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錬金術師マリア・ミオヴェルの再婚  作者: ミカン♬


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12 本当の夫婦に

 

 揺れる想い。

 それは恋だった。

 ずっと気づかないふりをしていた恋。


 支えられるたびに救われて、

 優しくされるたびに胸が揺れていたのに、

 マリアはそれを“契約”という言葉の影に隠してきた。


 結婚を失敗した自分には、もう愛を望む資格はないと思っていた。


 過去は消えない。


 それでも。


 彼を、手放したくない。


 もし彼が、他の誰かと家庭を築いたら。

 その光景を想像しただけで、胸が締めつけられる。


 それが答えだった。


 カリスと共に生きていく未来を、

 自分のものにしてもいいのかもしれない。


 マリアは恐れながらも、

 自分の幸せを掴みたいと、心から思った。



 王宮からの帰り道、肩を寄せる馬車の中で。


『結婚して下さい』


 ほんの一瞬の静寂。


『……はい』


 その答えを聞いた瞬間、

 カリスは安堵と喜びを抑えきれなかった。


 そっと触れる唇。

 確かめるような、でももう迷いのない口づけ。


 マリアは逃げなかった。

 そっと彼を抱き返す。


 もう隠さない。

 もう契約の影に隠れない。


 彼に愛されたいと、素直に思った。



 *


 姉妹は、兄夫婦の変化に敏感に気付いていた。


 二人を隔てていた壁は消え去り、絡め合う視線は、こちらが照れるほど熱いものだった。


 王宮から戻った兄とマリアは、言葉も少なく、まっすぐその部屋へ消えていったのだ。

 まるで、扉の向こうに未来があるかのように。


「今まで居間か執務室、せいぜい食堂でしか二人きりにならなかったのに……」


 ディアンナは頬を赤らめ、胸の前で手をぎゅっと握る。

 期待と緊張に膨らむ、甘い鼓動。


「王宮で、きっと何かあったのね。頑張って兄さん……!」


 サーラは祈るように両手を合わせる。


 姉妹は知っている。

 兄は簡単に心を動かす人ではない。


 尊敬できる女性でなければ、愛せない。

 対等に語り合えなければ、選ばない。


 婚期が遅いのは運命のせいではなく、

 ただ“その人”に出会っていなかっただけ。


 そして今――現れた。


 ミオヴェルの錬金術師、マリア。

 兄が無意識に求め続けてきた人。


「はいはい、お嬢様がた。はしたないですよ」


 メイドのメリアにたしなめられ、姉妹は慌てて口を噤む。

 けれど顔には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。


 兄夫婦の“本当の始まり”を、心から祝福するように。



 *


 夜が更けて。


 ベッドの上で、マリアはまだ夢の中にいるようだった。


(カリスが、こんなに情熱的な人だったなんて……)


 何度「愛している」と囁かれただろう。

 そのたびに、呼吸は甘くなり、

 抱きしめられるたび、体の力が抜けていった。


「無理を、させましたか?」


 かすれた声が耳元に落ちる。


「い、いいえ……大丈夫です」


 経験はある。

 母でもある。


 それなのに――

 今の自分は、まるで初めて恋を知った少女みたいだった。


 彼の視線が熱くて、まともに見られない。


「契約婚は、終わりですね。もう一度、式を挙げ直しましょう」


「そこまで、なさらなくても……」


「貴方には、何でもしてあげたい」


 その言葉に、胸がきゅっとなる。

 今度の口づけは、誓いのようだった。


 結ばれた二人。


 やっと、本当に。



 口づけの余韻が静かに消え、

 二人の呼吸がゆっくりと重なる。


「帝国に行くのですか?」


 カリスの問いは、どこか不安を含んでいる。


「いいえ。こちらに残って、研究を続けたいと思います」


「マリアの思うように決めていいのですよ」


「知らない国に行くのは不安ですし……カリスの傍に居たいです」


 言ったあとで、自分の言葉に驚く。

 こんなに素直に、気持ちを口にしたことはなかった。


 カリスは少しだけ目を見開き、それから微笑んだ。


「嬉しいです。私も、マリアと離れたくない」


 遠慮のない言葉。

 飾らない気持ち。


 かつては契約で結ばれていた関係。

 今はただ、互いを求めている。


 カリスが隣にいる。

 その腕の中は、もう迷いのない場所だった。


 失ったものは戻らない。

 けれど、新たな未来がここから始まる。


 もう一度、母親になれたなら。

 今度こそ、守り抜ける家庭を。


 マリアはそっと彼の胸に頬を寄せた。

 温もりが、身体の奥まで満ちていく。


 彼となら、きっと築いていける。

 いいえ、もう歩き始めている。


 カリスの指が優しく髪を撫でる。


 その指をマリアはそっと口付ける。



 幸福は、今この腕の中にある。


 安心しきった子どものように、

 マリアは彼の胸に抱かれたまま、静かな眠りへと落ちていった。



読んでいただいて、ありがとうございました。

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