第三話 選ばれた道
アルフェン公爵家に連れてこられてから、体調は明らかに良くなっていた。
鏡を見ると、頬が少しふっくらしている。
顔色も悪くない。
以前は比べる余地もなかったが、随分と体を酷使してきたのだと思う。
気がつけば、すっかり健康的になっていた。
「ねぇ、リオはこれからどうしたい?」
その変化を見計らったように、アウレリアが問う。
このまま居候を続けるつもりはなかったが、どうしたいかを聞かれるとは思っていなかった。
「……働きます」
魔力無の働き口は限られている。
どこかで下働きができれば、良い方だ。
「あの、ここで雇ってもらう事はできませんか?」
「この屋敷で?出来なくはないと思うけど……」
「どんな仕事でもします」
アウレリア以外のアルフェン家の人間とは、ほとんど会ったことがない。
レオニス・アルフェンは18歳になったばかりだが、すでに公爵位を継いでいるらしい。
まだ若いが落ち着いていて、その名も遠い存在のように感じられた。
厳格そうで、アウレリアとは正反対の印象を受けた。
ルーカス・アルフェンはリオと同年代くらいだろうか。
何度か部屋を覗きに来たことがあるが、どこか敵視されているような気がする。
煙たがられているとしても、この屋敷で働けるなら構わなかった。
下男でも、何でもいい。
そう思っていたのに。
「どんな仕事でも良いなら、私の弟子にならない?」
思考が止まる。
まるで軽く誘うような口調だった。
何を言われたのか、一瞬理解できなかった。
だが、最初に出会った時の光景がよぎる。
あの剣。
迷いなく振るわれた一太刀。
あれを見てしまえば、疑う余地はなかった。
「……弟子、ですか?」
「ええ。剣士になるの」
やはり、そういうことだった。
「お嬢様は知らないかもしれませんが……俺は魔力無です」
「そんな事は気づいていたわ」
あっさりと言われて、言葉に詰まる。
「魔力はないけど、どんな魔力にも耐性があるでしょう?」
「え?」
「気づいていなかったの?つまり、生まれつき魔術師泣かせなのよ。リオは」
自分のことなのに、何も知らなかった。
驚きが、そのまま表情に出る。
「そのかわり治癒魔法も効かないから、諸刃の剣だけどね。でも——」
アウレリアは胸を張った。
「怪我をしないくらい強くなれば良いし、もし怪我をしても私が居れば大丈夫」
その言葉は、まっすぐ胸に落ちた。
ここにいてもいいのだと、言われた気がした。
「アルフェン家には稀だけど純度の高い、星の力を宿した者が生まれる。だから、リオの傷も治せたでしょう?」
狼に噛まれた腕に触れる。
あの時の温もりを思い出す。
「リオは剣で一番強くなればいい。そうすれば、誰にも負けないわ」
迷いのない声だった。
「だから、弟子にならない?」
もう一度、繰り返される。
今度は、迷うことはなかった。
「……はい。よろしくお願いします」
大きく頷き、深く頭を下げる。
その時初めて、自分の進む道が決まった気がした。




