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17/17

17.歴史は大の苦手です

 5月の下旬。

 その時期になると、来月に控えた学園祭に生徒達がそわそわし出す。

 教室はビッグイベントに心躍らせ、ざわめきが伝播していく。

 何を出そうか、誰と回ろうか。

 本来ならそんな会話が聞こえてきそうな時期だ。

 ……そう、本来なら。

 

「ど、どうしよう……」

 

 私は手に持った紙を見つめて、小さく呟いた。

 右上に書かれたのは26点の文字。

 見間違いであって欲しいと、薄目で見たり、離しても数字が変わることはなかった。

 理解した瞬間に頭が真っ白になる。

 今までで1番悪い点数だ。

 

「返却したテストは中間考査にも出るからな。しっかり復習するように。」

 

 先生の言葉が鼓膜を揺らし、突きつけられた現実。

 私にはそれを受け取れるだけの余裕は持ち合わせていなかった。

 中間考査では、魔法の実技テスト、食事マナー、そして座学の3項目が審査の対象になる。

 魔法はホワイト様と殿下のお陰で最低限のラインはクリアしている。

 テストでも大きく転けることはまずない。

 食事マナー。これも普段からしっかり意識しているので、合格点は取れるだろう。

 問題は……座学だった。

 数学は前世の知識でどうにかなっている。

 魔法学もホワイト様の指導のおかげでなんとかなると断言できる。

 でも、歴史だけは別だった。

 

(カタカナが多すぎる!!)

 

 出てくる人物は横文字ばっかりで、漢字のように雰囲気で覚えることは叶わない。

 しかも、起こっているのは私からしたらおとぎ話のようなことばかり。

 今までとのイメージのギャップもあり、暗記するのは一苦労だった。

 

(ライブのセトリとかなら覚えられるんだけどなぁ。)

 

 暗記は苦手というわけではない。

 ファンの名前を覚えることも、ダンスの振りを覚えることも人並み以上にはできる。

 その熱量で取り組めば、難しいことではなかった。

 ……ただ、興味がないだけ。

 なんて、今回ばかりはそんな言い訳をしている暇はない。

 

(これは本格的にまずいかも……)

 

 くしゃりと音を立てた用紙を見つめて、どう対処しようか頭を巡らせる。

 

(ダンスレッスンを削る? いやいや、来月は学園祭でライブだよ。今減らしたら完成させられない。)

 

 確保できる時間は限られる。

 となれば、その時間をどう有効に使うかになる。

 

「ローザ様、今回のテストも満点だったのですよね。」

「流石ですわ。やはり私達とは格が違いますもの。」

 

 どうしようと悩む私の耳に、後ろの席の会話が聞こえてきた。

 

(えっ、ホワイト様満点だったの!?)

 

 こんな難解なテストを……と、問題用紙に目を向けたところで閃いた。

 

(そうだ! ホワイト様に教えて貰えば……!)

 

 1人ではできなくても、誰かと一緒なら違うかもしれない。

 そんな考えがよぎる。

 ホワイト様は魔法を教えるのもとてもわかりやすかったし、なにより……もっと、話してみたい。

 

(……あっ、でも迷惑になるかな?)

 

 今は貰ってばかりの状態。

 私は何も返せていないのに、頼りっぱなしなのは嫌だと思った。

 

「……何を百面相なさっていますの?」

「ホワイト様っ!?」

 

 驚いて肩が跳ねる。

 いつの間にか、教室には人がいなくなっていた。

 

「あれ、他の皆さんは?」

「とっくにお帰りになりましたわ。」

「そうですか……」

 

 思っていたよりも考え込みすぎてしまったようで、辺りは薄らとオレンジに色付き始めている。

 

「ホワイト様は何かご用でもあるんですか?」

 

 私の練習がない日はご友人と一緒に帰っていたはず。

 先に帰らせたということは、理由があるのではないかと尋ねると、少し視線をズラされる。

 

「貴女が珍しく教室に残っていたので、気になっただけですわ。」

「私のために……?」

 

 少しの期待が声に混じる。

 

「……別に。いつも授業が終わるや否や飛び出す貴女が、今日は周りの変化に気づかないほどそちらを握りしめていたので、何事かと思っただけですわ。」

 

 ホワイト様の視線がチラリと私の紙を映す。

 私はあははと苦笑いを浮かべた。

 授業が終わって真っ先に帰るのはダンスレッスンの時間を少しでも増やす為。

 まさか、それを見られていたとは思わなかった。

 今日はテスト前ということで遅い時間にスタートするから、余裕があったのだ。

 ほんの少しの変化。

 その“違い”に気づいてくれるなんて……。

 

(ホワイト様は“見てくれる”んだ。)

 

「その、実は……テストの点が良くなくて。」

 

 無意識のうちに視線が落ちる。

 

「そうなんですの?」

 

 ホワイト様の声は意外だ、と言いたげだった。

 

「はい。暗記が苦手で……全然人の名前とか出来事が覚えられないんです。」

 

 正直に答える。

 ホワイト様が何かを考えるように口元に手を当てたのが見えた。

 

「……それでしたら、私が教えられるかもしれませんわ。」

「えっ?」

「あら、嫌ですの?」

 

 少し意地悪そうに笑うホワイト様。

 

「嫌とかじゃなくて! 嬉しいです! でも——」

「なら、素直に受け取りなさい。貴女のことだから、どうせ迷惑になるかもしれないと思っているのでしょう?」

 

(なんでそれを……)

 

 言葉が止まる。

 

「何を不思議そうにしていらっしゃいますの? ある程度一緒にいたら、思考パターンくらい読めますわ。」

 

「これくらい貴族なら当然です。」と付け加えるホワイト様に私は瞬きを繰り返した。

 

「良いですこと? 迷惑なら最初から提案していませんわ。……それで、どうするんですの?」

 

 片目を閉じて私の意思を確認するホワイト様に私は立ち上がった。

 

「よろしくお願いします!」

「えぇ、私が教えるからには半端な成績は取らせませんわ。」

 

 迷いなく言い切る姿は、思わず見惚れてしまうほど眩しかった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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