33.一度、やってみたかった。
新クラスが始まって二週間が経過したある日の五時間目終わりの中休み。
俺は、樹の所へ向かった。
というのも、今日は委員会決めがあり理香と同じ委員会にさせたいからだ。
友人キャラとして手伝える久々の機会、この機会を逃すわけにはいかないのだ。
「樹、委員会どこに入るとか決めた?」
「委員会?俺はどこも入らないよ」
「えっ、何で?」
入らないという選択肢があるとは思わなかったので、驚きが隠せない。
「いや、俺今年生徒会に立候補しようとしてるから、他の委員会に入れないんだよ」
へぇ~、生徒会に入るのに、他の委員会と掛け持ちって駄目なんだ……
……って、生徒会!?
樹が生徒会ってそんな訳ないと思ったが、聞き間違えようがないので大声で驚いてしまった。
「えっ、生徒会!?」
「うん、生徒会」
「俺聞いてなかったんだけど……」
「うん、だって俺も今朝先生に生徒会入らないかって誘われて決めたから」
「あっ、そうなんだ……」
えっ、それってどうしようもないじゃん。
そういうことなら、同じ委員会にさせる作戦は諦めようかな。
「やっぱ気にしないで、生徒会ガンバ!」
「うん、ありがとう」
そう言って俺は、席に戻った。
席に座ってすぐ、俺は思った。
友人キャラって難しすぎないか?
全然、作戦通りに行かないんだけど……
そういえば、理香は何委員に入るのだろうか。
同じ委員会に入ってみたかったな……
もう、そんな夢、叶わないのは分かってるけど。
一度でいいから、一緒にやってみたかったな……
***
五時間目が終わってからすぐ、私は沙希ちゃんに呼ばれて教室の一番端にある席に行った。
「どうしたの?」
「理香さ、今日も彩人君見てたよね?どんだけ好きなの!?」
みっ、見られてた?
誰にもバレないようにこそっと見てたのに……
「えっと、それは……」
何とか言い訳しようとするけど、中学生の時に『彩人のことが好きなんだよね……』と相談してしまったことのある沙希ちゃんには、何を言っても無駄なんだよね……
ど、どうしよう……
一生懸命言い訳を考えていると、突然沙希ちゃんが耳を貸してと言ってきた。
何か聞かれたくない話でもあるのかな?
私は大人しく沙希ちゃんに耳を貸す。
「話は変わるけどさ、今年は彩人くんと同じ委員会にするのよね?」
急に彩人の話をされて、私は赤面する。
ふ、ふふふ不意にその話題はずるいよぉ!
「な、なに言ってるの沙希ちゃん!?」
「しないの?去年もしてなかったよね?」
「き、去年は、彩人と同じ委員会にしたかったけど、彩人がくじ引きに負けちゃって……」
「それは、何度も聞いたわよ、そうじゃなくて今年もまさか無策で委員会決めを運任せになんてしないわよね?って言いたいの!」
「そっ、それは……」
あ、彩人と同じ委員会にはなりたいよ?
なったこと一度もないもん……
だけどさ?毎年私が合わせに行っても、必ず他の男子がかぶって抽選で彩人が負けちゃうんだもん。
図星を突かれて黙っている私を見て、沙希ちゃんは呆れた様子でため息を吐く。
「はぁ……そうだっと思った。よし!私が手を貸してあげる」
「えっ、本当に!?」
私は嬉しさのあまり沙希ちゃんの手をぎゅっと握る。
「仕方ないからね……今から私が言うことに全部『うん』でも頷くだけでもいいからしてね」
頷く?
どういうこと?沙希ちゃんは何をするのかな……
で、でも一回は彩人と同じ委員会になってみたかったので、私は了承する。
「う、うん、分かったよ」
私が「うん」と言うと沙希ちゃんは突然、教室中に聞こえるような声で喋り始めた。
「え!?理香、今回は風紀委員にするの!?」
沙希ちゃんの大声にみんな驚いて一気にこちらを向いてきた。
あ、彩人と樹くんもこちらもこっちを見てるよ!
みんなこっちに注目してるよ沙希ちゃん……
沙希ちゃんの方を見ると沙希ちゃんは右肩を上げた。
これは多分、言えってことだよね?
そう思って私は先ほど言われた通りの言葉を口にする。
「う、うん……そうなんだ~」
私が頷くとクラス中が騒がしくなった。
私は、何がしたかったのかよく分からなかったので、沙希ちゃんの方を見ると沙希ちゃんは「成功かな……」と言って深いため息を吐いた。
「はい、これでみんなは風紀委員に立候補すると思うから、理香と彩人くんは文化祭実行委員に立候補すれば一緒の委員会になれると思うよ?」
「ぶ、文化祭実行委員に……?」
文化祭実行委員って、確か一番仕事量が多いし、文化祭当日も仕事が多くて楽しめないって噂の?
沙希ちゃんは、私に耳を貸してと手招きをするので、私は再度大人しく耳を貸す。
「文化祭実行委員って一番人気ないでしょ?だから、そこに二人が立候補すればいいの」
た、確かにそれだと成功するかもだけど……
「まぁ、一番大変だけど、それを好きな人と二人で出来るって考えたら結構楽にならない?」
そう言われてみると、そんな気が……
よく考えるとそれって、彩人とこれまで以上に話す機会が増えるってことだよね!
「確かに、そうだね沙希ちゃん!」
私が彩人と一緒に作業しているところを想像して幸せになっていると、沙希ちゃんが「お~い」と言ってきた。
「幸せな妄想中に申し訳ないんだけどさ、それって、彩人くんを誘わないと始まらないってことは分かってるよね?」
そ、そうだ…彩人を誘わないと……
「そ、それは、私が誘いに行く!」
「うん、その意気でガンバレ!」
そして沙希ちゃんは私の背中を強く押す。
「よ、よし!」
私は何度も深呼吸をして気持ちを整える。
彩人は今、一人だから行くなら今だよね!
私は、勇気を振り絞って彩人の席に向かう。
「あ、あのさ、彩人?」
後ろから覗き込むようにして、彩人に話しかける。
それに対して、彩人は驚いたのか「うおっ!理香か……」と言って私の方を向いてくれた。
「どうしたの?何かあった?」
私は、心の中で再度深呼吸をしてから、本題に入る。
「あ、彩人はさ、委員会どこに入るか決めた?」
「ううん、決めてないけど……」
やった!まずは第一関門突破!
あとは、彩人を誘えばいいだけ……
「そ、それならさ!わ、私と一緒に文化祭実行委員に入らない!?」
私がそういうと、彩人は「う~ん」と少し嫌そうな顔をして考え始めた。
あっ、この反応は……
あははっ、そ、そうだよね……
やっ、やっぱり嫌だよね。
何となく分かってた。
バレンタイン以降、彩人は私と昔より頻繁には関わらないようになっていた。
私のこと、避けてるのかな……
恥ずかしいなぁ……
断られるのかな。
これで断られたら、告白なんて……
断られるかもしれないんだよね……
やっぱり話は無しにしよう。
断られたとき、多分私泣いちゃうから……
「あ、あのさ、やっ、やっぱり今の話は……」
私が、誘いを白紙にしようとしたタイミングで、答えてくれた。
「うん、いいよ」
「えっ、ほっ、本当に!?」
えっ、い、今「いいよ」って言ったよね!?
それって、私と同じ委員会に入ってくれるっていうことだよね!?
勘違いではないことを信じて私はもう一度、彩人に聞く。
すると、私が急接近したことで顔を真っ赤にしてもう一度「うん」と頷いた。
「やっ、やったぁ~!」
これで、彩人と同じ委員会に入れるかも……!
了承してくれたことが嬉しすぎてつい大声で思いっきり喜んでしまった。
は、恥ずかしいよぉ……
で、でも!彩人と同じ委員会!
「ありがとうね!彩人!」
「う、うん」
このタイミングで丁度六時間目の始まりを告げるチャイムが鳴ったので、私は大急ぎで席に戻る。
彩人と一緒に委員会の作業をするのを想像しただけで、私はとても幸せな気分になれた。
これをきっかけに、また……
あの頃みたいに、仲良く話したいな……
また、あの頃みたいに話せる様になるよね?
信じていいよね?
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しかも珍しく三千文字!
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