生死のかかった世界
この世界は本当にゲームなのか?
ステータスが見え、魔物やクラス、魔法などのRPG要素があり、俺自信にゲームの世界に行ってみたい願望があったため勝手にゲームの世界と認識していたが盗賊団と戦ってわからなくなってきた。
血のエフェクトはまだわかるが、その血を浴びたら洗わないと消えないしやけにリアル過ぎる。
この世界の人はAIでそれぞれ意志があると思っていたけどそれ以外にも体温があったり本物の人間に近い。
だが、ここがゲームの世界じゃなく、ゲームっぽいだけのただの世界ならHP0になったら俺も………。
「……さん。……ますか。ハルキさん!」
「は、はい」
「ハルキさん、ちゃんと聞いてましたか?」
ギルド職員で受付嬢のクリスさんが顔を覗きこんで来る。
「大丈夫です。聞いてましたよ」
オヤジと別れ、俺とカノンはエルを連れて盗賊団を討伐したと報告をしにギルドに向かい、クリスさんから説明を受けていたのだ。
あまり聞いてなかったけど後でカノンに聞いておこ。
「では盗賊団の遺体を確認後に報酬の受け渡しとランクアップをしますので楽しみに待っていてくださいね」
あー、今回の件でギルドランクが上がるのか。今が1番下のランクだから上がるのも速いのかな。
ギルドでの用も終わったので俺達は帰る事にする。
「あれ。そういえばエルはこの後どうなるんだ?」
「……ハルキさん説明を聞いてなかったんですね」
俺の疑問にカノンはジト目で見て来る。
しょうがないだろ、こっちはこっちで心の整理がいるんだよ。
溜め息をしつつカノンが説明してくれる。
「はあ、エルさんは元の主人が死んでしまったので彼女を助けたハルキさんが新しい主人になるそうです」
おいマジかよ。始めは翻訳者として奴隷がほしいとは思ったけどさ、今は遠慮しときたい。
金を渡すから1人で生きていけと言っても奴隷の身でいい働き口などあるはずもなく。
奴隷なら主人が最低限の衣、食、住を与えてくれるのでエル的にも奴隷のほうがいいらしい。
「……夜の世話もしてもいい。まだやった事ないけど。……がんばる」
などと言われて反応してしまうのは男の性なのだろう。
何も言ってないのにカノンが睨んで来るし。
夜の世話は遠慮して宿へ向かう。少し惜しかったか?
◇
「かわいい女の子を2人もはべらせていい御身分だね」
うるさいな。俺だってこんな事になるなんて思ってもみなかったよ。
店番をしていたエリカにからかわれつつエルの宿泊費を払う。
「ご主人様、奴隷1人に1部屋も使うの?」
「え、ダメだったか?」
「邪魔じゃなかったらご主人様の部屋の隅でいい。ダメだった廊下で寝る」
「いや、それはどうだろう……」
奴隷と言えど女性をそんな所で寝させる訳にはいかない。なのでエルの部屋を借りてそこで寝てもらう。
各自、部屋に戻り俺はこれからの事を考える。
俺は人を殺してしまった。けど相手は犯罪者なので罪にはならないらしいが好き好んで殺したいとは思わない。気分が悪いし。
元の世界に戻りたいかと聞かれたら、答えは否だ。学校ではイジメがあったし、家族にも未練はない。
この世界で第2の人生を送るのもやぶさかではない。
ならこの世界で生きていくには金がいる。今はエルもいるし本格的にダンジョン攻略も考えてみるか。ダンジョンを攻略したら報償金も出るらしい。
それなら装備品もいいのを揃えないといけないが、そこはコツコツやろう。
などと思考を巡らせていたら扉をノックされた。
「ハルキさん、今大丈夫ですか?」
カノンか。またなにやら悩み事かな? とりあえず部屋に入れイスに座ってもらう。
「ハルキさんはその……、エルさんの事どうするんですか?」
「エルの事? 明日エルもギルド登録して、一緒に戦闘に参加してもらうつもりだけど」
エルの個別スキルは【魔法強化(大)(中)】と魔法の威力に関係するINTが上がるスキルを2つも持っている。
俺とカノンが前衛でエルが後衛でバランスがとれるな。
だがエルはまだLv3だ。初期のクラスアップがLv5なのでそれまでは前衛で参加してもらうか。
「そうですか……。あの、私はまだパーティーにいてもいいんですか?」
いやいや、エルのレベルも低いからカノンに抜けられると困るんだけど。
「よかった。それで……その……、少しお話し聞いてくれませんか?」
こちらが本題だったらしくカノンが話し出したのは彼女の過去の話で冒険者になるきっかけ、魔物を憎む理由でもあった。
カノンは父と母の3人家族で小さな村で暮らしていた。
だがある日、魔物の群れに村が襲われその時にカノンの母も死んでしまったらしい。
「私は魔物を憎みました。村を襲い、母を殺した魔物を許さないと。……でもそれと同時に何もできなかった自分が悔しかったんです。ですからハルキさんから私には人を守る力があると言われて本当に嬉しかった」
うっ。あの時はただのゲームと思ってカノンにシールダーのクラスのままでいてもらうための打算的な言葉だったので、カノンの嬉しそうな顔が直視できない。
「攻撃スキルがなくて役に立てれないのなら私は盾となってハルキさんを守ります。ですから今日みたいに1人で突っ走らないでください。私達はパーティーなんですよ」
カノンの言葉で俺は反省した。偉そうにパーティーの事でカノンに注意しつつも大事な時は俺1人で戦っていた。
その行為は端から見たら自分以外は信用していないように見える。いや、実質そうなのかもしれない。
スキルがない、戦い方に不安があるなど思いつつ結局ソロでの戦いが抜けていないのだ。
「ごめん。カノンには偉そうな事を言っていたけど俺は1人での戦いが多かったせいでそれが癖になっていたのかもしれない。今度からは注意する」
「ハルキさん!? あ、頭を上げてください。私も初めは無茶をしてましたからお互い様ですよ」
カノンも許してくれるみたいなので頭を上げ、あらためてお互いに握手をして挨拶をかわす。
「これからもよろしくな」
「はい」
こうして俺はゲームのような、でもゲームじゃない生死のかかった世界で生きていく事を決めた。
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