出会いは突然に1
どん!
がんっ!!がんっ!!
「きゃーーーーーーーーーーっ」
「そっち行ったぞ」
「じじいとばばあは殺せ」
「おい!そっちのやつは逃がすんじゃねえぞ」
あたりは喧騒に包まれていた。
ここはメーア国からブルーメン国へと続く山間の道。
一人の女性が一歳になったばかりの赤子を連れて乗合馬車に乗っていたところ、この辺りを根城にする盗賊に襲われた。
「ああどうしましょう。せっかくここまで逃げてきたのに」
「ふ、ふえっ」
「大丈夫ですよ。リリー様のことは私がちゃんと守りますからね。
さあ泣かないでください。ちょっとだけ息苦しいかもしれませんが泣かずにお静かにいてくださいね」
馬車の奥の席に座っていたその女性は小さな赤子を抱えてとっさに逃げることができず、なるべく気づかれないように座席の隙間に入り胸元に赤ちゃんを抱えて小さくなったのだった。
その間も馬車の外では怒号が響いていた。
女性に抱えられた赤ちゃんであるリリーはまだ何もわからないはずなのに、その言葉を聞いて不安に揺れる瞳からこぼれる涙を我慢してじっとしているのだった。
本来なら一歳になったばかりの赤ちゃんが言われたとおりに静かにすることはないはずだ。ましてやこれだけ辺りに怒号が響いていたら怖くて泣きわめくのが普通だ。だがこの子は産まれた時からめったなことでは泣かず、とてもおとなしかった。それどころかこちらの言っていることが分かっているのではないかと思うことも度々あった。産まれたころからお世話をしてきたこの女性はそのことを知っており、このまま静かにどうにかやり過ごせないかと一縷の望みにかけたのだった。
辺りの怒号が静まりほっと肩の力を抜きかけた時、
「もう誰も残ってねえよな」
盗賊が確認するように中に入ってきた。
「さすがに残っている奴はいねえだろ。それよりなんか金目のもんはねえかな」
(ああ神様どうかこのまま見つかりませんように)
そう思ってさらに体を小さく丸めてリリーをギュッと抱きしめた。
「お!こっちの袋に金目のもんが入っているぞ」
「こっちにもあったぞ!」
盗賊たちが座席の荷物を一つ一つ確認しながら、各霊いる座席のほうに近寄ってきた。
そもそも座席数もそんなにない狭い乗合馬車の中。見つからないなんてことはあるはずがない。
案の定
「おいおい!こんなところにまだ一人隠れていやがったぜ」
「ひっ!!」
「いけねえなあ。こんなところに隠れて何大事に抱えてるんだよ!こっちによこしな」
「ああ!やめて、触らないで!!」
「ん?なんだ?」
「おいおい、ガキじゃねえかよ」
「ガキのわりにきれいな顔してんじゃねえか」
「離して!!」
「こいつは大きくなったらいい値が付くんじゃねえか?」
「やめて!その汚い手をその子から離しなさい!」
その女性は必死に手を伸ばすが別の男に押さえられてどうにもできず、きつく男をにらみ叫んだ。
バシンッ!!
「うるせえ!黙らねえならお前も殺すぞ!!」
女性は一気に青ざめた。
(ここでリリー様と引き離されるわけにはいかないわ)
黙った女性を見て盗賊の一人が考え込む。
(ガキだけ攫ったところで面倒見るやつがいねえとどのみち死んじまうな。それならこの女も一緒にアジトに連れ帰って面倒見させるのもアリか?)
男は少しの間考えるとまとめて連れ帰ることに決めた。
「よし!じゃこのガキと女を連れていけ。女にはガキの面倒を見させる」
そう話すと連れだって降りていく。
(リリー様と引き離されなくて良かったけどこれからどうなるの?)
青ざめガタガタと震えながらもその手はしっかりとリリーを抱きしめた。
これ以上の不運はもうないだろうと思っていたが、まだ終わりではなかった。
若い女性や見目の良い子どもを連れて盗賊たちがアジトに戻っていく。
本来盗賊のアジトなどは冒険者や騎士団などに見つかり次第討伐されるのが普通だが、このアジトがあるのが外縁部とはいえ迷いの森の中ということもあってまさかそんな危険区域にアジトがあるとは思われず気づかれていないのだった。
確かに外縁部であれば低ランクの魔物程度しかいないのも事実ではあるが、中ランク程度の魔物であれば出てくることもまれにではあるがある。そんな場所にアジトを構えて平気なのは、この盗賊団が過去に襲った隊商が持っていた魔物除けを活用して安全に活動できるようにしているからだ。
この魔物除けといわれるのはなかなかに高価な魔道具で、一般的にはあまり普及していない。村や街道を利用する隊商や乗合馬車などは魔物忌避剤という薬師や錬金術師と呼ばれる者たちが作る比較的安価で手に入りやすいものを利用するのが一般的だ。魔物除けを持っているのはかなり大きな商会や貴族くらいである。
まれにダンジョンと呼ばれる魔物や宝箱などを生み出す不思議な場所にある宝箱から出てくることもある。そうした魔物除けは見つけた冒険者が使ったりオークションにかけられたりすることがある。
閑話休題
そうして危険な森に身を隠しながら犯罪を犯していた盗賊団だが、リリーたちを連れ帰っている時にそれは起こった。




