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25 修道女に子どもたちといえばコレが鉄板

お待たせいたしました。この次はもう少し早く更新出来るよう励みます。






 怒った怒った、ブ○にアイロン事件を超えて怒った。

「スネ夫は何処よ」

「は?」

 聞き返した傷顔の男を怒鳴り付けた。

「あんたらの親玉だ、さっさと呼びやがれ!」

 罵声を浴びせると、男は弾かれたように駆け出した。



 傷顔男に連れられてやって来た暫定ボスは、開口一番「この汚い子どもがなにかご迷惑を――」と口にした途端に、わたしのドロップキックを食らって悶絶中。騒ぎを聞き付けて駆け付けたでかい軍人風とロッテンが、あんぐりと口を開けている。


「あなた方の部屋に連れていって」

 子どもたちに声を掛けてから、悪役一味についてくるよう言って歩き出す。

 たどり着いたのは、半地下のじめっとした部屋。たぶん昼間も陽はささない。壊れかけた小さなベッドが並び、何人かが薄い毛布にくるまって眠っていた。手前の影が跳ね起き、慌ててベッドを降りて手を広げた。その身体にトマスが抱きつき、すすり泣いている。


「どういうこと」

 仁王立ちのわたしに、暫定ボスが話し出す。

「元々ここは、潰れかけた修道院で、残っていたのは、あのシスター一人とコイツらだけで……追っ手が調べに来たときの為に残しておきましたが、お目汚しなら始末――」ここでまた、わたしに正拳突きを食らって倒れるスネ夫、弱すぎ。

「わたしが一番許せないのは、こんな環境に罪のない子どもたちを置いて平気なあんたらの性根だ!謝罪と改善を要求する!」てな訳で、その日の内に陽の当たる部屋へお引っ越しを敢行しました。

 子どもたちは総員七名。一番年長は十五歳のマリア、井戸でトマスのシーツ洗っていたしっかり者のお姉さん。彼女よりひとつ下のビルは目つき悪いなあ、ずっと睨んでるし。双子のピーターとロイは九歳、七歳のアン、六歳のメイ、そして五歳のトマス。


 正直言って、誰も健康そうには見えない。動き回るのはシスターと年長組の二人、小さな子たちはぼんやり、ぐったりとしていた。 朝ごはんが、カビた小さなパンと水かと思うほど薄いスープなのを知ったわたしがまた暴れ、悪役一味の分まで強奪した朝食を食べさせるまでは。



「これからご飯は、この子達と一緒に、同じ物を食べる。わたしの服装からしても、子ども達の世話してるのが一番自然だからね」

 ご飯がきちんと食べられてるか、酷い目に合ってないか見ていたい、それに退屈も解消されて一石二鳥ってやつだな。

 洋服と靴、ベッドやリネン類を手配させたら、三日で揃った。やれば出来るじゃんっていうより、今までやらなかった事の方が信じられない。別に聖人君子気取ってなんかないけど、飢えた子どもと同じ建物に知らんぷりで住める奴らが、マジ理解不能。


…………絶対行かない、コイツらの主の所なんか。



 そう心に誓いを建てて、子ども達と過ごす日々は楽しい。正直城での生活より充実してる。お腹一杯ご飯を食べて、幸せそうにニコニコしているチビちゃん達が可愛くて仕方ない。最初は不信感漂わせていた年長組も、一日で打ち解けてくれた。栄養失調でフラフラだったシスターには、涙を流して拝まれた。今まで、たったひとりで子ども達を守って来た日々は、想像を絶する苦労があったようだ。


 子どもたちは日に日に元気になり、顔も生き生きしてきた。それなら次は当然、遊ばなきゃ!

 年齢差のある子どもが全員楽しめる遊びって、案外難しい。じゃんけんから教えて隠れんぼ、だるまさんが転んだ、新しい遊びにみんなの目がきらきらしている。

 自分が修道女見習いコスなので、やっぱりやりたいサウンドオブミュージックごっこ。マリアのアルトと変声期超えたビルのバリトンが予想外にうつくしくて、指導に力が入る。チビちゃん達もノリノリだ。

「歌詞はこっちの言葉に直さなきゃ覚えられないねー」

 あの有名な音階の歌は、ドーナッツもレモンも字数が合わなくて苦労した。ドは大地、レは太陽、ミは川でファは男達ってな具合で、なぜか畑の実りを願う歌に大変身。エーデルワイスは、花自体じゃなくて、花のように綺麗なお姉さんに愛を告げる歌になってしまいました。

 学校ではあんまり感じなかったけど、合唱って楽しいな。音を合わせてピタリと決まった時の充実感ったらハンパ無い。体力戻るまで安静中のシスターにご披露したら、大感激されてみんな嬉しそう。もっと教えてとねだられて、なんとか四五曲思い出した。子どもって覚えが良いから、すぐにレパートリーにしちゃうね。





 軟禁生活は一気に楽しくなったけど、枷が増えたなとも感じる。慣れてきたら一人で逃げようかとも考えてたけど、チビちゃん達連れて逃げるのは大変だ。でも一緒に逃げなきゃ。

 私がひとり逃げてしまえば、シスターと子ども達は殺される。きっと。


 かと言って、抵抗せずに残っていても、ここを引き払うときに口を封じようとするに違いない。あいつらなら、やる。「始末」という言葉を、するりと口にする奴らだ。間違いない。


「どうしたもんかなあ」

 溜め息を吐いたとき、双子の大声が、外から聞こえた。

「かくれんぼするぞートマス!サクラも来てよ!」

 昼寝から覚めたばかりなのに、行く気満々のトマスがベッドから飛び降りた。元気になった途端にやんちゃになって、ホント可愛くて困る。

「はーい、今行く。待っててねー!」


 不安は心にいったん仕舞って、サクラはトマスに手を引かれて歩き出した。


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