1. 聖女、追放される
2話目から短編の続きです。
しんと静まりかえる部屋の中、ロゼはもう一度聞き間違いではないかと聞く。
「ナターシャ、今なんて?」
「ロゼ、貴方を追放いたしますわ。と、言いましたの」
ロゼはぽかんと口を開ける。
「え? 嘘でしょナターシャ。私達今まで……」
「貴方はね、まず聖女なのになんにもできない。貴方なんてね、馬鹿よりも聖女の才能なんてない。いい? わかった? もう二度と私の前に現れないで!」
ナターシャは勇者パーティー【不死鳥の舞】のリーダーだった。
優秀な魔法使いで、いつも皆を引っ張っていた。
ロゼは、ナターシャと自分は仲良しだと思っていた。……だが、そんな妄想も今のセリフで打ちれてしまった。
聖女の自分、ロゼも自分の無能は自覚していた。
でも、これはあまりにも酷かった。
「くそっ、くそっ、くそ!」
ロゼは森の中で叫んでいた。
「そんなの自分でもわかってるよ。才能ないって。だから努力してんのに、なんの成果もない!」
せめてもの腹いせで、木を殴った。
ヘロヘロの情けない一撃。……と、本人は思っていた。
ドッガーン!!!!!
ロゼは目がおかしくなったのかと、一度目を伏せ、また開けた。
どう見ても、さっきまであった森がない。
夢?
そう思って頬をつねるが、普通に痛い。
「……なんだこれ」
呆気にとられるしかなかった。
「いやもう神様仏様冗談はやめてください。まてまてこれは私が怪力ってことになるよね? なるよね?」
ロゼは自分の手を見る。白い、華奢な手だ。
「この手が、森を破壊した? ないない」
……でも、この光景が真実を語っている。
しばらく考え込んでから、ロゼは天を仰いで言った。
「あー……もう私の才能偏りすぎでしょ。だから聖女とか向いてなかったわけね」
……もう、信じるしかなかった。
それからロゼは、周辺に飛び散った木の破片などをかき集めて、それに向かって「殴ってごめんなさい。」と言い、その場を後にした。
……もし自分に、聖女の才能があれば、この森を元通りにすることができたのだろうか。
そう思い、自分のこの偏った才能を呪うことしか、ロゼにはできなかった。
「……この力を、どうやったら有効活用できるかなぁー!」
嫌味を少し込めたこの言葉を投げやりな気持ちで叫んでみる。
そうでもしないと、自分が壊れてしまう気がした。
「もうやだ……なんでよりにもよって聖女と関係ない、というか真反対のこの力を持ってるの……」
ロゼは、幼い頃瀕死の状態にあったのを、通りすがりの聖女に助けてもらったことがある。
「お姉さん、助けてくれてありがとう。」
「いいのよ、聖女として当然のことをしただけだし」
「聖女……当然……」
「そうよ。聖女って、なるまでも努力や苦労で大変だし、解呪とか回復とか魔力消費が激しくてすごく大変だけど、それをやった後にみんなの笑顔を見るのが好きなの」
「……お姉さん、かっこいー……」
(……私も、かっこいいって思われる、感謝されるようないい人になりたい……!)
「お姉さん、私、聖女になる!」
「……そう。大変だろうけど、頑張って!」
「うん! 努力とか苦労とか乗り越えて、絶対すごい聖女になる! 約束」
あの聖女さんと約束したから、絶対すごい聖女になるんだ。そう、硬く決心していた。
……でも、現実は残酷だった。
神殿の神官からは『あなたは聖女じゃなくて、ほかの役が向いてるかもね?』と見放され。
同期の聖女見習いからは『そんなんで聖女名乗るとか、ほかの聖女の恥だわ』と罵られ。
そして最後には、ナターシャから『貴方はね、まず聖女なのになんにもできないの』と切り捨てられた。
世間は聖女の才能がないロゼは、聖女を名乗る権利なんてないと言った。
「これじゃ、あの人……聖女さんとの約束……果たせない……」
普通なら喜ぶはずの人外な力。
しかし聖女を目指していたロゼにとって、これはありがた迷惑だった。
「ねえ……神様……なんで、私にこんな力を与えたの? 私はこんな、物を破壊するような力は、欲しくないのに!」
ロゼは、無意識に地面を叩いていた。
メキメキメキッ
「……あ……地面、凹んじゃった」
ロゼは死んだ魚のような目で、凹んだ箇所を見つめていた。
「……あれ、なんか光ってる?」
ロゼが凹んだ部分を少し掘ってみれば――……
「光るペンダント……? なにこれ、アイテム?」
『神の欠片 レアリティー∞
神の欠片を使ったものには選んだ神と同等の力が与えられる』
「……なにこれ、なにこれなにこれ! 最強のアイテムじゃん!」
(選んだ神……? ってことは、聖女の神とか選べるのかな?)
「私、すごい聖女になれる……?」
ロゼの目には、ありったけの希望で満ちていた。
……『努力とか苦労とか乗り越えて、絶対すごい聖女になる』。
「努力や、苦労? ……それを乗り越えて、やっとすごい聖女になるんじゃん!」
(なのに私、アイテムで簡単に聖女になろうと……)
ペチン!
「しっかりしろ、私! 初心を忘れるな!」
(何かしらで私でも聖女になる方法があるはず!)
「よしっ! 頑張ってみますか!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
天上界視点
「あらあら、面白い子ね」
「どうしました?聖女の神様」
「いや……。神の欠片を見ても使わない子がいてね」
「は!? あれを見ても使わないって!?」
「落ち着いて大地の神様」
「これが落ち着いてられますか!?」
大地の神は声を荒げる。
「……あの子、今日から私のお気に入りね。私のスキルを授けたいけど……あの子はそれを望んでいない」
「じゃあどうするんですか?」
「あの子が……聖女になりやすいよう、土台を作るわ」
「……協力します」
「そうこなくっちゃ」
聖女の神と大地の神は、熱い握手を交わした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
……天上界でそんなことが起きているなんてまったく知らないロゼは、その頃解呪の練習をしていた。
「ああもう! なんで解呪の対象が粉々に壊れるのよ!」
呪いを解こうとして対象に触れただけなのに、ロゼの指先が強すぎて呪いごとアイテムそのものをミンチにしてしまうのだ。
もうかれこれ2時間以上ロゼはこうしているが、成功したのはまさかの0回。
もうこれは才能という問題を通り越して力の問題ということになってしまう。
ガサッ
「何!? ……て、風、だよね? だってなにもいないし」
しばらく首を傾げていたが、そのうち「ま、風だよね!」とひとりでに納得して、ロゼは解呪の練習に戻った。
「……バレてないようですね、聖女の神様」
「ええ。まったく、ロゼは上級魔物がうようよいる森で解呪の練習をするとか……私達がいなければ練習どころではなかったわよ。大地の神様」
……聖女の神のお気に入りになった聖女を目指す少し危なっかしい怪力少女は、神に見守られながら今も努力を重ねていることでしょう。
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