表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十年の眠りの間に、私の弟子は最強になっていた  作者: あさび
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/44

第十五話 森に還る光

魔力の霧が濃くなってきた。


やはり、いつもの森とは違う。


バサバサバサッ。


無数の光る鳥が、けたたましい鳴き声を上げて飛び去っていく。


「星霊鳥まで……いったい何が起きているの」


森そのものに異変が起き、幻獣達も影響を受けているようだった。


その時、青白い霧が足元に流れ始める。


「この霧は……」


「星霧だな」


後ろから落ち着いた声がした。


振り返ると、エリアス・ヴァレンティスが相変わらず涼しい顔で立っている。


「先生は引き返してください。危険ですよ」


「無理だな。この霧は視界を歪ませるだけではない。方向感覚も狂わせる」


エリアスは霧の奥を見つめた。


「もっとも……君は迷っていないようだがな」


アウレリアはわずかに眉を寄せる。


「そんなことありません。ただ前に進んでいるだけです」


エリアスは小さく肩をすくめた。


「そうか。だがこの霧の中で迷わず進めるのは、たいしたものだ」


そして霧の奥へ視線を戻す。


「それに、この分だと出てくるぞ。アレが」


アウレリアも同じ予感を抱いていた。


その瞬間、地面が震えた。


空気が揺れ、肌に突き刺さるような魔力が広がる。


遠くで、何かがぶつかる音がした。


「魔力の衝撃波です」


「やはりな」


エリアスは興味深そうに霧の奥を見た。


「もしアレを見ることができたなら、学者としては冥利に尽きる」


「滅多なことを言わないでください」


アウレリアは霧の奥を見つめた。


その魔力の中に、知っている気配がある。


――リオ。


その時ふと気づいた。


森に入ってから、体が軽い。


長く鈍っていた感覚が、わずかに戻っている。


最盛期には遠く及ばない。


それでも、動ける。


この森の魔力が、わずかに身体に馴染んでいる気がした。


腰の剣――ステラ・ノクティスも、微かに魔力を帯びていた。


再び魔力の衝撃が森を揺らす。


説明している時間はない。


アウレリアは霧の奥へ駆け出した。


木々の間を抜けると、突然視界が開けた。


森を抜けた瞬間、視界が開けた。


地面には血が落ちている。


その中央で、リオが膝をついていた。


星紋鹿の前に、ただ一人で立ち続けていたのだ。


肩口から血を流している。


それでも剣は離していなかった。


そしてその前に――


白銀の巨体が立っていた。


「星紋鹿……」


星護の森の神獣。


本来ならば静かな光を纏う幻獣のはずだ。


だが今は、星の紋が赤く輝き、瞳も濁っている。


暴走した魔力が周囲の空気を震わせていた。


アウレリアは一瞬だけリオを見る。


仲間を庇ったのだろう。


仲間は、唯一無二のかけがえのないもの。


信頼には信頼を返すこと。


どんな事をしても護ること。


それは、アウレリアが教えたことだ。


リオはそれを守っていた。


アウレリアは視線を前へ戻す。


「貴方」


近くにいた眼鏡の青年――ディオンへ声をかける。


「回復魔法を使える兵士もいるでしょう。早く、手遅れになるわよ」


ディオンは一瞬だけアウレリアを見た。


すぐに表情を引き締める。


「聞いたな。負傷者を後退させろ」


兵士達が一斉に動き出した。


負傷者を抱え、森の外へ運び出していく。


「ヴァルノクス隊長も運びますか」


兵士の一人が問う。


ディオンは首を横に振った。


「……不要だ。ヴァルノクス隊長には治癒魔法が効かない」


兵士は一瞬驚いたように目を見開いたが、


すぐに頷き、負傷者を運び始めた。


その間にも、星紋鹿の魔力は膨れ上がっていた。


星紋鹿が蹄で地面を踏み鳴らす。


次の瞬間、巨体が弾けるように突進した。


角が振り下ろされる。


触れれば魔力が爆ぜる一撃だ。


アウレリアは軌道を見切り、懐へ踏み込む。


ステラ・ノクティスを抜いた。


この剣はただ斬るための剣ではない。


暴走した魔力を断ち、その流れを正す力を持つ剣だ。


角の生え際へ刃を突き立てる。


星紋鹿が激しく身を震わせた。


荒れ狂う魔力が溢れ出す。


眩い光が辺りを包み込んだ。


暴れていた魔力が、少しずつ静まっていく。


やがて光が収まった。


アウレリアはゆっくりと剣を引き抜く。


そこに立っていたのは――


本来の姿を取り戻した幻獣だった。


濁っていた瞳は澄み、


星の紋も静かな輝きを取り戻している。


星紋鹿は静かに首を巡らせた。


その視線が、膝をついたままのリオに向けられる。


まるで、何かを確かめるように。


血の落ちた地面の上で、


それでもリオは剣を離していなかった。


しばらくの間、幻獣は動かなかった。


やがて、再びアウレリアを見る。


そして静かに背を向けた。


白銀の体は霧の奥へ歩いていく。


一歩、また一歩と森の奥へ進み、


その姿は次第に霧へ溶けていった。


最後に、星の紋が淡く瞬く。


それは、森へ還る光のようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ