第8話 祝いたまえ。大賢者誕生の瞬間である。
ううぅ…。頭いてぇ…。気持ち悪うぅぅ…。
気を失ってしばらく経ったのだろうか。
ようやく意識が戻って来たらしい。
だが、目を開け起きようとするも体がうまく動かない…。
あぁ…。やっぱ夢だったか…。
いい夢だった。
「ふふふっ、私にとっては夢のようだけど、これは夢じゃないよっ。はぁぁぁぁあ…。いい抱き心地だ…。」
夢だけどぉおおおっ夢じゃなかったぁぁぁぁあ!
ていうかめっちゃ抱きしめられてた。
おぱいがああああっ!ふっかふかのおっぱいがぁぁぁあ!!押し付けられてるうぅうぅっ!
「うんうん、押し付けてるよぉ~?
意外とうぶなんだねぇ~。まだ一人しか抱いたことないならそうなるのかなぁ~?
あれー?でも君の性的趣向は…。」
こいつ、俺のいろんな記憶一体どっからどこまで見やがった!?
ちくしょう!!
「んふふふっ♪君がここに来る直前の記憶から約一年間かな?」
「ヴォイ。まさに俺が初めての女の子に絶頂してから失念してここに至るまでの一番辛かった記憶じゃねぇか!」
「そうそう。そういうこと。ほんと色々と興味深いものがたくさん見れたよ。あとで色々と聞かせてくれたまえ♪」
もーいや。なんかもう、色々と話す元気が消滅しかけてきた…。
「それは困るなぁ~。私は君と色々話したいし子どもも作りたいし。」
「前者はともかく後者の子作りは全力でお断りします。」
「なんでだい?それは私が君の好みのつるぺたロリ幼女じゃないからかい?」
「うわぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!だれか俺をころしてくれぇぇえっ!!」
と叫んだら扉が勢いよく開かれた。
「魔法使い様!大丈夫ですか!?」
「魔法使いさん!何があったの!?」
おおおおおい…。一番見られたくない二人に…。
「助けて…。魔女さんが襲ってくるの…。人の秘密をネタに脅してくるの…。」
「人聞きが悪いねぇ。あれかい?君好みのつるぺたロリ幼女魔法使いちゃんが居るから聞かれたくないのかい?」
「おい!コラ!俺の性癖とか内緒にするって約束だったろうが!!」
「あっ、ごめんごめーん♪やっちゃった♪」
「やっちゃったじゃねぇよ!とりあえず離れんかい!!」
ゆっくりと妹ちゃんの方を見る…。
うわー、わかりやすいくらい赤面してるー。
お姉さんのほうはーすごいがっかりしてるー。
わー。やっばーい。この空気やっばーい。
「えと…、それってつまりお姉様より私の方が…その…魔法使い様のお嫁さん候補になれるってことですか…?」
予想の斜め上ぇぇぇぇええっ!!
こういう時どう答えれば良いんだ!
そうだ!俺は小児性愛者だからな!!とか言えばいいのか!?
いや、俺が好きなのは紙やモニターに移る二次元のロリっ子が好きなだけであって現実のロリっ子になど微塵も興味などなかったはずなのだがギルマスといい妹ちゃんといいべらぼうに可愛いよなとか思わなかったわけじゃないが嫌だがしかしおかしふぉかぬぽぅ…
「落ち着きたまえよ魔法使いくん…。そして、その返事は確かに私も予想外だよ。
君のお姉さんも真顔で固まってるよ…?」
「えっと…この状況で、私はもうどういう反応すれば良いのよ…。なんかもう、私だけ完全に恋のライバルに対して出遅れてる感全開になってるんだけど…。」
「おやおや、君も彼のことがやはり好きなのかい?そりゃそうだよねぇ。命の恩人だものねぇ。」
「ち、ちが!べつにそういうあれじゃ!か、からかわないでくださいよ!
っていうか、私たちが必死に運んできてベッドに寝かせたのをいいことに一体なんてことしでかそうとしてたんですかあなたは!!」
は!そうだそれだよ!気を失ったことは覚えてるが一体何があってどうしてこうなった!!
「あははは。この子達が倒れた君を運んできて、私はもう大丈夫だからこのベッドに寝かせておいて良いよと言って寝かせてもらってー、先ほどの部屋に戻って彼女たちと話してる途中でちょっとお手洗い♪って言って抜けてきてー、今に至る♪」
「はっ倒すぞお前。」
「ハハハハハ!いやいやいや、でもおかげさまで私にも心を開いてくれたようで嬉しいよ。
君は心を開いた相手ほど口が悪くなったりする癖があるとあの子にも聞いていたからね!」
「西のギルマスは一体あなたにどこまで話したんですか…。」
「んー…。色々?君とのことはそれはもう嬉しそうに全て語ってくれたよ。こんど本気でバトって叩きのめしたいくらいに。」
うわ、急にマジトーンになった。
そういえばこの人異世界人に対してはテンション抑えられなくなるんだったか…。
てかもうこの世界のギルマスは変人ばかりか…。
「そうだねぇ。中央皇国のギルマスに至ってはホモだし。」
「わぁーお。」
「西の国のギルマスに昔大好きな男の心を奪われた!って言ってガチ勝負仕掛けて、遠距離から爆裂魔法でめっためたにされた事で一時期は男好きも落ち着いたんだけどね…。
トドメとして惚れた男に「うわ、きっしょ…ちかづかないでください…。」って言われたことでね…。
あれは綺麗なオチがついたけど、可哀想ではあったな…。」
「なんかもう、みんな色々と壮絶な過去をお持ちのようで…。」
そういえばこの人は、数百年生きてきて異世界人と子どもを作るために未婚で処女を貫いてるとかなんとか言ってたっけか…。
「そうだよー。今年でいくつだったかなぁ。でも数百年っていうけど300年はいってないよ?
ちなみにあの子とは親どころか祖父母の代からの知り合いになるよ。
私からしてみれば可愛らしい孫娘みたいなものだね。
さてさて、君や私が話したいことは、みんなの性的趣向の確認とか恋愛話ではないだろう?
私はまず、君の作り出した数々の作品たちとその力の全てを確かめてみたいし、君の知識を私の知識とあわせてこの世界に新しい技術を生み出したい。君の本題は?」
そうだな…。俺もそこには大変興味がある。
色々と面白いパワーを持つ石やアクセもあるし。
名前や形のイメージまで具現化させられるこの世界において、俺のハンドメイド作品の持つパワーは果たしてどこまで至るのか…。
それを見てみたいし、この世界で作った場合は更なる力を得られるのか色々と試してみたいことは目白押しだ。
だが…。俺がいた世界とこの世界の時間がリンクしてるなら俺の休日は今日までだ…。
元の世界に戻れなければ俺は明日には無断欠席になってしまう…。
それは避けたい…。
うぅむ…。だが、元いた世界に未練はないだろうと言われれば言うほどない。
家族が気がかりではあるがせいぜいそれくらいのものだ。
心配はしてるだろうが…。
一体どうすれば良いのか…。
「俺は…とりあえずこの世界における自分の作品についての研究はしてみたい。
だが、それ以前に俺は元の世界に戻れるなら帰りたい。行き来できるならそれが一番理想だけど…。」
「えぇー?かえっちゃうのぉー?私と幸せな家庭を持とうよー。」
「そこは遠慮しておく。」
「あの…!さっきから気になっていたんですが…。魔法使いさんは…その…おとぎ話に出てくる異世界の人…なんですか?」
魔女さんの顔つきが変わった。
満面の笑みである。
「そう!そうそうそうそう!その通りなんだよ!私も私のおばあさまから聞いた伝説でしか知らない異世界人!
この世界にかつてたった一人だけ現れ、様々な知恵や文化を与えてその後行方不明になったと言われている。
またその異世界人の血が混ざってるものは、黒髪に近い髪色になると言われている。
故に私も祖先はきっとその異世界から来た王子様!
だが、そこを考えると黒髪の人間は今じゃ私を含めかなりの上位階級の人間ばかり集中してる上にそこそこ数も多い。おそらく君たちにも混ざっているだろう?
そう考えると当時の異世界人は相当子どもを作ったんじゃないかと言うことになり…。」
「あの、12歳の前でそういう話は本当にやめてあげてください…。」
「大丈夫ですお姉様!私も、もう子どもは産める体です!」
なにこのほんと居難い空間。
なんなの。ほんとこの世界には痴女しかいないの。
「産める産めない産みたいの話じゃなくって…。あぁもう…そうだ!本題!本題に戻りましょう!
ひとまず、魔法使いさんは本当に異世界人なのはわかったから!あとはこの人の持つ技術やらなにやらの研究の話をするんじゃなかったっけ!?」
「あー、そうだったそうだった。で、そこなんだけどさ。魔法使いくん。
君、領主と研究室所長になる気はないかい?そもそも君は今のままではただの不法入国者だ。
私と西のギルマスと皇女殿下による口添えで中央皇国でも入国審査なしで入れるように取り計らってもらっていたんだが、正直なところ色々とあったときに君の立場が危険だ。と言うわけで物は相談って言うわけさ。
今、私が皇女殿下に進言してる内容を先に伝えよう。」
というと黒の魔女は書類を何枚か取り出した。
「まず、君には称号と爵位と身分として【西の大賢者】と言うものを用意した。
君のアイテムの話を西のギルマスから聞いて考慮したものだ。
知っていたかい?君が彼女にプレゼントしたネックレスだが、あれは最早国宝級を超えて神話級のアーティファクトに相当する力を持っている。
君はなんとなしに渡したと言うか、私が君の記憶を覗いて見たところ本来君の世界では運気を少し変える程度の物なのだろう。
だがこちらでは相当な力を持つ。で、あれを身につけた彼女なんだがね。
あのネックレスにより魔力が尋常じゃなく高まったり、シックスセンスの向上により数秒なら未来視できる能力まで発現したそうだよ。
まぁ、その身から外すと数時間で効力は失われるようだけど。
なんにせよ、装備するだけでそんなとんでもないレベルのスキルが発現するようなアクセサリーを作り出せるんだよ君は。これを【大賢者】と呼ばずになんと呼ぶか?と言う結論に至ったわけだ。」
なるほど…。そんで、領主や農協のような状態の研究室や城の管理人不在の西の国にちょうどよさげな人材だから当ててしまおうと…。
「で、次の2つ目は君と私の技術提携契約を申し出たいと言うこと。
私の持つこの世界における魔術の知識を君に与えて、君の持つ技術により生み出したアーティファクトがどのような力を引き出し得るか?などの研究がしたいと言うわけなんだ。
転移門の改良や君が望む世界観の行き来が可能かと言う研究、あとは、君の世界にある【電話】と言う機械はなかなか便利そうなのでこれの研究などなど。
君にはその全ての特許を、私はそれの開発に協力したと言う地位を、共にこの世界の歴史に刻もうではないかと言う魂胆さ。当然、城主となってもらうにはやはりそれなりの仕事は必要だろうからね。」
うーん…なんかこうめんどくさそうなのはごめんなんだがなぁ…。
「3つ目は、君には未だ私達と完全には結ばれていない、北の大地と南の大陸の島国と真の国交を結ぶきっかけを作る大使になってもらいたい。これは皇女殿下からの要望だ。
特に魔神族の土地でもある通称【試される大地】と呼ばれる北の大地の魔王様は、私と同じように異世界人の来訪を心待ちにしていたとか言う話でね。
今まで何度国交を結ぼうとしても下手すれば戦争になっていたんだよ。
だが、そんな戦争どんぱちやってた双方の親世代が亡くなった。
世代交代した互いの娘側、つまり魔王の娘と我らが皇女殿下様は共に仲良くなりたい。
でも、親がいがみ合ってたから正直関わりにくい…。そこで君に白羽の矢が立ったわけだね。
君、旅とか冒険とか幼女とか好きだろう?
まだまだ私達と旅と冒険とロマンスと子作りをしようじゃないかと言うわけだね!」
「まてぇい。ちょいまてぇい。最後ら辺がおかしいぞお前…。」
まぁ、でもせっかくの異世界だ。冒険もしたいし異世界の技術や魔法を込めた本物のマジックアイテムとかハンドメイド作家としては心が躍る。作るための道具はほぼ手持ちにあるしな。
「あ、あの!!私たちは…その魔法使い様…いえ、賢者様と一緒に旅はできるのでしょうか…?」
妹ちゃんが残念そうな顔でこっちを見てきている。
「ふふ…。それはねぇ。
私としては新人冒険者である君たちを北の大地に同行させるのは大変危険だと言うことで、勇者パーティでも雇おうと言う話をしているんだよ。
知っての通り、あの大地は自我を失った魔物や強大な力を持つ原住民も多い。
普通ならB級以上の冒険者が派遣されてようやくといった土地だ。
君たちのようなDランク冒険者を同伴させるとなると命の危険もあるし、下手すれば私や彼の身も危ぶまれる危険がある。
と、言うわけで賢者くんを含めてみんなをBランク以上の実力者に仕立て上げてから向かおうと言うことになった。」
おおおう…。多分その基準なら、俺はDランクどころではないと思うんだが…。
走るのも遅けりゃ武器も握ったことないし、喧嘩すらろくにしたことないってのに…。
「と言うわけで今後の流れは…。まず、魔法使いくん改め賢者くん。
君の持つアイテムの力を知るためという名目を兼ねて、我が研究室自慢の魔導師軍団と模擬戦をしてもらう。
次にその結果を基にしての君の戦闘訓練。あとは彼女たち2人も戦闘訓練とダンジョンでのクエスト攻略。
しばらくはこっちのギルドで働いてもらうよ。西のギルマスからは許諾済みだ。
そして、その合間合間に息抜きを兼ねて私と技術交換や、君の好きなようにアクセサリー作りを楽しむ時間や道具と材料の提供をと考えている。どうだい?悪い話ではないだろう?」
まぁ、この世界で無一文で露頭に迷うよりは余程良いだろう。
この世界に住むとなればどうするべきかとか考えてたし…。
「乗ったよ。その話。と言うか、俺にはもはや選択肢はないだろうそれ…。」
「ハハハ、話が早くて助かるよ。
断られたら私は君たち3人とも重要機密漏えいを防ぐためにも始末するよう申しつかっていたからね。」
「おいおいおい、さらっと恐ろしいこと言うなぁ君は…。」
東の魔女がシュルリとスクロールを広げ、目の前に浮遊させる。
「こほん…。
では…、東の魔女の権限においてこちらの異世界人に【西の大賢者】の地位と称号、領地を与える!
また、魔法使いちゃんと戦士ちゃん両名を本日付けで【西の大賢者】の【側近】に任命!
また、同時に爵位【グラーフ】を与える!」
おぉぉー。俺達なんか急に偉くなったぞ。
「ふふん。これは西のギルマスからの要望だよ。
君達2人がここまで賢者様を連れてきたらそれで実績としては十分だとね。
あと、賢者くん。
知っての通り、西の国は実力至上主義の国だ。
君にはあの国で本気のギルマスと私のコンビ相手にも戦ってもらう。
そこで君の実力を西の大国の連中全員に知らしめてやった上で誰も文句が言えない領主になってもらおうと言う計画だ。
君の持つ力の全てを知るためにも、最後は私たち2人が相手をしようと言うことになった。」
「すみません。素人の俺が勝てる気がしないのですが。」
「よく言うよ。」
魔女が俺を真っ暗な魔力の塊の球体でギュルンっと包み込む。
「ちょ!なにをっ!?」
直感でもわかる。これは触れただけでも腕を持ってかれるやつだ。
「さぁ、そこから出てみたまえ。」
この世界に来て初めて、俺は恐怖を感じることになった。
目の前の女は…間違いなく魔女であった。





