39:ジョーカーさん時々雨
んー。雨降ってやがる。
「傘忘れたぁ」
アイリスは今日、ミナルトに話を聞くとミナルトと御井と帰っていった。どうやら、アイリスを呼んでも良かったらしい。
にしても、さっきまであんなに晴れてたのによ。やっぱ、梅雨の時期か……。
「陽向!」
「ん? ああ、美紅」
「ったく、教室で待ってろつっただろーが!」
「悪い悪い。お前、遅いんだもん。」
「仕方ないだろ! 日直だったんだからよ!」
美紅が頬を膨らます。俺は、笑って「悪い悪い」と謝った。
「あー。美紅。悪いけどよ。俺、先帰るわ」
「はあ!? 何でだよ! 幼馴染だろ」
「いや、幼馴染はかんけーねえよ。今日、傘忘れちまったんだよ」
「はあ? バカだろ」
「そんな直接言うなぁ! 今日、天気予報の舞ちゃんを見忘れたんだよ!」
「舞ちゃん!? お前、そこを見てるのかい! 天気予報を見ろ!」
「うるせぇ! 俺も健全な男子なんダァ!」
「恥ずかしい! 昇降口で叫ぶな!」
「ということで、俺、先帰る」
「何でだよ」
「いや、だから傘忘れちまったんだって」
「はあ? バ――」
「バカ言うな! 無限ループしちゃうじゃん! この話題終わんないよ!」
つ、疲れる。美紅も少し呼吸を乱してた。
「っ……はあ。で、走ってお前は帰ると」
「そ、そういうこと」
「ふーん。分かった。あたしがお前を傘に入れてやる」
「ハァ!?」
何言ってんだこいつ。さすがに、幼馴染だからって、それはできねーよ! 恥ずかしいっつーの。というよりも、明日生きる自信がなくなるんだよ! 男子の目って恐ろしいんだよ?
「いい! 俺、走って帰るから!」
俺は全力で否定した。コイツの傘、しかも赤だったよな。それじゃますますカップルに見えちまう!
「お前に風邪をひかれたら困るんだ!」
「何で!?」
「あたしがお前の幼馴染だからだ!」
美紅、お前、可笑しい! 何そのラブコメ主人公の幼馴染のよく言う台詞トップ10に入る萌え台詞!
「バ、バカ! 関係ねーよ!」
あ、俺も意外とベタに返しちまった。うん、いざとなると、これしか思いつかないね。
「う、うるさい! ほら、ともかく!」
美紅が俺の腕を掴み、傘を開いて強引に俺を入れる。痛い! 美紅、また握力強くなったよ! 言わないけど!
美紅が俺の腕を掴んだまま歩き出す。うげっ。つめたっ。おいおい、思いっきり雨かぶってます! 俺、既に濡れてます! 美紅さん、俺を入れるという割には俺、すごく濡れています!
ほら、周りが「何あのカップル?」って言ってます! 「何で、男の方は傘に入れてもらってないの? 相合傘じゃないの?」なんて事も言っていますよ!
「み、美紅さん!」
「ん?」
「お願いですから! 俺に傘を持たせてください!」
「はぁ?」
俺は無理やり美紅の傘を奪い取り、俺と美紅、半分ずつにした。
「ふぅ」
「あ、ありがとう……? 何で、陽向、濡れてるの?」
「君のせいだよ!」
泣きそうです。ホント。そーいや、昔もあったなぁ、こんな事。
「昔、お前、俺が傘入れるっつったのに、濡れて帰ったよな」
「ん? ……ああっ。あれはお前のせいだボケ!」
「ごふっ」
拳が腹に入れられる。傘を片手で持ってるから防げなかった。……多分、開いてても、防げませんでした。
「何で俺?」
「お前があたしの傘を持ってあげるっつーから、あたしが傘を貸したら、あんた小さすぎて、あたしが入らなかったの!」
「ええっ」
そーいや、幼い頃は美紅の方が背は高かったけど。今も数ミリしか勝ってないけど。
「あたしが、傘を返せっつっても、あんた離そうとしなくて、『どーせ俺んちくるんだろ!』なんて言いやがって、逃げるように走ってったんだボケ!」
そ、そんな事が…………。
「こ、子供って無邪気だね?」
「ふんっ」
「ぐふっ」
しばらく美紅の機嫌は悪そうだ。