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神様、今日も転生者を眺めています  作者: 仲村千夏


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スキル:代償転写

 白光の中、少女が立っていた。

 小柄で華奢な体つきだが、目には強い意志が宿っている。


「よかろう、汝に問う。望む力は何か?」

 威厳ある声が響く。

 神である私は、今日もひとつの魂を選び、異世界に送り出す。


「……誰かの痛みや不幸を、自分に受け止められる力がほしいです」

 少女は小さく息をついた。

 その瞳は恐怖と覚悟で揺れている。


「なるほど。《代償転写》か」

 掌から淡い光が伸び、少女の胸に吸い込まれる。

 光は温かくも鋭く、彼女の魂に直接触れる。


「汝に授けるは《代償転写》

 他者が負う痛みや不幸を、一定の代償を払うことで自らに転写できる力だ。

 その代わり、己の体や心にも負荷がかかる。覚悟せよ——力を使うたびに、代償は重くなる」


 少女は小さく頷き、拳を握る。

 胸に芽生えた力の感触は、重くも頼もしい光だった。


「行け、新たなる世界へ。

 他者の痛みを背負う者よ、その心が世界を救うか、傷つけるか——それは汝次第だ」


 光が弾け、少女は消えた。

 私は背もたれに沈み、同僚神に目を向ける。


「さて……この子がどれだけ代償を支えられるか、楽しみだな」

 同僚神は肩を竦め、コーヒーを一口。

 またひとつ、新しい物語が始まった。


 異世界の街に降り立った瞬間、少女——カナは胸の奥で微かな重みを感じた。


 通りを歩けば、泣いている子ども、倒れている老人、傷ついた人々——

 その痛みや不幸が、まるで彼女の胸に波紋のように広がる。


(……これが、力……)


 最初の試みは、道端で倒れた老人だった。

 彼の腕の傷に手を触れると、瞬間、痛みが彼女の体に走った。

 同時に、老人の苦しみは和らぎ、表情が少し穏やかになる。


「……大丈夫、少し休んで」

 カナは息を整え、胸に痛みを感じながらも微笑む。


 町を歩けば、力は次々と呼ばれる。

 子どもの悲しみを軽くし、困窮する家族の不幸を和らげる。

 使うたびに胸や体に重みが残るが、助けた人々の笑顔がそれを和らげる。


 夜、宿屋で膝を抱えながらカナは思う。

(力は……強い。でも、重い……)


 代償は小さくない。痛みを受け止めるたび、体や心が疲弊する。

 それでも、誰かのために力を使う感覚は、胸を満たす温かさもあった。


 窓の外に差し込む月光に照らされ、カナは小さく頷く。

 ——この力を、ちゃんと生かす。

 他者の痛みを背負う覚悟を胸に、少女は翌日も歩き出すのだった。


 ある日、カナは大きな災害に遭遇した村にたどり着いた。

 倒壊した家屋、泣き叫ぶ人々、怪我を負った子どもたち——

 そのすべての痛みが、彼女の胸に一度に押し寄せる。


(……これ……耐えられるのか……)


 手を差し伸べるたびに、痛みと不幸が体中を貫き、息が詰まる。

 倒れた老人を助けると、胸の奥に鋭い痛みが残る。

 怪我をした子どもを抱くと、身体の震えが止まらない。


「ごめん……ごめんなさい……!」

 叫びたくなるほど、代償は大きかった。

 力を使えば使うほど、自分の体と心が蝕まれる感覚。


 夜、倒れ込むように宿屋の床に座り、カナは思う。

(助けたい……でも、このままじゃ、私が……)


 それでも、彼女は諦めなかった。

 痛みを背負うことは苦しい。

 だが、それ以上に、誰かの悲しみを和らげられる喜びがある——

 胸の奥で小さな光が、希望として灯った。


 窓の外の月光に照らされ、カナは深呼吸する。

(……痛みを受け止める力を、私のものにする。ちゃんと……生かす)


 代償の重さを胸に刻みながら、少女は翌日も再び村を巡る。

 力の本質を理解した者の覚悟とともに、歩みは止まらない。


 観測室の水鏡に、異世界の光景が映る。

 村の広場で、カナが倒れた家屋の前に立ち、子どもを抱きしめる姿。

 その背中には、数え切れぬ痛みと不幸の重みがのしかかっている。


「ふむ……また一人、重荷を背負う者か」


 隣の同僚神が、興味なさげに肩を竦める。

「便利な力ってわけじゃないのに、本人は大変だな」


「うむ。《代償転写》は美しい力だが、重さを理解しなければ破滅にもなりうる。

 人の痛みを背負えるかどうか、それが本人次第で成功と失敗を分けるのだ」


 水鏡の中、カナは再び村を巡る。

 助けるたび、代償を背負い、体は疲弊する。

 だが、彼女の瞳には、揺るぎない意志の光が宿っている。


「結局、彼女もまだ旅の途中だな」

 同僚神が肩を竦め、またコーヒーを啜る。

 私は玉座にもたれ、微笑む。


 転生者の人生は、今日も私の観察下にある——。

 力を与えた者の覚悟と、それをどう使うかは本人次第。

 代償を知り、痛みを背負いながら進む少女の物語は、まだ続く。


 光がひとつ弾け、次の魂が静かに光の中に消えた。

 また新しい物語が、静かに始まる。

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