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邪神転生外伝~地獄の食いだおれ街道~  作者: 01
第六章 商業都市イザーク編
40/83

銀の指輪

―――――



 ウミネコの鳴く声が海辺から聞こえる。

 赤道に近いからかもう11月だというのに、暖かい陽気が続いている。


 新調した馬車を眺めながら手に持ったベクドコルバンを腕に馴染ませる。

 流石に1年近く使えば胴に入ってくるな。


 予備兵装には金属製のモーニングスターと新たに新兵器を導入する事にした。

 しかもここにきてオリジナルだ。


「タウ、その筒みたいなのは何かしら?」


「槍にしては短すぎるんじゃないの?」


 この世界に存在するあらゆる鉱石を収集していた物の中に、見慣れないものが存在した。

 臙脂石と呼ばれるそれは無色で燃焼させると激しい膨張を起こし後には水が残る金属固体、そう……金属水素だ。


(研究開発の話は聞いていたが実用化していたとはな……)


 金属の固体化は非常に高い圧力を必要として、木星のような高重力圏でなければ自然精製されないと言われている。

 赤くもないのに臙脂石と呼ばれているのは水素ボンベの色が赤だからか?


(名前を考えるのが面倒だな……単純にイジェクションスピアでいいか)


「ねーねー、私にも1本頂戴!」


「これは人数分用意してありますから後であげます。但し使い方には注意してくださいね」


 さて最後は車載武器の確認だ。

 バリスタの小型軽量化に成功したので簡単に車外から持ち運べるようになった。

 今の所、この装備はミュレーとリマに一任しているが、いずれ全員で扱えるようになりたい所だ……但し誤射しそうなパティは除く。


「何だか久しぶりの討伐です」


「ホント! すっかり体が鈍っちゃったわ。よーし、ダリア! 今日はどっちが敵を多く倒せるか競争ね!」


「負けません」


「はいはい、気を抜かないの……」


 何時の間にかパティがダリア相手にライバル意識燃やしてるな。

 あれか? 胸囲的な問題か?


 俺達は次々に馬車に乗り込むと、ダリアが御者台で馬に鞭を打った。

 商業都市で誰も受け手がおらず半ば放置されていた討伐対象との事だが、どうなることやら。


(ALW-036……ワイアームの1つ違いか)


「装備が変わってもお尻が痛いのは変わらないのね……」


「最近この痛みが癖になってきました」


 リマが新たな性癖に開眼した所で目的地の森の前に近付き停車、地面に杭を打ち込むと馬を括りつけた。

 陣形を組むとダリアが先行し森の中へと分け入っていく、こういう戦闘は随分と久しぶりだ。

 頭上に掲げた停止の合図をみると各々の持ち場へと散開する。


(ゴブリンが6体か……)


 ミュレーのバリスタが風を切りゴブリン達に矢の雨を降らせる、狙いが正確だから余計に凶悪だな。

 掃射を受けた6体のゴブリンはあれよという間に全滅してしまった。


「……終わっちゃった」


「まだよまだ! きっと強敵が潜んでるに違いないわ!」


 目標の敵がこちらに気付いたようだ。

 ALW-036の行動に合わせてオーガ3体、トロル1体、ゴブリン21体も行動を開始する。


 空を飛んでくる飛竜の姿が遠巻きに見える。

 ワイアームの上位種族か? 丁度良い、イジェクションスピアを試してみるか。


「あれはワイバーンね、ミュレーお願い」


「大型の魔物なら、もっと引き付けてからでないと……」


「パティ、ミュレー、試射しますので離れてください。それと噴煙が上がりますので後ろには立たないように」


 イジェクションスピアを構え照準機を立てる。

 使用感は対戦車ロケットと変わらないように製作した。

 引き金を引くと軽い反動と共に空気を劈くような轟音が響き、ワイバーンに向かってフレシェットが飛来する。

 着弾すると血煙を巻き上げながら目標は真っ二つに割れ、そのまま地面へと墜落していった。


(少しばかりオーバーキルだな、推進剤の量を減らすか)


「え゛!? 嘘? これで終わり?」


「あ、はは、まぁ楽に終わるなら、それに越したことはないわよね」


「ところで誰が採取に行くんですか?」


 リマの一言に視線が俺に集中する。

 はいはい解りましたよ、だが、残りの連中を片付けてからだ。

 敵が100m圏内に入るとメンバーも接近する敵の気配に気付き身構え始める。


 続いて茂みから現れるゴブリンの群れに、リマが突進するとハルバードを薙ぎ払う。

 体を断ち割られ周囲の木々に向かって跳ね飛ばされるゴブリンの体躯、ゴブリンの集団は何も出来ないまま撹拌されていく。


(戦国武将じゃないんだから)


「リマッ! オーガ来るわよッ!」


「わぅッ!!」


 ハルバードの軌道が変化、オーガの頭部目掛けて振り下ろされると頭部から胴体にかけて真っ二つに両断する。

 ……おっとこれは凡ミスだ。


「あ、あれっ!? 抜けません!」


「力入れ過ぎよ。リマは無理せず後退しなさい、ダリアッ!」


「わかりました」


 ミュレーの牽制射の後に両手にグラディウスを携えたパティが前線に躍り出すと、ゴブリンの急所を正確無比な動きで刺突する。

 喉笛、脇の下、肝臓、内腿、全て致命を伴う急所だ。

 ジャック君との手合わせでかなり学んだようだな、狙う部位が増えたことで掃討速度も以前とは比較にならない。


 対してダリアの戦い方は以前のパティの戦法に似た立ち回りだ、直刀の打刀で次々とゴブリンの首を刎ねていく。

 オーガの攻撃を紙一重で見切って交わすと交差した刀でオーガの首を刎ね飛ばす。


(パティのスタミナ不足をしっかりカバーできている、良いコンビだ)


「ミュレー、トロルに牽制を……」


「わかった」


 ミュレーの発射した矢がトロルの眼孔に突き刺さると、俺はべクトコルバンを握り締め勢い良く回転させる。

 肉体の強靭さは再生するごとにある程度最適化されるようだ。

 今ならフルパワーで3回ほど振れる。


 振り払ったベクドコルバンがトロルの両足を粉砕し周囲に肉片を撒き散らす。

 それに反応してパティが疾駆する。

 前のめりに崩れ落ちるトロルの延髄に剣を差し込むとそのまま上空で横転、全体重を掛けて首を切り飛ばした。


「よっと……ミュレー、終わり!?」


「んっ、どうやらもう居ないみたいね」


「結構居たわねぇ、ダリア何体殺った? あたし、ゴブリン5、オーガ1、トロル1ね!」


「ゴブリン7、オーガ1」


 トロルサポート1です。

 産まれてきて御免なさい……採集でもするか、ナイフを使いモンスターの部位を切り取っていく。


 しかし、原形を留めてる魔物がほとんどいないな、ふと視線を感じ振り返ると頬を染めながら手を上げて構えているパティがこちらを見つめていた。

 飽きないねこれも。


「イェーイ!」


 ……ギルドカウンターで清算を終えると、テーブルの上に銀貨を積み上げる。

 周囲の冒険者達の眼差しが痛い。

 名実共に超一流の討伐者となったパティを知らぬ冒険者は今やおらず、ドラゴンスレイヤーという事もあり。

 市井では舞台の演目になるほどの知名度だとか……実物は単なるへたれ猫なのに。


「じゃじゃーん! これって過去最高額じゃない? 今回の褒賞金しめて銀貨395枚よ!」


「商業都市だと他の地域よりもレートが高いのかしら?」


「交易の要ですからね、それだけ討伐に力を入れているということでしょう」


「……お母さんに仕送りしないと」


 ダリアは79枚の銀貨を受け取ると絹のハンカチを使い、目を瞬かせながら銀貨を1枚ずつせっせと磨いている。

 ハンカチですか? 皆とお揃いが良いと言うんで私が買いました、自費で。


「そろそろ、大型相手でも苦戦しなくなってきたわね」


「ドラゴンみたいな、超大型に比べると流石にね……きっと装備が良くなったからじゃないかしら?」


「タウ、さっきの槍があれば他の冒険者の討伐も楽になるんじゃない? 売らないの?」


「……これは非売品です」


 気楽に言ってくれるな。

 中世でも14世紀頃には既に中東から流入した銃の原型が存在したと言われている。

 だが、実用化されたのはそれから数世紀が経過した後の事だった。


 騎士の板金鎧を容易く打ち抜く兵器など市場に流通出来る訳がない、尤もフランス革命を見れば

 そういった技術の隠匿も無駄に終わったようだが。


「あんたって、そういうとこホントにセコイわよね」


「パティ、そんなこと言ってはダメよ。 タウは自分の作った武器を人間同士の戦争で使われたくないだけなんだから」


「そっか……ゴメン」


「まぁ、我々の飛び道具以外の武器や鎧なら既に流通させていますので御容赦を」


 それとは対照的に防御力を向上させて困る事など何もない、できれば炭化ケイ素系セラミックが欲しい所だ。


「あぁーそれね、できれば違うデザインで売って欲しかったわ」


「最近、私達と同じ装備を身につけた、冒険者の人が多い気がします」


(ユニフォームは売ってないんだがなぁ……コスプレか)


 一頻り話が終わると女性陣は俺の周囲を取り囲みながら、ルース商会の店舗へと歩みを進める。

 護送中の犯人じゃないんだから。


 店舗に足を踏み入れると、ルース君とサライ君が椅子に座って談笑していた。

 知り合ってからまだ1ヶ月も経っていないというのに、既に長年連れ添った熟年夫婦のような雰囲気を醸している。


「はぁ、良いなぁ、サライさん幸せそう」


「どっかの朴念仁もあれぐらい甲斐性があればいいのにね!」


(お前は倦怠期の嫁か)


 その後、腕に組み付かれた状態であちらこちらへと引き回されウィンドウショッピングという名の戦火に巻き込まれる。

 空襲警報発令! おい、この状態で下着コーナーに行くのは止せ!


「ここは4人の方が良いのでは?」


「だって手を離すと、すぐに逃げるじゃない!」


「タウ見て、この下着可愛くない?」


 ミュレーが男好きのする目付きで笑いかけながらパンツ? というか紐? のような物を指で広げている。

 防御力が低そうな装備ですね。

 ダリアは黒、リマは可愛い系のパンツを漁っている。


「タウはどーいうパンツが好きなの?」


(えっ? それに答えないと駄目なの?)


「こういう物でいいのでは?」


「はぁ? それってドロワーズじゃない。あんたやっぱり……」


 いえいえパティさん。

 今置かれているこの状況を省みれば、誰がどう見てもロリコンですからね。

 いっそのこと突き抜けてしまっても構わんでしょう、最早こうなった俺は誰にも止められんぞ!


「ふーん……ちょっとこれ買ってくる」


「お揃いで買っちゃう?」


 鼻をふんふん鳴らしながらドロワーズを持ったパティ達が会計に向かって走っていく。

 どういう光景だ。


 その場から立ち去ろうと後ろを振り向くと監視役のダリアに背中から抱きつかれ抑止される。

 でかいな、何がとは言わないが。


(……これが格差か)


「ありがとダリア、貴女の分も買ってきたわよー」


「頑張りました」


 背中にダリアの力強い鼻息が当たる。

 あの頃の君はもう帰ってはこないんだね。

 再び包囲網が敷かれるとお次は装飾品コーナーに突入した。

 案外手の込んだ細工物があるな、こういう商品なら歓迎だ。


(金貨や銀貨より明らかに質量小さいのに、指輪の方が高いってどうなんだ?)


「これキレー! あたしもこんな指輪着けてお嫁に行きたいなぁ……ねぇリマ!」


「本当に素敵です、憧れちゃいます」


「すごくぴかぴか」


 何だこの深夜通販のようなノリは、約一名やる気のないスタッフがいるけど、値札を見ると高い物はほとんど1金貨からだな。

 どうせその内欲しがると思って装飾品は一式分用意してあるんですけど……

 ただその事実を今ここで言うべきか隠すべきか、物価の高い国でねだられるもなんだし言っておくか。


「まぁ、こういうのは記念日に貰った方が嬉しいでしょう?」


「えっ!? 記念日って……どんな?」


 パティ達はわらわらと俺の前に群がりながら顔を見上げてくる。

 リマはどさくさに紛れて匂いを嗅がないように、バレてるぞ。


「一ヶ月後の新年祭ですとか……丁度その頃には共和国に帰還する予定ですし」


「ふーん、へぇー、ふーん」


 耳まで顔を紅く上気させながら、如何にも興味なさげな返答でパティが相槌を打つ。

 その後4人で円陣を組んでひそひそと何かを相談したかと思うとこちらの顔を横目で見て何処かへと去って行った、なんなのさ。


(……やっと開放された)


 宿への道を1人歩き、懐から布で包まれた4つの指輪を取り出す。

 5人のギルドメンバーが揃って初めて討伐で得た銀貨を鋳造して職人に頼んで拵えた物だ。

 なお費用は20銀貨も掛かりませんでした。


(流石に安っぽいって怒られるかな?) 



―――――

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