名があるのな。
「ドラゴスケイル…。ボスの名前や素性は不明だが最近名を上げている盗賊ギルドだね…。
なるほどね…。下っ端にはとことん自分の居場所や正体は明かしていないわけか…。
これはこんな入団したての足切り要員を追っても芋づる式にボスを捕まえるのはまぁ無理だろうね…。」
「その通りだ!私を捕まえてもボスにはたどり着けないぞ!だからここは見逃して逃してボスの元へ返すべきだ!」
魔女さんとギルマスちゃんがおっきなため息を吐く。
「それとこれとは話が別にゃ。
賢者くん、ちょっと指借りるにゃ。えりゃ、ちくっとな。」
ギルマスちゃんがオレの指に針をぷすっと刺して血を採取する。
「そしてほほいとなっ。」
そのままその針を盗賊ちゃんの腹にぷすっと突き刺しパパッと何か魔法陣を描きこんだ。
「あい、契約完了。お前はもうこいつのものにゃ。
この人が殺さないと死ぬこともできないぞ。良かったにゃ。」
「んなぁぁあぁっ!?
よくもやってくれたな!西のギルマス!」
「やかましいにゃ。大人しくこの人のものになっとけにゃ。多分間違いなく幸せにしてもらえるにゃ。」
おいおい。何言ってくれてるのだこの猫娘ちゃんは…。
「はい、事件解決ー。朝飯にするにゃー。」
この最悪なタイミングで俺のライトニングクォーツを盗もうとしたのが運の尽き。
盗賊ちゃんは晴れて?俺の奴隷になってしまったのであった。





