第102話
ワタクシはコートミールにやって来ていました。ここに来るのもヒュドラ以来です。なんだかんだと縁があるようです。
「本当にスリットはここにいるんですかね……」
神様にお願いして教えてもらったスリットの居場所――お陰で次のターゲットのポイントから千ポイントも引かれてしまいました――はコートミールとのことで、わざわざここまでやって来たのです。
ヒュドラが現れて町の危機があったと言うのに、もうそれは忘れられてしまったかのように平和な光景が広がっていました。
一度目は格闘大会が開催されていたこともあって人でごった返していて、二回目に来た時にはヒュドラが現れたとかで鬱屈とした空気に満ちていました。三回目に訪れて初めて、普段のコートミールに会えた気がしました。
しかし特に見るような場所もないので真っすぐ冒険者ギルドへ向かいます。
神様の言葉であれば、スリットがこの町にいるというのも事実でしょう。あの方は人を食った方ですが嘘を吐くようなことはありません。
スリットが町の中でどこにいるかと言えば、冒険者ギルド以外にはないでしょう。
扉を開けて中に入ります。いくつかの視線が一斉にこちらへ向き、その内の一つと目が合いました。
「まさかこんな所で会えるとはな、アマルちゃん」
「探しましたわ、スリット」
格闘大会が開かれている時は冒険者が何人もいるこの町のギルドですが、それ以外の時はこうも人が少ないのかとビックリしてしまいます。
二つ三つのテーブルに人がいるだけで、職員も暇そうにしていました。
スリットが腰掛けているテーブルにも食事の跡が残るだけで、暇そうに半分眠っているような目でした。
それがワタクシを見た瞬間に開きます。
「俺を探していた、か。いったいなんの……ついに俺も殺されちまうのか?」
「そんなわけありませんよ」
冗談としても質が悪いです。いくらターゲットに選ばれたとしてもスリットとは戦いたくないものです。どれだけ面倒かわかりません。
しかし今回のターゲットはスリット以上に質が悪いです。
それこそ、スリットの手を借りたいくらいに。
「あなたの手を貸していただきたいのです。今回はちょっと面倒な相手でして……」
「アマルちゃんが手こずるような相手か。まぁ、座れよ」
「それも二人も」
空いていた席を示されてそこに座ります。
暇をしていたであろうパブ――ギルドに併設されている――の店員が注文を聞きに来たので冷たいジュースを頼みます。
「それは面白そうだなぁ……。少なくともこんな場所で冒険者をやっているよりはよっぽど面白そうだ」
「……ところで、スリットはどうしてこの町にいたんですか?」
「ヒュドラとかいう強い魔物が出たと聞いてな。だがここに来た時にはもう倒された後だったよ」
「あぁ……楽しみを奪ってしまって申し訳ありません」
「アマルちゃんがやったのか!? それなら仕方ないな!」
大きな声でスリットは笑い、周囲の注目を集めてしまいました。
丁度、ワタクシの注文したジュースが届きます。
それで喉を潤して、
「協力していただけますか? 今回のターゲットの強さは保証しますよ」
「おもしろそうだな」
と、色のいい返事をしてもスリットはそれだけで、ちゃんとワタクシの申し出を受けたわけではありませんでした。
考え込むような素振りもわざとやっているようです。
そして、どうやら妙案を思いついたようですが、ワタクシには嫌な予感が。
「俺に勝ったら手伝ってやってもいいぞ」
「ここなら誰に迷惑をかけることもないでしょう。存分に暴れられますわ」
スリットを連れて町の外へ。ワタクシ達が戦えば家の一軒や二軒は壊れてしまいそうです。
「そんなに気にすることか? 大した勝負はしないだろ」
「互いに熱くなったら周りが見えなくなるでしょう?」
「ははっ、違いないな」
俺に勝ったら、と言ったスリットと決めた勝負方法は、一発勝負。互いの攻撃を合わせてその一撃で勝負を決めるというものです。
ワタクシはもちろん、スリットも大規模な魔法を使うわけではありませんので、攻撃と攻撃をぶつけたところで大した被害は出ないでしょう。それでも、もしものことを考えると備えは必要です。
手が届く距離で向き合います。武器はなしということで、ワタクシもガントレットを外して完全に素手です。
「拳と拳を打ち合い、押し負けた方が負け。それでいいですね?」
「もちろん。俺が負ければなんにだって協力してやるよ」
「二回戦三回戦もなし。一回こっきりの勝負ですよ?」
「おいおい! どうせなら三回勝負とかにしようぜ」
「これから戦いが控えてるんですから下手に怪我もできませんわ」
それもあって、スリットとの勝負はこの一撃で決めることにしたのです。
武器を持って殴り合い蹴り合い切り合いなんてしては、傷を治すのにどれくらいの時間がかかるかわかりません。今回のターゲットは二人で二千ポイントにも届く大物。世界を守るためにも早急な対応が求められているのです。
ですのでこの勝負も一瞬で終わらせていただきます。
「それじゃあ……いきますわよ!」
「おう!」
スリットの返事から一拍置いて、ワタクシ達は同時に拳を突き出しました。
明確な開始の合図があったわけではありませんが、示し合わさずともタイミングを外すことはしません。
拳と拳がぶつかり、衝撃波が起こり岩がぶつかるような鈍い音が響きました。
「ぐぅ……!」
呻き声はどちらの物でしょうか。
一瞬で終わらせるつもりでしたがそんなに上手くいくはずもなく。拳と拳の押し合いです。
身長で勝り、ワタクシを圧し潰さんとするスリットと、それを押し上げるようなワタクシ。
身体強化の魔法を全開にしても勝負は決まりません。スリットもまた、ワタクシと合わない間に随分と力をつけたようです。
「ですが負けませんわ!」
「ぐあぁっ!」
渾身の力で拳を振り抜き、勢いに押されてスリットはひっくり返りました。
ほんの数秒、拳で押し合っただけとは思えないほど、ワタクシの息は上がり、今にも倒れてしまいそうです。
しかし勝ったからと言ってここですぐに倒れるわけにはいきません。
「さぁ、ワタクシに付いて来てもらいますわよ!」




