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つかの間の休日





 朝。

 普段なら眠っている夜明け前の漁村。

 砂浜が広がる海岸線、石垣が連なる屋敷の庭。


 海岸にある庭園の中に、異質な剣戟の音が重なる。


「――はあ、はあっ……!」


 切れそうな息を無視し、さらに一歩踏み込む。

 透き通る黒い刀。『亡星(よる)』が、弧月を描いて跳ねる。最大の魔力を食わせた一刀を載せる。

 

 しかし、相対する巨躯の怪物は桁違いの膂力でこちらを追い詰めてくる。


 巨躯、イルクが加速する。

 木刀を縦横無尽に振り回す。

 豪風を纏った打撃。雲霞のごとき八連撃。


「ぐ、ぬぬ……っ」

 

 右、左、正面、後方、袈裟。

 迫る全方位からの乱撃をいなす。

 肩の力を抜き、刃を這わせるように威力を反らし続ける。

 

 一発が大砲のような威力を秘めている。受け流そうにも威力が高すぎる。

 木刀そのものが《統巡》の塊。衝撃一発で僕の魔力を正面から削り取ってくる。


 ――このままじゃ削り負ける。一旦距離を取る!

 0.5秒以下の思考。重心を後方へ傾ける。


 イルクの剛撃が僕を打ち据え、衝撃が全身を撃ち抜く。


「……くぅッ」


 たまらず後方上空へ跳躍。

 

 高さ2m。石垣やイルクを見下ろし、思考を整理。

 宙で一転。魔力を空中に躍らせ、巨大な魔法陣を構築。

 距離をとって息つく時間を稼ぐ!


「<紅蓮砲殲火(ヴァ・レグロム)>!」


 ――魔力量、残り6割。


 ダメ押しで名前を詠唱し、威力を微増させる。

 数発。爆炎の砲弾が尾を引いて、イルクの元へ殺到する。


「――《蒼閃》」


 蒼い稲光が爆炎を切り裂いた。

 一瞬。煤で汚れることすらない。


 イルクの足に爆発的な力が宿る。

 弾かれた弾丸のような勢いでイルクが空中へ迫る。


「どうなってんのホント!」


 身体をひねり、イルクの飛ぶ斬撃をはじき返す。

 瞬間、能面のイルクが目の前で木刀を振りかぶっていた。


 防御、と考える間もなく閃光が僕の肩を打ち据えた。


 強烈な砂埃を巻き起こし、僕は地面へ叩き落された。


「く、う……っ」


 ――耐性獲得。【打撃】。

 源流能力、【星輝戴星】が発動し、打撃の耐性を体に宿した。

 

 と、咄嗟の魔力強化が間に合ったか……?

 ギリギリ死んでいない。だが、右肩が粉砕しているせいで、感覚がかけらもない。

 痛ったいなぁ……。痛すぎて、口の中が苦く、渇いてしょうがない。これじゃまともに戦闘にならない。


「……っ」


 上空から追撃。

 一撃を転んで回避。膨れ上がる衝撃波が僕を弾き飛ばす。

 身体が吹き飛び、石垣に背中から衝突する。


「か、は……ぁっ」


 息が、吐き出される。

 肺に衝撃が走り、内臓にも振動が走った。

 意識が明滅し、呼吸が腹で止まる。


「い、<回帰原理(イニラ・イム)>……!」


 少なくなった魔力を変質させ、回復魔法を描く。

 傷が瞬時に癒える。夜のように黒い刀、その切っ先をイルクの喉元へ向ける。

 正眼の構え。


 ――魔力量、残り3割。

 いや、もうそんなにない。まずい、始まって一分経ってないんだぞ。《統巡》で魔力を回復しようにも、イルクが《統巡》張り巡らせている。

 練度が違いすぎる。魔力を絡め取れない。無理やり回復してたら隙を狩られる。

 回復する隙がない。

 

「なんだ、思ったより保つね。

 なら、こっからは武器使うよ」


 イルクの周囲に黄金の円盤が浮かんだ。

 取り出したるは二つの迷宮特典。


 黄金の稲妻を纏った巨斧。

 ――黄金級迷宮特典【雷塵滅斧】。

 刃が煙となった白鞘の太刀。

 ――黄金級迷宮特典【燻り枯刀】。


 異なる武器種、二刀流。

 それぞれが凄まじい勢いでイルクの身体から気魄を吸い上げていく。


 イルクが巨斧を軽々と振る――、ッ!


 跳躍。閃光。雷鳴。

 さっきまで僕がいた場所は黄金の雷撃に襲われていた。

 食らった瞬間に消し炭になる。あれは回避に徹さないと。


 二度、三度とイルクが斧を振るう。

 それだけで雷鳴が降り注ぎ、砂浜に巨大な穴が開く。


「ははっ」


 喉奥から笑いが漏れでる。

 砂浜を踏み、稲妻を紙一重で回避しながらイルクへ迫る。



 白鞘の煙が振りかぶられる――。

 どう見ても煙型の刃であるそれを《統巡》による力場操作を使ってどかす。

 重心を傾ける。一気にイルクの懐に飛び込んだ。


 ――瞬間。


「【(ドスト)】。《恩赦(アンチェイン)》」


 イルクの腕に巻き付いた鎖が蠕動する。

 

「《肉体解放(オリジン)》・3%」


 イルクが軽く、腕を振る。

 ただそれだけの動作で、後方へ吹き飛ばされた。


 僕はたたらを踏んで堪え、少しでも接敵距離が短くなるように調整する。

 先読みで雷撃を回避してるが、あれは紙一重のもの。

 何度も連続でできるものじゃない。

 

 イルクの膂力が、2倍以上に跳ね上がった。

 脈拍も、わずかな手癖の速度も同程度。

 

 ……はは。まじかよ。


 イルクの表情は変わらない。

 普段のへらへらと笑う表情ではない。戦闘時の、感情がうかがえない無表情。


 だが。


「――《流月》」


 意識を集中させる。

 戦場の昂ぶりを水に溶かす。心象の底、果て無きよると暗き湖を喚起する。


 世界から、音が消えた。

 

 霊魂から、気魄があふれだした。

 全身に気魄を流す。

 気魄で体を強化し、更に肉体の魔力の吸収率を上げる。


 砲撃特化から、白兵戦特化へ。


 ――残存魔力、1割。


「いくよォ……!」


 瞬時に加速。

 全身へ魔力を全開にたれ流す。振るわれた雷撃を読んで躱し、煙の剣身へ左手を挟み込む。


 鮮血。切り裂かれた腕を振るい、血をイルクの目に飛ばす。

 身をよじってイルクが血を躱す。瞬時に体へ魔力を流し込み、袈裟切りを見舞う。


 僅かに、イルクの肌を切り裂いた。

 返り血が僕の顔へわずかに触れる。


 血、痛み、香り、血、血、血――!


 ああ、ああ。

 楽しい。血がたぎる。

 頬が吊り上がっていくのを感じる。衝動。闘争本能。

 そうとしか言えない激情が表情を変える。思考がだんだんと溶けていく。


 《蒼眼》の俯瞰視点。

 そこに映る、悪鬼の表情。


「マジか」


 平坦な声。

 重なる金属音。足の甲でイルクは『亡星(よる)』を受け止め、思い切り踏みつけてくる。


 瞬時に、【打撃】の耐性を捨てる。

 

 身体をよじる。刃をひねって踏みつけから逃れる。同時に、雷鳴の豪斧が僕の身体を両断せんと迫り、躱し。切りつける。


 雷撃がぼくの身体を打ち据える。

 

 通電、感電、死――。

 ――耐性獲得【雷撃】。


 互いに剣を振る速度は加速する一方。

 防御なんて考えない。肩、頬、額などの10か所に切り傷。


 しかし。


「楽しくなってきたァ!」


 僕だって3回はイルクに一撃を入れている!

 

 身体の感覚が盛り上がる。

 すでに僕の身体は血まみれ。溶けあうような仕合の中に身を任せながら刀を振る――。


「あ、れ――?」


 身体から力が抜けた。

 まずい、魔力切れ! やばい、やばい体に力が……。


 その時には黄金の雷斧は振りかぶられ。

 須臾の間もなく。


 雷鳴の斧刃が、僕の身体を両断した。




 ※※※

 


 


「むう……」


 目が覚めたら、僕は布団で寝かされていた。

 自分のいつも使っている布団よりも一回り大きい。部屋を視まわしてみると、長身の男性向けの靴下が箱に纏められている。

 部屋の四隅には宝玉が配置されていた。


 術式効果を《蒼眼》で視るに、おそらく盗聴対策。

 

 間違いない。イルクの部屋だ。

 

「怪我は……残ってないな」

 

 服をめくり、心臓のあたりを見る。

 雷の斧で両断されたはずの僕の胸のあたりには傷一つ残っていなかった。

 

「夢……だったのかな」


 朝の気持ちのいい香りと、潮の香が鼻先をくすぐる。

 

 自分で言っていてあれだが、夢ではない気がする。

 

 あの狂熱は、あの痛みは夢にしては生々しすぎる。

 でもイルクが僕を放置してどっか行くってことも考えづらいし……。

 そう思い、《蒼眼》で周囲を視回してみると、枕元に封蝋の施された手紙が置かれていた。


「翼ある蛇の文様だ」


 おそらく、イルクのアイネイアス家の家紋だろう。

 魔力強化を施した指先で蝋を切り、手紙を開封する。


 なになに……。


『親愛なるエディンへ

 おはよう。よく眠れたかな? 怪我が完治しているのは確認済みだけど、イルクは心配です。手加減を損ねた俺も悪いけど、そもそもエディンは――(中略)

 さて、本題に移ります。エディンの戦闘能力自体、光るものはありますが、全体的に戦闘の組み立てが雑です。

 何がダメだったかは俺からは言いません。ただ、もしもエディンの成長が見受けられないのならば、エディンは国外から避難させます。然るべき人の所に預けます。俺はリモルと異常事態の探索に向かいます。二日ほど留守にします。

 愛をこめて、イルク』


 …………ほむ。


「もしや僕、迷宮都市国家から追い出されるピンチだったりする?」


 た、たった二日で現状改善って……。ほぼ達成不可能ですやん。


 燦燦と朝日が海辺を照らし、ウミネコの鳴き声が響く中。

 僕の乾いた笑いが部屋に浮かんでいた。






 ※※※




 囲炉裏に置かれていた食事を取り終えた。

 今日はサバの塩焼きだった。ほかのみんなはすでに食事を取り終えていたようで、用意されていたのは僕の分だけ。


 リリアたちは部屋で何やらお話をしている。

 そちらへ向かうのもありだ。途中で誰かとすれ違ったらその人と時間を潰しながら考えよう。

 そう思うや否や、食器をイルク持参の魔導食洗器へ放り込み、僕たちの部屋へ向かう。


 「うーむ……」

 

 顎に手を当てながら考え込む。

 足りないもの……。イルクと比較して足りないもの、かあ。

 多すぎてわからないや。これだけで判断するのは少し無謀かもしれないな。僕がイルクに勝ってる点なんて、1()()()()()()()()()


 まあいい。

 それ以外で足りてないものを列挙して、一番問題そうなものを考えてみよう。


 まず、状況判断能力。いや、こちらはイルク相手に何回か傷をつけられている時点で、ある程度担保できていると思っていい。

 じゃあ、瞬発力……? こっちもなあ……。イルクの矢継ぎ早の一手を予測対応できてた。


 僕よりはるかに速度の速い、つまりは手数をそれだけ押し付けられるイルクを相手に防戦を展開できた理由は一つ。

 イルクが取りそうな次の手を予測して対応していたからに過ぎない。


 なら、やっぱり持久力だな。

 特に魔力量。これが足りてない。補うにしろ何にしろ、途中で魔力が尽きなければもっといい勝負ができていたはず。

 《統巡》でなー。回復できたらいいんだけどなー。でもあれ、自然魔力を取り込むからなー。


 いちいち自分の魔力特性を変質させなきゃだし、隙がすごく大きい。

 やっぱ、自分の総魔力量を増やすか、ワンモーションで魔力を回復できる手段がないと厳しいよな。


 でも、魔力量ってそんな一気に増えるものじゃない――。


「あだっ」

「いてっ」


 なんて考え事をしながら歩いていたら、前からこちらに向かってきていたモノクルをつけた少年とぶつかった。


()てて……。だいじょうぶ? モーリス君」


 僕の友達、石上モーリス君だ。


「大丈夫。ごめん、エディン君」

「んや、僕はだいじょーぶ。どうしたの、珍しいね。そんなに急いでるなんてさ。今日はお休みでしょう?」


 モーリス君はせわしなく何かしらの仕事をしているイメージはある。だけど、流石に小走りにならなきゃいけないほど急な仕事の対応をしている印象はない。


「いやあ。競売地のお手伝いに行こうと思ってね。依頼した側だから放置しっぱなしってのもよくないかなって」

「いいねえ。僕も行きたいなあ」

「え、来てくれるの!?」


 モーリス君の目が輝く。

 え、マジで? 部外者なのに参加していいの?


「もちろん! なんでも頼って!」


 でもやっていいならやらせてもらおう。

 僕はそう笑って、モーリス君の手を取った。




 ※※※





 漁村の広場。

 本来ならば船を修理したり、集会に使われているらしい。

 その場は今――。


「そお、い――ッッッ!!」


 大規模な工事現場になっていた。

 

 僕も今は半裸だ。

 東塔時代にできた古傷や、目立っていなかった筋肉。

 汗を噴き出しながら、綱を引っ張る。


「いいぞお、その調子で引っ張れ!」


 職人の親方の号令がかかる。


「「「「応!!」」」」 


 その声に応じて、綱を複数人でさらに力強く引っ張る。

 親方の後ろにはモーリス君もいる。後ろで図面をひっくり返しながら工事の状況を確認している。


 周囲には天幕や、飲み食いできる立食のための台などが並び始めていた。

 今回の黄金の競売は参加費がかかる。さらにリーリエさんが配布しているチケットがないと参加できないため、参加できる人に限りがある。


「踏ん張れ――ッ! この支柱を立てたら今日の仕事は終わりだ!」

「応!!」


 だが、それでも百人以上訪れる。

 となると、その工事も大がかりのものとなる。渾身の力を振り絞って、綱を引っ張る。


 魔力はすっからかん。だから魔力強化もなしだが、なんとか大人と肩を並べて仕事ができている。


「よし、支柱の配置終わり! 今日は昼めし食ったら給金受け取ってあがっていいぞ!」

「「「ありがとうございました!!」」」




 ※※※





 煌々と日が照る昼間。

 朝方ほとんど使いつくした魔力も、今は半分ほどまで回復していた。


「いただきます」


 目の前にはたくさんの塩むすびが置かれていた。

 競い合うようにおにぎりを手に取り、みんなで思い思いに口に運ぶ。


「く~! うまい!」

 

 塩加減が絶妙。一緒についてきた漬物も最高だ。

 肉体労働した後の食事ってやっぱ効くな~。


「よう! エディン坊! さっきはいい仕事ぶりだったな!」

「すげえぜ、その年で俺たちの足手まといにならねえなんてよ。どうだい、うちに弟子入りしてみねえか?」

「明日も来てくれるんだろ? ありがてえや、お前さんがいるだけで納期への安心感がちげえ」

「明日だけと言わず、明後日からもずっと来いよ!」

 

「えへへ、そんなに褒められたら照れちゃいますな~。でも、ごめんなさい。僕、本業は冒険者なんです」


 おじさんたちに囲まれて、もみくちゃにされる。

 すごい褒めてくれてうれしい。あんまり褒められる経験がなかったから、少し有頂天になっている自覚はある。


 だけど、本業はおろそかにしちゃけない。


「そうかあ、残念だな。冒険者が嫌になったらいつでも言えよ!

「俺らは明日の資材受け入れの準備があるから、また明日な!」


 おじさんたちはそう言うと、村のはずれに移動していった。


 ……む? そういえば、村の端に何か奇妙な銅像がある。

 男の人の銅像だ。槍を持っていて、強そうな雰囲気がある。

 何より目を引いたのは、あの像がまったく錆びていない。


 妙な神秘を纏っているのが視えるけど、あれはいったい――。


「ほんと、エディンくんはどこでも人気者だね」


 なんて観察していると、打ち合わせを終えたモーリス君が戻ってきた。

 モーリス君はもみくちゃにされ、ようやくご飯を食べられるようになった僕に近づいてきて笑った。


「意外と職人の適性もあるのかも」

「むしろ僕に言わせれば、エディン君ができない仕事の方が思い浮かばないけどね」


 またまた~。お世辞を言ったってこのおにぎりは半分しかあげないよ?

 ニマニマと照れていると、モーリス君が隣に来た。

 「よいしょ」と小さな声を出し、右隣に腰かけた。


「ふう~……」


 空を見上げながら思わずため息が出る。

 はてさて、現場仕事をしたはいけど、魔力の問題どうしようかなあ。空を浮かぶ臼のような雲を眺めながら、考えを巡らせる。


「悩み事?」

「うん。魔力を増やす方法について、悩んでいてね。実は――」


 隣でおにぎりを頬張ったモーリス君に詳細を話す。

 目下。戦闘で、魔力の総量が足りないこと。それを増やす方法で悩んでいることを簡潔に話した。


「何か知らない?」

「僕より、イルクさんとかのほうが詳しそうだけど……。イルクさんには聞かなくていいの?」


 モーリス君が気になったように聞いてくる。


「イルクにだけは、聞けないよ。僕からイルクにそれを聞くのは嫌味にしかならないし。後生だよ、教えてくれないか。モーリス君」

「うーん。僕が知ってるのはふたつだけかな」


 モーリス君はおにぎりを頬張りながら答える。


「まず、魔力を大量に使うこと。僕もリーリエ師匠のもとでゲロ吐くまで魔力使ってたら、少しずつ増えていったんだ。あれだよあれ、筋肉みたいなもの」

「あー、使い込まないと増えないって感じか」

「そういう感じだね」


 なるほどなあ。

 よくよく考えれば、東塔にいたころは魔力を限界ギリギリまで使ったこと自体なかったな。なにせ、魔力は僕の生命線。それを限界を超えないように切り詰め、効率化して過ごしてたから。


 そういう経験はほとんどしていない。


「でも、たぶん一朝一夕じゃそんなに伸びないよねえ」


 もうひとつのおにぎりを頬張りながら聞き続ける。


「そりゃね。限界ギリギリまで毎日追い詰めて、一か月で少し伸びたかなあと思えるくらいしか変わらないよ」

「やっぱりそうだよねえ」


 となると、二日で増やすのは無理臭いな。

 うおおお、このままじゃ国外退去か……?


「もう一つが、陰陽道だね」


 そんなことを考えていると、モーリス君が指を立てて説明してくれる。


「陰陽道で使う符ってあるでしょ? そこに事前に魔力を籠めておくんだよ。式神術や降霊術は魔力を特に使うからね。僕も何枚か作ってるんだ」


 モーリス君はそう言うと、指先に挟んだ3枚の形代を見せてくれる。

 そこには彼の魔力が大量に込められた符があった。その形代には、髪の毛が編み込まれている。

 ああ、なるほど。自分の体の一部を錬金術で人型の形代に練りこむことで、もう一つの自分を作ってるのか。


 そこに魔力を貯蔵してるって感じ。へー、面白。

 

 ……そういや、あの銅像に刻まれていた神秘。どこかで視たことあるなと思ったら、式神術に似てるんだ。


「ねえ、モーリス君。あの銅像って式神?」


 なので、思い切って聞いてみることにした。


「いや、あれは式神じゃなく、守り神さまだよ」


 モーリス君がお新香を口に運びながら語る。


「あれは、有事の際に立派な英雄様を償還するために必要なものなんだ」

「へー。英雄の召喚かあ。面白いね」

「うん、ただ条件が複雑でね。立派な供養がされた人物であること。故人であること。それなりの強さの器を持っていること。これらが条件になってくるかなあ。

 しかも、召喚できるのは本人の影法師だけ。時間制限付きで、魔力消費も重い陰陽道の極致だよ」


 なるほど。

 そういう感じか。立派な供養をすることで霊的に聖別して、精霊みたいにしたのを召喚するってもの。なんとなくわかる。


「陰陽道、奥が深いなあ」

「奥が深すぎてげろ吐きそうだよ、僕は」


 モーリス君がまたも食事中にそぐわない発言をする。

 好きねえ、ゲロ。強烈な毒食ったときにしかそんなことになったことないから、いい思い出がないや。


 なんて思っていたら、広間の向こうで僕へ向かって手を振る人物の姿が見えた。


 あれは……ドールさんと、ログマ!?


「ごめん、モーリス君。ちょっと急用ができたから、行ってくる!」


 急いでおにぎりを頬張り、僕は二人の元へ走り出した。

 

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