7:手ほどき
そして翌日の朝食後、母さんが代わりに売りに行ってくれる事になり俺がお留守番でお店の売り子をする事に。
ここでようやくお金に関する知識を教えてもらう事になった。
下から鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、白金板だ。
だが、鉄貨は硬貨を潰して鋳造する者が現れ廃れた今、使用しない様だ。
銅貨一枚が十リル、銀貨が百リル、金貨が千リル、白金貨が十万リル、白金板が百万リルだ、白金板は見せてもらえなかったが。
鉄の短槍が銀貨三枚だった事から三万円程度と解釈して良さそうだ。武器は、という但し書きが付くが。
そして実際の販売は魔物ハンターたちが小物類を求めて押し寄せて来た。ダントツに売れるのが各種回復用の飲み薬であるポーション、次点で照明用ランタンの燃料と松明だ。
羊皮紙に縦に線を引き、個別名称、単価、個数、合計金額、トータル金額の列を作り書き込んで行く。
トータル金額を書くのは、最後に纏めて合計する手間を省く為だ。
計算したければ計算しても良い、間違い防止の確認になるからだ。
その間リーズはお客様のお相手だ。要望に適う品を紹介して販売するのは妹のお仕事、俺は計算が間違っていないか確認と経理担当ってね。
そしていくばくかの時間が過ぎて母さんが帰宅した。
「ただいま、初めてのお店の売り子だったけど大丈夫だった?」
薬草販売へ行ったとはいえ、かなり大胆な行動だ。朝が一番混むとわかっているのに任せたのだから。きっと俺の知識全般の確認をする為にわざとこの時間に行ったのだろうと予測している。
「大丈夫だよ、リーズがお客様担当でお兄ちゃんが計算担当だったの」
「あら、計算までしてくれたのね。それじゃ見せてもらえるかしら」
羊皮紙を三枚渡した。それだけ朝に集中していたのだ。
「あらあら、名称と個数のみで良かったのに合計金額も書いてくれたのね、それにしても見やすいのね。この計算方法に変えようかしら」
「後の事を考えるとそれだけじゃ足りなんだよね」
「もっと詳しく聞きたいわね」
「いや、今の会計の方法が分からないから何とも言えないよ、その計算以外にも別に用意する必要があるって話だよ」
「会計? どんな意味かしら?」
あら、こっちじゃそう呼ばないのか。
「計算担当者の仕事の名前だよ」
ここまで言っといてなんだけど、こっちに俺の知識を流し込んで良いのかね。まぁ、学生の身だったから正確な処方までは知らないんだけどね。
俺の言う事を実践するなら計算ミスが直ぐに分かって訂正も可能なのだが。
「なるほどなるほど、熱が下がってからのテリスト君は本当に記憶と引き換えに色々な知識を得た様ね。それで、0ベースで見直すから教えてと言ったら可能かしら」
「可能だけどたぶん面倒だよ。その代り計算ミスを発見しやすいから、えーと、報告? する際は胸を張って行けるね」
「計算ミスが減るのは良いわね、早速お願い」
「今は朝だけど一日の販売が終ったと仮定するよ。
そしたら最後に商品の種類枚に抜き出して再計算するんだよ。そして最終的に全部の商品の合計金額を足せば、トータル一日の合計金額になるって訳ね。
今は羊皮紙三枚分のトータル金額を書いてるけど一日が終れば最終的な金額が出るよね、その金額と再計算した金額が合致すれば間違いが無いって寸法だよ」
「確かに手間だけど二重にチェック出来るわね、売れた個数も把握しやすく一月単位の総まとめする際もかなり簡単になるわね。
毎日の作業が増える分、月単位の面倒事が大幅に緩和か、テリスト君、それ、採用決定よ!」
「決定は良いけど母さん、今までどうしてたの?」
「簡単よ。毎月末日を過ぎてから商品枚に抜き出して一月ごと再計算していたの、こうしないと商品毎の純利益が分からないのよ。
テリスト君の案は毎日の計算に負担を分散させて最終的な計算を劇的に短縮可能って事ね」
それは無茶だな、途中で一ヶ所でも間違っていた場合、全部を確認とかあり得ないほど時間が掛かる。
それなら今言った方法を実践する方が楽だな。
最終的に三十日分を足せば終わるから簡単だし。
「今から言う事はリスクはあるけどもっと簡単になる方法ね。
最初から商品毎に羊皮紙を準備しておくの、売れたら種類毎に書き込んで行くだけ。後はお店を閉めた後に全部合計すれば終わり。
ただ、二重のチェックは無理」
商品の種類が多い雑貨店だとかなりの枚数を準備する必要があるし。あの商品を計算していた紙は何処だ、とか探すのがめんどそうだけどね。
「確かにそれなら計算に追われないわね‥‥‥明後日には父さん達が帰って来るから相談してみる」
「お兄ちゃんも凄い事考えるね、リーズも見習わなくちゃ!」
すまんねぇ、これ、前の知識なんで、0から考えるのは至難の業だと思うよ。
「そうそう、薬草の販売代金。アンブローシアは高いらしくて金貨二枚、後は色を付けて銅貨二枚。
合計金貨二枚と銀貨七枚ね」
唯一一本取れたのがそれほど高価だったのか、いやぁラッキーだったな。
「おー、すごい金額。安全重視で盾と剣も買おうかな。それと防具も」
「それならライアさん宅から少し進んで、道の反対側の防具屋さんが良いわね」
ありがとう母さんと伝えて、水筒と皿を購入して出かける。勿論水入りで。
そして昨日に続き武器屋さんに入る。
「お早うございます、盾と武器を売って下さい」
カウンターにいたおっちゃんが対応してくれた。
「お? なんだ、昨日に続き今日も買うのか? 槍はどうした?」
「槍は持ってます。それでちょっと厄介な敵がいたので防御面重視の装備に一度切り替えたいのです」
「ふむ。盾に武器を合わせるか、武器に盾を合わせるか、どちらが良い?」
「では盾を先に、円形盾で小さめ、相手をぶん殴れるのを」
「それなら木材中心、補強に鉄、断熱に皮を使ったラウンドシールドか、オール鉄製で断熱に皮を使ったホプロン辺りが最適か。ただ、ホプロンは重いぞ。
もう少しサイズを大きくしたらソードシールドやスパイクシールドといった反撃用の盾もあるんだがな」
重くて重心崩しやすくなるのは悪手だな、それなら軽いのを選択するのが一番良い。
「うーん、九歳で大きな盾は邪魔だし、重いと不利だからラウンドシールドですかね」
「それならこっちだ」
案内された先で手に装着してみる。腕を輪に通してグリップを握る。そして叩きつけるように振ってみる。
レベルが上がり力が上がったからか、転移初の戦闘時よりはるかに動かせた、これで問題無い。
「これは良いですね、重さもさほどではありませんし、動きも阻害しなくて丁度良いです」
「お、おう、それは良かったな。次は武器か、どんなのが良い?」
「刺突剣ありますか? 構えて盾から出ない程度の長さで」
「スティレットでは短すぎるか、エストックを短く少し加工しなきゃならんかもな。とりあえずこっちだ」
案内された先の一番短いのを持ち、構えてみるがどうしても四十cmほど飛び出してしまう。
盾で魔物を押さえつけている際に止めを刺そうとすれば胴体なら攻撃できるが頭を狙えない場合がある為出ない方が良い。
加工代金込みの値段次第では頼むのも有りだな。
「四十五cm短く加工してもらうとして、盾込みの値段はおいくらですか?」
「盾が銀貨二枚、こっちは加工代金込みで銀貨三枚で良いだろ。しかし勿体なくはあるな、スティレットがもう十cm長ければジャストフィットだったんだが」
代金先払いってやつだ、お金を支払って頼んだ。
「ふむ、少し手ほどきしようか。なに、不要な所から切断するだけだ、してみるか?」
「え、良いの? してみたい!」
「それじゃここを親指と人差し指でつまめ、鍛冶スキルオンと唱えてつまんで潰して直線で引っ張れ、決して横にぶれるなよ。切断が終ったら鍛冶スキルオフだ。
時間勝負だからな、慌てるのは良く無いが、発動中はMPを消費する。それじゃ始めろ」
刃先を左手で支えて右手で切断する。発動させて金属に指がめり込み何とも不思議な感じだ。
指どうしくっつく迄握って体全体で引っ張って千切り発動停止させる。
「それでいい、それじゃこの後は俺の出番だな」
刃先を下に向けぶら下げる感じで剣先を整える、そして店舗から奥に行き戻ってくると完成していた。
「刃先は持って行け、値段の一部だからな。それと鞘は明日朝までに準備しておく、今日は収納にでも入れといてくれ、あるんだろ?」
「はい、大丈夫です。ではまた明日に」
そうして武器屋を後にした。
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テリスト
レベル:13
年齢:9歳
種族:猫人族
状態:衰弱
HP:183/183
MP:77/79
装備品:鉄製エストック(刃渡り40cm)、ラージシールド(小円形盾、直径30cm)
資金:3290リル
予備武器:鉄の短槍(150cm)




