第六十一話 決着
解放者たちとキマイラはドラファティアの案内に従って、神祖と共に姿を消したヒュレクシスを探していた。道中、彼らはヒュレクシスについて話していた。
「彼は俺たちの言葉を受けて心が揺らいでいた。あれでは神祖の目的を達成することは不可能だ。今一度神祖が理想を吹き込もうとしても手遅れだ」
「奴は俺たちとヒュレクシスを接触させず、決着をつけさせないつもりか」
「ヒュレクシスはまだ迷いの中。さっきは私たちに賛同していたけど、まだ油断は禁物よ」
「確かにそうかだな。あいつも神祖の前で戦う事になれば、嫌でも神祖を理想に導く者としての責任を果たそうとするはずだ」
「どうかな。あの時、ヒュレクシスは俺たちと共に歩もうとしてくれた。あいつもこれ以上戦いたくないんだ。だから、俺たちがヒュレクシスを迷いの中から解放するんだ」
パンドルスは皆に呼びかけるように言葉を発し、皆彼の言葉に賛同を示した。
そうして彼らは一際目立つ巨大な建造物の前へと辿り着いた。ドラファティアによるとこの建造物の中からヒュレクシスの反応がするとのことであった。建造物は噴出口のエネルギーによって作成されていたので、破壊は困難であるのと同時に彼らは神祖との戦いに備え、力を温存しておきたかった為、正面の入り口から進入した。
建造物の中に入ってみるとそこは複雑な迷路のようになっていた。壁を壊して進むことも出来たが、神祖が仕掛けたと思われる強制座標移動地点なるものがあり、そこに足を踏み入れてしまうと建物の入り口に戻されてしまうという機能があった。彼らは同じ所を行ったり来たりして、苛立ちを露わにしていた。ヒュレクシスの位置は建物の中央ということであったが、中央に向かって進んでいるつもりなのに彼らは一向に辿り着けず、より一層焦燥感を募らせていた。そしてリレイラスが遂に限界を迎えた。
「もう駄目だ。戦いはお前たちに任せるから、俺の力でこの迷路を破壊する」
「止めろ。これらも全て噴出口のエネルギーで作成されている。お前が全ての力を使っても迷路全体の2割も破壊できないだろう。仮に破壊できたとしても、すぐに再生してしまう」
「なら俺も一緒に破壊しよう」
そう言ったのはリレイラスと同じくらい迷路にうんざりしていたフィポリタスであった。彼に続いてドラファティアも迷路を破壊すると言い出したが、エプリフィアは拒否した。
「なぜだ。ドラファティアならエネルギーが枯渇する心配も無いし、迷路を全て破壊できるかもしれないぞ」
「だからだ。神祖はドラファティアを恐れていた。その為、ドラファティアの事を常に念頭に置いていたはずであり、この迷路もドラファティアに対抗する為に作られたと思われる」
「なら、他に何かこの迷路を攻略する方法があるのか?」
「ここには強制的に入り口に戻される仕掛けがあり、我らは何度か引っ掛かった。その仕掛けは視認することが可能で、我らはそれを避けて来た。また我らは中央に行きたいが、全くそこにはたどり着けず、同じ所を行き来している。もしかしたら先に進むにはあの仕掛けを利用した方が良いのかもしれない」
彼らは神祖が仕掛けた強制座標移動地点によって何度か入り口に戻され、その後それを警戒するようになった。強制座標移動地点は視認可能なものであり、注意しておけば簡単には引っ掛からなかったが、それが神祖の狙いであった。先に進む為には強制座標移動地点を利用しなければならなかったが、彼らは最初にそれが入り口に戻るものであると認識させられていたので、その事実に気付けなかったのである。
「なるほど。神祖め、面倒な事をしやがって」
「そうとわかれば、逆に目立つものが怪しいということになるな」
解放者たちとドラファティア、キマイラは入り口に戻らない強制座標移動地点を探し出し、それを利用して先へと進んだ、その先にも同様な仕掛けがあったが、試行錯誤しながら彼らは進み続けた。そして、最後の分岐路を発見した。そこには強制座標移動地点が2つあり、1つには入り口と記され、もう1つは中央の間と記されていた。彼らは記された内容が正しいものか断定できなかったが、入り口帰還用の強制座標移動地点を使用した。
そうして彼らが移動した先は見たことも無い空間であったこと、ドラファティアがヒュレクシスの反応が近いと言ったことから、そこが中央の間だと確定した。彼らの目の前には扉があったが、彼らはそれを勢いよく蹴り破った。彼らがその先に見たのは神祖とヒュレクシスであったが、二人は何か怪しげな事を行っていた。神祖はヒュレクシスから力を吸い上げているような素振りを見せており、ヒュレクシスは苦しそうにしていた。解放者たちとドラファティア、キマイラは急いで二人の元へ近寄ったが、彼らが駆け付けた頃にはヒュレクシスが神祖に吸収され尽くしてしまっていた。
「お前!何をした!」
パンドルスは鋭く叫んだが、神祖は彼らを無視し、ドラファティアにだけ目を向け、話しかけてきた。
「ヒュレクシスは愚かなものであった。彼は吾の理想を叶える為だけに生まれてきたというのに、その役目を果たそうとしなかった。彼がその責務を果たせないのなら、吾自らがその力を振るおう」
そう言って神祖はヒュレクシスの創造主の剣をドラファティアに向けた。ドラファティアは驚きながら質問した。
「それ、ヒュレクシスの剣。なんでお前が使える?それにヒュレクシスを吸収するなんて有り得ない……祖にそんな力は無いはず」
「吾の願いは生物たちの至上の幸福であり、それを実現させる為、全ての生物を支配可能なあらゆるものを超越した力を望んだ。結果ヒュレクシスが誕生したが、吾にとって彼はただの道具に過ぎない。道具を作成し、使用するのは吾であり、吾の思い通りになるのは何も不思議ではないだろう。ヒュレクシスを吸収できたのは吾の力では無く、ヒュレクシス自身に予め設定されていた能力だったのだよ」
神祖の言葉を聞いた解放者たちとドラファティア、キマイラは言葉を失ってしまった。
「何という事だ。ヒュレクシスを道具扱いするとは……」
「神祖。思っていた以上に傲慢な奴だ」
「これはどう考えても俺たちの言葉に耳を貸すような奴じゃないな。そもそも無視されている」
フィポリタスの言葉の通り、神祖は解放者たちとキマイラを全く見ておらず、ドラファティアの方だけを向いて話していた。解放者たちがいくら言葉を発しても神祖は聞こえていないような雰囲気を出していた。けれど、神祖はドラファティアの質問になら答えていた。
「お前、何でこれまでちゃんと戦わなかった」
「その必要が無かったからだ。ヒュレクシスがお前を倒せば自然と理想の世界は訪れる。他の物事は些末なものであり、単なる暇つぶしであった。吾は全ての生物の力を獲得し、完全なる神祖となる予定であった。その後、完全なる神族たちを生み出し、彼らを吾が与える幸福の対象者たちとする。その為、今いる神族たちは出来損ないの不用品であり、処分する必要があった。彼らは役立たずであったが、吾が直接手を下すのははばかられた。しかし、汚れた種族によって処分されていったので、安心したよ」
神祖は神族を生み出しておきながら、彼らの事を最初から切り捨てるつもりであったのである。彼ら同士を殺させ合ったり、魔界連合を攻めさせたりして、存在の縮小を狙っていたが、あまり上手く行っていなかった。そこへ亜人たちが現れ、神族を次々と撃破していったので、神祖は内心ほくそ笑んでいた。神祖は現在の神族を滅ぼしたいと考えていたので、彼らを助けるような事はしなかったのである。
「あの野郎。汚れた種族とは俺たちの事か」
「あんな奴に感謝されたくない」
「同感。彼らは神祖の為に戦っていたのに……それを踏みにじるなんて許せないね」
解放者たちは神祖を罵っていたが、やはり神祖は彼らを無視していた。
「吾の目的はヒュレクシスがドラファティアを倒す事であったが、今は吾がお前を倒す事に変更された。お前を倒せば理想の世界が訪れる。ドラファティアよ。今こそ決着の時だ!」
神祖はドラファティアとの決着を望んだ。その時、ドラファティアは解放者たちとキマイラをちらりと見た。彼らはドラファティアを見ながら無言で頷き、ドラファティアも頷き返した。ドラファティアは神祖の方へ体を向け、宣言した。
「俺たち、理想を皆で叶える。だからお前を倒す!」
神祖はドラファティアの言葉を聞いて薄ら笑いを浮かべ、剣を構えながらドラファティアに突進した。
「吾は神祖。祖を越えた力を持ち、今ヒュレクシスの力と創造主の剣をも手に入れた。さらにお前は腑抜けてしまい、以前のようなおぞましい力を持っていない。もはや、恐れるに足らん。勝利は吾にある!」
自身に満ち溢れた神祖はドラファティアに向かって無数の衝撃波を飛ばしてきた。ドラファティアはそれらを剣で切り裂き、防いだが、神祖はその隙を狙ってドラファティアに斬撃を浴びせた。彼らの戦いは激しく、解放者たちとキマイラが割って入るには危険すぎたので、彼らはドラファティアを支援することにした。幸い彼らの攻撃は神祖に効果があったが、神祖は彼らを無視し続けた。ドラファティアは記憶や思いを込めた斬撃を神祖に向けて放ったが、全て回避されてしまった。解放者たちはその斬撃を当てる為、複合属性による攻撃を神祖に向けて放ち、神祖もさすがにそれは無視出来ず、回避行動を取った。その隙を見たドラファティアが記憶や思いを込めた斬撃を神祖に直撃させた。しかし、神祖は全く動じなかった。彼は自分以外の全ての思いを無視していたので、彼らの記憶など効果が無かったのである。
「やはり効果が無いわね」
「やむを得ません。神祖を倒しましょう」
「それするしか方法はないな」
そうして解放者たちは神祖を倒すことにした。彼らは神祖の改心を促す為、力を調整していたが、そこからは全力を出した。神祖は彼らの攻撃を無視出来なくなり、彼らに向けて反撃するようになった。彼らは反撃されてむしろ嬉しそうな顔をしていた。また力を調整していたのはドラファティアも同じであり、神祖は一気に劣勢へと陥った。
「なぜだ。吾は神祖であり、創造主の剣の力をも合わせた。その吾がなぜ貴様らごときに!」
「剣とそれを持つ者の力の源泉は何だ?」
狼狽する神祖を見たエプリフィアが彼に向かって問いかけてきた。神祖は無視せず答えた。
「理想を目指す強き思いこそ力の源泉だ」
「少し違う。思いの強さは1個体では限界がある。だから皆で同じ思いを共有し、仲間を増やしていく。ドラファティアは魔界連合の皆と理想を同調させているが、お前はどうだ?」
「吾は生物たちの幸福を願い、彼らは吾の為に身命を賭して働いている」
「お前の本当の理想と同調している者はいないだろ。お前は他者を信用せず、今まで偽りの理想を掲げて皆を動かしてきた。しかし、今のお前は化けの皮を剝がし、真の理想を掲げているが、その理想を目指す者はお前1人だけとなった」
エプリフィアの言葉を聞いた神祖は少々戸惑いの表情を見せたが、すぐに怒りの表情へと置き換わった。
「同調者など必要無い!吾が全てを決定し、生物たちはただ吾がもたらす幸福をひたすら信じておれば良いのだ」
「幸福は押し付けられるものじゃない。俺たちが皆で手に入れて行くべきものだ。お前はただ幸福を押し付け、自己満足したいだけだ」
「吾が正しいのだ。吾の理想こそが最善。我が全てを支配する。苦しみ、喜び、悲しみ、怒り、それら全てを。そして、絶対なる存在となった我が彼らにそれらを与えるのだ。吾が全生物を管理し、幸福と不幸を選定するのだ」
「だから、それはお前だけが望んでいることだろ!俺たちは全員で進まなくてはならないんだ!」
「黙れぇぇぇ!」
神祖は遂に内に秘めていた怒気を解放し、パンドルスに思いっきり剣を振り下ろしたが、ドラファティアが剣でそれを受け止め、パンドルスはその隙に神祖から離れた。さらに彼の安全を確認したドラファティアも神祖から離れた。神祖は半狂乱状態であり、四方八方に斬撃をまき散らしていた。解放者たちとドラファティア、キマイラは斬撃を回避しながら合間に神祖へ攻撃を浴びせていたが、神祖はそれらを全て切り捨てた。神祖は自身の力を全て使って彼らを葬り去ろうとしていた。
ほぼ全ての攻撃が通じず、神祖を黙らせるにはドラファティアの剣を用いるしかなかった。しかし、それは神祖勢力全ての生物を切り捨てることと同じ意味を持っていた為、ドラファティアは決心がつかなかった。ドラファティアは剣を持つ自分の腕が震えていることに気付き、震えを止めようとしたが、完全には止められなかった。解放者たちとキマイラは神祖にとどめを刺せと促すかのようにドラファティアを見つめていた。そこでドラファティアは仕方なく、剣を構え、神祖に突撃しようとした。するとドラファティアが剣を握る手にパンドルスが手を重ねてきた。ドラファティアがパンドルスの顔を見ると彼は優しく微笑んでいた。それを見たドラファティアの体の震えは完全になくなり、ドラファティアは解放者たちとキマイラの支援を受け、神祖目掛けて突撃した。神祖はドラファティアを寄せ付けまいと攻撃を放ったが、全て解放者たちとキマイラに妨害された。そして、ドラファティアは神祖目掛けて思いっきり剣を振り下ろしたが、神祖はそれを剣で受け止めていた。そこへパンドルスが突撃して神祖の態勢を崩したことで、神祖は剣は手放してしまった。同時にドラファティアの剣は神祖の体に振り下ろされ、切り裂かれた神祖の体から目もくらむような激しい光が発せられた。さらに彼らのいる世界全体からも激しい光が発せられ、宇宙全体がその光に包まれることとなった。
ドラファティアはその光により、目をつむった。しばらくしてから目を開けると、彼は見たことも無い不思議な空間にいるのだった。




