第六十二話 理想へ
不思議な空間へと至ったドラファティアは辺りをキョロキョロと見回していた。その場所には何も無く、ただ光に満ち溢れていた空間であり、彼には奥行きが感じられない白い空間のように見えた。しばらくするとドラファティアに不思議な声が聞こえてきた。彼は声のする方へ向かおうとしたが、その声はどうやら彼の持つ創造主の剣から聞こえてくるものだった。彼が剣に耳を当てると先ほどの声がはっきりと聞こえてくるようになった。その声の主は自らを創造主と名乗り、ドラファティアを驚かせた。創造主は彼の驚きに特に反応を示さず、言葉を続けた。
「ここは創造主が用意した空間であり、あなたの願いを叶える為の場所です。あなたは剣を持つ者との戦いに勝利しました。故にあなたは今ここにいます。あなたの願いは何ですか」
「俺の願いは全ての生物が平等な生を享受し、皆で協力し合って楽しく暮らしていく世界。でも……」
「今回のあなたとヒュレクシスの戦いは特殊でした。あなたはヒュレクシスでは無く、彼の力を吸収した人祖を倒し、決着をつけることになりました。またこの時敗北者の剣は砕かれる宿命にありましたが、ヒュレクシスの剣は砕かれていません。以上の理由から、敗北したヒュレクシスと彼の同調者たちは全て消えるはずでしたが、その状態を回避することになりました」
創造主の言葉にドラファティアは大きな驚きを見せ、彼の表情には微かな希望も感じることが出来た。
「あなたが望むのなら創造主の力によって、神祖勢力の者たち全てを含めた生物たちの理想とする世界を実現させる機会を与えることも可能です」
「どうやって?」
「実は解放者によって倒された神族たちは別の形で生存しています。彼らが倒された時、彼らの魂は解放者たちに吸収されましたが、創造主の力と彼らの力を組み合わせれば、彼らを生き返らせ、さらに改心させることも可能な世界を作ることが出来ます」
「本当にできる?」
「彼らの力は興味深いもので、彼らは思い描いた事象を限定的ながらも発生させることが可能な能力を宿しています。その力と創造主の力が合わされば先ほど提示した内容を実現させる事が可能です。彼らはあなた方と考え方が異なりますが創造主が創り出す世界によって彼らの考えはあなた方と同じになるでしょう。またこの世界で彼らが改心するのをあなた方は手助けすることも可能です。この世界は現実であって現実でないものとなり、時間や命の心配は必要無い安全なものです」
「俺、皆と相談したい」
「残念ながらここにはあなたしか来ることが出来ず、またあなたもここを訪れることが出来るのは今回1度だけです。しかし、あなたが元の世界に帰った後、彼らと相談して今の申し出に賛成したのなら、あなたは剣を高く掲げた後で大地に突き刺してください。それを確認したら創造主はあなた方の望む世界を創るでしょう」
「わかった。ありがとう」
「最後に念のため、あなたの願いを全て聞かせてください」
「俺たちの願いは全ての生物が平等な生を享受し、皆で協力し合って楽しく暮らしていく世界の実現。それと全ての噴出口と星が一つになること。解放者たちやキマイラが祖になること。神祖勢力の者たちが俺たちと同じように生きていける世界をつくること」
「わかりました。それでは、あなたの答えを待っています」
創造主の言葉はそれ以降聞こえなくなり、ドラファティアは再び激しい光に包まれた。彼が目を開けると彼の傍には解放者たちとキマイラがいた。ドラファティアは辺りを見回し、その場の様子から神祖を倒した直後であることがわかった。解放者たちはドラファティアの様子が気になったようで話しかけてきた。
「ドラファティア。ぼんやりとしているが大丈夫か?」
「俺、大丈夫。それより創造主と話してきた」
ドラファティアの言葉に解放者たちとキマイラは驚愕した。ドラファティアは彼らに創造主との対話に内容を全て開示した。話を聞き終えた解放者たちは簡単には信じられないような顔をしていた。
「俺たちが倒した神族たちの魂が俺たちの中にあるという話は、あり得なくは無いが……」
「少し仕組みは違うけど、魂の合一と似ている感じがする。それにしても創造主っていうのはとんでもない力を持っているようね」
「世界を創ることが可能らしいが、もうよくわからんな」
「俺、創造主の話信じたい」
「俺も同じだ。神祖勢力にいた皆を救う方法があるのなら、どんな方法でも試したいからな」
パンドルスはドラファティアと共に創造主の提案に乗ることにし、他の者たちも賛成することになった。そこでドラファティアは創造主の剣を高く掲げた後で大地に突き刺した。すると再び世界全体が激しい光に包まれ、彼らが目を開けた時、彼らはいつの間にか生まれ育った星パミクステラにいた。さらに解放者たちとキマイラはかつてない程の力の高まりを感じていた。それは解放者たちとキマイラが人祖の力を入手し、それぞれ亜人祖と合成獣祖となっていることを意味していた。彼らは自分たちが祖になったことに気付き、とても喜んでいた。彼らはそこから移動し、軽く星の調査をしたところ、全ての噴出口と星が1つになったことが判明した。全ての噴出口と星が1つとなった星は創造主によってフューズヌステラと名付けられた。フューズヌステラでは全ての魔界連合の生物たちと戦争終結前から魔界連合に帰順していた少数の神祖勢力の生物たちがいたが、それ以外の神祖勢力の生物たちは何処にもいなかった。
それらの生物が別の世界にいることはドラファティアから告げられていたので、彼らは特に気にしていなかった。彼らがこちら側に戻って来るのはそれ程遠くないと考えていたのである。ただ、創造主との契約により、その別の世界には魔界連合からそれなりの数の者たちが派遣されていた。彼らは神祖勢力の者たちの改心を補助する為、別の世界に行った。別の世界は命や時間の心配が必要無いという事であったので、そこに行く事を拒否する者は殆どいなかった。フューズヌステラに残った者たちは派遣された者たちが神祖勢力の者たちと共に帰って来るのを待つことにしたのだった。
こうして魔界連合の理想とする世界は大部分が達成されることになった。魔界連合と神祖勢力の長きにわたる戦いが終結したのと同時に、亜人や合成獣たちの存在をかけた戦いも無事終結した。生物たち掴み取った新たな世界の中で、それぞれ思い思いの生活を送るようになった。
それから少し経ったある日、パンドルスはペタギュレアとピスキュラに囲まれて何か騒いでいた。
「パンドルス、見てみろよ。これが俺とペタギュレアの最新作だ!」
「これは!……何とも言えない激しさを感じるな」
「やったぁ。やっぱりパンドルスにはこの作品の凄さが伝わったね」
「あぁ、他の奴らはこの作品の素晴らしさを全く理解できていない。ここを見てくれ。納得いくまで3日かかったが、この湾曲具合、最高だろ」
「あぁ、確かに。絶妙な感じだな」
彼らがそうして作品を鑑賞していると何処からともなくリレイラスが現れた。彼は二人の作品を見るなり、批評を開始した。
「それのどこが良いと言うのだ。俺が見るに、全てが中途半端だ。もっと角度を付けた方が良い」
「リレイラス。それはお前の好みだろ。お前も俺たちを見て何か始めたらしいが、何かあるのなら見せてみろ」
「お前たちは幸運だな。今日は丁度俺の自身作を持ってきている」
そう言ってリレイラスは金属で作成された真四角な物体を取り出し、彼らに見せびらかした。
「これは何の冗談だ。ただの四角い箱じゃないか」
「やはり理解できないようだな。これは全てにおいて計算し尽くされた立方体だ。あぁ美しい……」
それから彼らは自分たちの作品を巡って論争を始め、パンドルスは隙を見てその場から立ち去った。しばらく移動してからパンドルスはテリファンナとフィポリタスに話しかけた。
「フィポリタス、テリファンナ。最近調子はどうだ?」
「パンドルスか。俺たちは良い感じだ。この辺の土地整備は大体片付いたからな。次は南に行くつもりだ」
「フィポリタス、あまり無理はしないでくださいね。この前みたいに……」
「あああ!何でもない。何でもないぞ、パンドルス。さぁ行こうか、テリファンナ」
フィポリタスは激しく動揺し、テリファンナを無理やり急き立ててパンドルスの前から立ち去った。パンドルスはちょっと話の続きが気になったようであったが、急に現れたベアドルムに話しかけられた。
「パンドルス。シルグリアが来たら、俺は左に行ったと言っておいてくれ。じゃあな」
そう言うと大急ぎで彼は右の方へと走り去っていった。少し遅れてシルグリアが現れ、パンドルスにベアドルムを見なかったと尋ねてきた。パンドルスは二人の関係性が気になったようで何故ベアドルムを追いかけているのか質問してみた。
「ベアドルムは折角私たちが鍛えてあげたのに、戦いが終わった途端、鍛錬を怠り始めた。このままじゃ、私たちの苦労が消えてしまう。だからもう一度私が鍛えてあげようとしているの」
「でも、もう戦う必要も無いだろうし、ベアドルムの好きにさせてあげた方が……」
パンドルスの言葉を聞いていたシルグリアはみるみる不機嫌な顔になり、仕舞には彼を鋭く睨み付けていた。パンドルスはちょっと怖くなったようで言葉を途中で止めてしまった。
「私は彼の鍛えられた体を気に入っているの。あれは絶対に失われてはいけない最高の肉体なの!……で、どっち?」
彼女の気迫に負けたパンドルスはベアドルムの本当の行先を教えてしまい、彼女は怪しい笑みを浮かべながら右の方へと走って行った。その後少ししてからパンドルスは悲鳴のようなものが聞こえた気がしたようで、悲しげな顔をした。しばらくあてもなく歩いていると彼に話しかけてきた者たちがいた。それはヴァルザリアとカルバトロスであった。
「どうしたんだい、そんな顔をして?」
「君らしくないな。さては誰かの秘密を知ってしまったのか」
「ある意味ではな……」
「やはり、相変わらずだな。それで上手くいっているのか?」
「それが中々上手くいかなくて……」
「おやおや、戦場では頼りになったけど、そっちの方ではまだまだのようだね。まぁ、仕方がないか」
「パンドルス、偶には相手の気持ちを多少無視してでも、自分の気持ちを押し通した方が良いこともある。これが俺からのアドバイスさ」
「そうか。ヴァルザリア、カルバトロス。ありがとな」
パンドルスは彼らとの会話を止めると再び歩き出し、フェリベルクとタボラッグの元へと至った。フェリベルクはパンドルスを見るなり話しかけてきた。
「あら、パンドルス。どうしたのかしら?」
「あんたらはもう……やったのか?」
「当然でしょ。逆にあなたたちはまだなの?」
パンドルスはゆっくりと頷き、フェリベルクは大笑いした。笑いが収まってくるとフェリベルクはパンドルスを馬鹿にするように言葉を投げかけた。
「あなたたちの方が早かったのに。後から結ばれた私たちの方が先にやったっていうの。そして原因は見たところ、あなたにあるようね」
「フェリベルク、言い過ぎだよ。パンドルスも悩んでいるみたいだし、ここは何か助言を……」
「あら、あなたは私じゃなくてパンドルスの方に味方するの。へぇえ。後でどうなるのか覚えておきなさい」
その時、フェリベルクの表情から笑いが完全に消え、無表情となったが、目だけは静かにタボラッグを睨むような形となっていた。その視線を向けられたタボラッグは少し怯えていたが、フェリベルクはすぐに笑顔になった。
「冗談よ、冗談。私があなたにそんな酷い事するわけないでしょ」
フェリベルクは優しい顔を浮かべながらタボラッグに抱き着き、タボラッグも安心した顔を見せ、彼女を抱き返した。
「パンドルス。あなたもこれぐらいならできるわよね?」
「あ、あぁ。もちろん」
パンドルスは彼らの抱き合う姿を見ていたが、彼の視線は泳いでいた。フェリベルクは彼のその様子から何かを感じ取ったようであり、1人で納得し始めた。
「あなたそういうところは変わっていないのね」
「何の事だ?」
「自分でもわかっているでしょ。あなたはもう後悔したくないのよね。だったらやるべきことは1つしかないんじゃないの?」
パンドルスはフェリベルクの言葉を聞いてそれ以上何も言わず、その場を後にした。そして彼はアルクルフの元へと足を向けていた。アルクルフはパンドルスの接近を感じ取り、自分から彼に接近して声をかけていた。
「パンドルス、何もしていたの?」
「ちょっと皆と話をしていたんだ」
「何か気になる事でもあったの?」
パンドルスは言い出すのを少しためらっていたが、やがて決心したように口を開いた。
「……アルクルフ、すまない。俺にはやらなければならない事があるんだ。君も知っていると思うけど、神祖勢力の生物たちがいる別の世界ができてから結構な日数が経過しているのに何も起こらない。きっと別の世界で何かしらの問題が発生したんだ。だから俺は彼らを救うためにエプリフィアと共に別の世界に行ってくる」
アルクルフはパンドルスの話を静かに聞いていたが、エプリフィアという言葉が聞こえた辺りで少し、耳が動いた。
「うん、わかった。私も一緒に行くね」
「えっ!?いや、でも……」
「私はいつでもパンドルスと一緒がいいの。それに私も彼らを助けたい」
「そうか。じゃあ行こう」
そういう訳でパンドルスとアルクルフは後の事を他の者たちに押し付け、エプリフィアの元へと向かった。エプリフィアはアルクルフを見て少し驚いていたが、すぐに嬉しそうな顔になった。
「エプリフィア、待たせたな。アルクルフも一緒に行くことになった」
「そういう事だから、よろしく」
「それは良かった。さて神祖勢力の生物たちが居る別の世界は、我々の居るこの世界と時間の流れが異なる。別の世界がどのような所なのか行ってみなければわからない。最悪帰還不可能となってしまうかもしれない。ドラファティアはこの世界を管理しなければならない為、今回彼の助力を借りることは不可能だ。それに創造主は我々が別の世界に行くことを拒否していた為、何らかの罰が下る可能性もある。それでも行くのか?」
「俺の答えは変わらない。彼らと共に生きる道の為なら俺の命は惜しくはない」
「私もパンドルスと一緒」
エプリフィアは二人の答えを聞いて満足した。彼らは覚悟を決め、ドラファティアの元へと向かい、彼と力を合した。それにより、別世界へと至る道が出現し、パンドルス、アルクルフ、エプリフィアはドラファティアの見送りを受け、別世界へと旅立ったのであった。




