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レムナント・クロニクル  作者: どーれた
プロローグ
1/10

第0話 この「世界」

 これは、遥か昔の話。

まだ人が、星々の広さを知らなかった時代。

まだ宇宙が、神話ではなく未来と呼ばれていた時代。


この宇宙には、神がいた。


 西暦2417年。人類は幾星霜の月日を重ね、やがて惑星間航行を現実のものとした。

それからわずか50年。情報網は瞬く間に宇宙へと延び、人類は地球という揺り籠を離れ、新たなる時代へと歩み出していた。


やがて人類は、異星種族との邂逅を果たす。

彼らは自らの星を「カリーナ」と称し、未知との邂逅を心待ちにしていた同志であった。


彼らとの交流は地球をより一層繁栄へと導くとともに、人類史きっての野望――

広大無比かつ、謎に満ちたこの宇宙を駆け巡らんという思いを、さらに強く呼び覚ましていった。


 そんな出会いからおよそ140年後。

西暦2603年。

地球は星々との交流を経て、飛躍的な発展を遂げるとともに、かつての「国家」という概念を静かに、その輪郭を失いつつあった。


カリーナ人にとどまらず、無数の異星種族との出会いを重ねる中で、人類の"世界"という概念は宇宙へと拡張していく。その中で地球上の諸政府は統合され、宇宙に浮かぶ星そのものが、国家として扱われるようになっていた。


それに伴い、人類の言葉もまた変容する。

文明の中枢を担う星は「中枢星」と呼ばれ、発展の遅れた星は「辺境星」、そして新たに台頭する星は「新興星」など、新たなる言葉もまた、台頭してきていた。

かつてない文明の広がり…だがそれは、地球を未曾有の時代へと引きずり込むこととなる。


その名は……戦争である。


 西暦2621年。

惑星セリシアにおける人口爆発は、やがて辺境星への一方的な植民地支配という形で噴出した。

その行為は宇宙全体を震撼させると同時に、中枢星による本格的な植民地時代の到来を告げるものでもあった。


当時、宇宙においていまだ新興星に過ぎなかった地球や惑星カリーナもまた、その潮流から逃れることはできなかった。

自らを守るため、

自らが抱える重荷を星に流すため、

彼らもまた、他の星を支配し始めたのである。


 そうした時代は、やがて中枢星同士の衝突すらも呑み込み、世界は戦火に覆われていく。

星間移動という力は、より広大な戦場を生み出したにすぎなかったのだ。

戦乱の世は文明を疲弊させ、摩耗させていった。


こうして迎えた新たなる"秩序"。

しかし――それは、突如として崩壊することになる。


 戦乱の世を迎えてより、15年の月日が流れたある日、

地球から正体不明の一閃が放たれた。


それは戦火を裂き、中枢星としてその名を轟かせていた惑星ヴァルストを貫き、

一夜にして崩壊させた。


ヴァルストの滅亡。

それは宇宙全土に混乱をもたらし、地球という星を危険視する者たちを生み出していく。


だが、その光の背後には何かが存在した。

人類にとって、あまりに神々しく――そして、あまりに禍々しい存在が。


 それは、たった一言だった。


「交代の時間だ」


その言葉とともに、それは数多の(しもべ)を従え、圧倒的な力で宇宙の戦火を、人類を、星々を蹂躙し、破壊していった。

瞬く間に人類の文明は無へと帰された。

人々には、その恐怖を、己の無力さを、「神」と言い表す以外の言葉を持ち得なかった。

やがてそれは降臨した地である地球(アース)、及び、ヴァルスト語において「神」の意を持つ言葉を組み合わせ、こう呼ばれた。


「アスラ」と。


しかし、人類の新たなる邂逅は、神だけではなかった。同時に、異常な能力を持つ生命体、「サイカー」が各地で発生する。


 サイカーは基本的には神に従順であった。

しかし、その中の一部の個体はその支配から逸脱し、人類と共に抗う道を選ぶ。

それはか細い希望にすぎなかった。

――だが、滅亡の淵に立つ人類にとっては、あまりにも大きな光であった。

人類はその希望を手繰り寄せ、宇宙の星々と手を取り合う。

幾度となく危機に立たされながら、それでも抗い続けた。


そして長き激闘の果てに――

ついに、神を斃すことに成功したのである。


 神を斃した後、人類は新たな選択を迫られた。

神に従う僕として生まれたサイカーたちを、なお恐れるべき異物として退けるのか。

それとも、共に戦った者として受け入れるのか。


人類が選んだのは、共存の道であった。


サイカーはもはや神の残滓ではなく、ひとつの意志を持つ隣人として認められていく。

その力はなお人々に畏怖を抱かせたが、同時に、荒廃した星々を再建するための礎ともなった。


かくして人とサイカーは、互いの傷と恐れを抱えながらも、同じ時代を生きる者として歩み始めたのである。



――そうして、1500年の時が流れる。

サイカーと人類の差異はほとんど失われ、両者の境界は曖昧なものとなり、人類の壮大な歴史は伝承として、古びた碑文と化していた。


 共通の敵()を失った世界。

かつて繋がれた手はいつしか離れ、再び敷かれた境界は、

静かに燻る火種を、いまにも燃え上がらせようとしていた。


 そんな時代の片隅に、一人の少年がいた。

彼の名は、リース。


惑星カリーナの地方都市で、機械整備士として暮らしている彼は今、王都ノーレンスへと向かっていた。


半サイカーとして生まれながらも、その日常はごくありふれていた――はずであった。


一人の少女との出会いが、彼の世界をひそかに揺らしていく。

それは、この世界の秩序をも、塗り替える揺らぎとなる。


これはその、記録(クロニクル)である。

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