↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い神  作者: 小春日和
死者の想念
89/104

漆黒 3

 お兄ちゃん、どうして見つからないの? お兄ちゃんも何か悩んでるの?

 恐怖や孤独といった呪縛から解かれた美耶は、未だに結界の内に甘んじている兄の本心を気づかう。

 『タカシ』は迷っているのかもしれん。

 脳の奥のほうから持衰の助言が届いた。

 自分の存在がお前に迷惑をかけていることを、『タカシ』は幼いころから知っていた。だから出るに出られないのかもしれん。


 子どものころ、兄の学校の書類に、母が自分の名前を『安江』と書きこんでいたのを見て、美耶は首を傾げた。

「どうして嘘の名前を書くの?」

母は笑いながら、

「崇志にとっては、この名前が本当のお母さんなのよ」

と答えた。

「あたしはお母さんのことなんて呼べばいいの?」

と聞くと、

「崇志に合わせてあげて」

と言われた。

 お兄ちゃんのためにあたしまで嘘をつかなきゃいけないんだ、となんとなく憤然としたものを覚えた時期だった。


 お兄ちゃんは、うちの中では1番大事にされてたじゃない。それが嫌だったっていうの?

 食いさがる美耶に、持衰は諭す。

 そんな優劣を喜ぶような兄に見えたか?

 劣勢の不満に甘んじていた妹は、初めて、優先された兄の心苦しさに思いが及んだ。

 ……お兄ちゃんは、ずっと平気な顔してたよ……?

 裕貴の背を掴んだまま、立ちどまって、胸を抑える美耶。

 先刻の胃へのダメージが、体内に浸透し、心臓を締めつけ、呼吸を弱める。

 だからあたし、お兄ちゃんは恵まれてるから、あたしのことも構ってくれる余裕があるんだと思ってたの。優しいとこは好きだったけど、でもきっと、あたしがもっとわがままになったら、簡単に見捨てられるんだと思ってたの。だからね……一緒にいてくれる間は嬉しかったけど、いつ嫌われるんだろうって怖かったのもあったの……。


「?どう……」

急に止まった少女を訝しんで手を出した裕貴に、美耶は倒れこむように縋(すが)った。

「……交代するね。あたしじゃあ、お兄ちゃんを見つけられないから……」

意味不明なことを囁いて、ぐったりと身を預ける。

 慌てて支えた裕貴の腕の中で、いったん、失神したように見えた少女は、でもすぐに目を開いた。

 気だるそうに頭を上げ、漆黒の髪を揺らしながら、妙に大人びた風貌を裕貴に向ける。

 そして、凛とした声で言い放った。

「荒魂の支配から抜けたお前では、もう結界を破ることは無理だ」


 それから持衰は、わけがわからず固まる青年の手から、警棒をひったくった。

 『タカシ』は荒魂によってつけられた傷を負っている。その傷と『おれ』が繋がれば、『タカシ』の居所を知ることができる。

 覚悟のいい巫女は、ためらいもせずに、力を込めて自らの胸部に凶器の先端を突き入れた。


 持衰自身も思わず後悔するほどの苦痛が襲う。

 その中で。

 だから持衰に任せるのは嫌だったの!

 と泣きそうな美耶の声が無謀な巫女を非難した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。