Ⅰ
ジャンルを「恋愛」にしたのですが???
ちょっとどうでしょうか??
何かお気づきでしたらお知らせください。
よろしくお願いいたします。
七月のはじめ、蔵田康子宛に三野佐香那から葉書が届いた。郵便局が発行している書中見舞用のくじ付き葉書に、字の粒のそろった見慣れた佐香那の字がならんでいた。
『康子。元気?
ごめん、ぜんぜん連絡もしないで。心配した?
私は、やっとやる気出しました。美邦の残してくれたもので、喫茶店を始めたの。
いつでもいい、遊びに来てね!
話がうーんとあるの。待ってるから』
喫茶店の場所は自由が丘で、簡単な地図が書いてあった。
康子は、やれやれといった表情で葉書を見つめていた。ちょうど二年前から、佐香那とまったく連絡がつかなくなっていた。
佐香那とは中・高校続いた女子校時代からのつきあいで、佐香那の旧姓が倉木だったので、クラキ、クラタと名前が続いて、康子はいつも佐香那の後ろ、あるいは横に並ぶことが多く、ずっと仲が良かった。今まで行き来が途絶えることはなかったのだ。
康子は未だに独身だったが、佐香那が結婚してからもひと月に一回はなにかにつけて会っていた。
自然に連絡が少なくなってそのままつきあいがなくなる友人なんて何人もいるのだから、それなら特に気にかかることもなかっただろうが、佐香那の場合それがとても不自然だった。
それまで住んでいたマンションは引き払い、電話も携帯電話も不通になって変更先さえわからない。
最後に佐香那から電話がかかってきたのは、康子が会社の同僚と飲んでいた居酒屋で、その時康子は酔っていたし、居酒屋のざわめきの中で佐香那の声は聞きとりにくく、話した内容などはまったく覚えていない。
その次の日は土曜日で仕事がなかったので、康子が起き出したのは昼近くだった。二日酔いぎみでぼんやりしていたけれど、なんだか気になって、康子の方から佐香那に連絡してみたのだ。そうしたらもう自宅も携帯も電話は「使われていない」状態になっていた。
その年、佐香那は夫の美邦を火災で亡くし、どっと落ち込んでいた。康子は心配して、佐香那を励まそうとしていた。いつもより会う頻度は高くなっていたし、いろいろ相談にものっていたのに。
康子は変に思って佐香那の実家に連絡した。
「ああ、康子さん! ごめんなさいね。佐香那は元気なんですよ。でもね、ご連絡先をお教えできないの。ほんとうにごめんなさいね。いつもいろいろ、おせわしていただいたのに…」
佐香那の母が、受話器の向こうで何度もおじぎをしながら、すまなそうに答えている図が頭に浮かんだ。それ以上この母親に「どうして?」と問いつめるのも気の毒で、何も言えなくなってしまった。
電話を切ると腹の底からふつふつと佐香那に対する怒りがわいてきた。
いつも、佐香那には振り回されてきた。学生時代から美人で頭が良くて、性格が良くて、と三拍子以上揃っていた佐香那。そんな佐香那に頼りにされることが、康子にはうれしくもあったのだが…、時折、佐香那が見せる優越感に似たような態度。裕福な家庭に育ち、優しい母親に愛されて、ずっとちやほやされてきた佐香那に康子の気持ちなど一生わからないだろうな、と思うことはこれまでにも何度かあったのだ。
連絡が途絶えていた二年の間、それでも康子は気になって、数回は佐香那の実家に電話してみた。佐香那の母からは相変わらずの煮え切らない返事。年老いた母親を責めるわけにもいかず、その分怒りが心の底に積もってゆく。
「ったく、勝手なんだから! もう絶対に電話しない!」
電話を切った直後はそう思うのだ。だがまたしばらくするとどうしても気になってくる。どうしても、そのままぷっつり佐香那と会うことがなくなるとは思えなかった。
「もう! 人のこと心配させておいて! いったい何なんだろう」
康子は苦笑いしながら佐香那の暑中見舞いをバッグにしまい込んだ。この二年間のうらみつらみを面と向かって吐き出せば、さぞかしすっきりすることだろう。そして、佐香那の話もじっくり聞くことにしよう。
二年前の五月。佐香那を訪ねた日のことを、康子は思い出していた。
その三月に、佐香那の夫の美邦が事務所にしていたマンションの一部が火事になり、美邦は亡くなった。家に引きこもりぎみになっていた佐香那を心配して、康子は佐香那を訪ねたのだった。




